コロナ禍により大幅に進んだリモートワークですが、すでに、新しい働き方として定着しつつあります。その一方、リモートワークが増えたからこそ、人と人とが対面することで生まれる価値が見直されている側面も。
ニューノーマルの時代、私たちはどういった働き方、そしてコミュニケーションを選ぶべきなのか。
今回は、国内最大の“働き方の祭典”「Tokyo Work Design Week」のオーガナイザーを務める横石崇さんと多彩な働き方をするビジネスパーソンが集う「SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)」の運営に携わる星川和也さんにお話を伺いました。
個人も企業も働き方を見直す岐路に立たされている

──今年のコロナ禍では、どの企業も半ば強制的に働き方を見直すことになりました。これは、大きな転換点となるのでしょうか。
横石:岐路に立っていると思います。働き方改革は人口減少に備えた生産性の向上が大きなテーマでしたが、今回はより本質的な変革が求められます。コロナ禍では「仕事とは会社に行くことではなく、価値を生み出すこと」だと多くの人が気づいたのではないでしょうか。コロナが収束するまで一時的な対処としてリモートワークを取り入れようと考えるのか、抜本的に組織や働き方の構造自体を変えてリモートワークを取り入れるのか、企業も個人もその岐路に立たされていると考えるべきです。
──横石さんは、リモートワークに肯定的な立場ですか。
横石:自ら働き方を選べることは重要だと思っています。元々、GAFAなどに代表されるシリコンバレーのカルチャーでは、10年ほど前にリモートワークを取り入れる機運がありました。しかし、定着しなかった。イノベーションを生み出すには、議論や対話も重要ですが、何よりも脱線や雑談が重要。生身の人間同士がコミュニケーションをとってエネルギーをぶつけないと、新しい価値が生み出しづらいことに気づいたんです。
Googleの社屋が遊び心にあふれ、食堂なども立派なのは有名な話ですが、これは快適な環境を整えることで、会社に少しでも長くいて欲しいから。ホンダの創始者である本田宗一郎が作り上げた職場環境がワイガヤ(ワイワイガヤガヤした環境)で、そこからイノベーションが生まれたといった事例がありますが、まさにそのような環境を整えているのです。
コロナ禍で強制的にリモートワークが始まりましたが、イノベーションを生み出すワイガヤな場をどうやって生み出すかが、大きな課題になっています。企業は集合と分散のハイブリッドな仕事環境を整えて、どのような組み合わせでも平等に働ける機会を提供しなければなりません。そして、働く側はライフステージやスタイルに合わせて、自主的に働き方を選べるようになるのが理想ではないでしょうか。そう考えると、選ばれるオフィスをつくらないといけないのです。
──最近ではコワーキングスペースやサテライトオフィスも増えてきています。
横石:一カ所に集まらずに離れて働くことは、スタンダードになっていくでしょう。私も自宅に加えて「SHIBUYA QWS」で仕事をすることもあれば、自らが鎌倉で運営しているシェアオフィス「北条SANCI」で仕事をすることもあります。コロナ禍になってから、「北条SANCI」への問い合わせは増えましたね。
問い合わせは特に大企業勤めの方が多いです。自宅でのリモートワークを経験して、「都内まで出勤する必要もなくなったけど、ずっと自宅で働きたくない」と考える人も多いようです。以前はフリーランスなどの一部の層が中心だったのですが、多くの人が自分で働く場所を選べるようになったのは、コロナ禍による大きな変化です。

──横石さんも利用している「SHIBUYA QWS」は、働く場所の多様化という文脈では、コロナ以前から取り組んでいますね。どのような施設なのでしょうか。
星川:「SHIBUYA QWS」は、渋谷スクランブルスクエア株式会社が運営する、多様な人々が交差・交流し、社会価値につながる種を生み出す会員制の共創施設です。コンセプトは、「渋谷から世界へ問いかける、可能性の交差点」。「QWS」とは「Question with Sensibility」、「問いの感性」という意味で、物事に対する問いかけ方を磨き、いろんな角度から検証することで、多彩なアウトプットを生み出すことを目的としています。そのアウトプットに、スクランブル交差点のような多種多様な人たちを掛け合わせたら、セレンディピティ的に新しい価値が生まれるんじゃなか、そんな発想から生まれました。スタートアップによる事業創造のさらに手前、なにかしらのアイデアの卵が誕生する場所です。
横石:「SHIBUYA QWS」には、経営者、企業に属している人やフリーランサー、文化人などさまざまな人が所属しており、お互いの壁が溶けている状態。これまでの仕事は、know-how(ノウハウ)、つまり相手の会社や組織が積み上げてきた専門的な技術や知識が重視されていました。しかし、壁が溶けた状態で大事なのは、know-who(ノウフー)と言われています。「この人はどういった役割を担うことができるのか」にシフトしつつあるのです。「SHIBUYA QWS」は「誰と働きたいか」を体感できる場所だと感じてます。
星川:まさにそこを目指しています。「○○社の××さんと働きたい」ではなく、××さんのキャリアに注目して、これから自分がやろうとしていることで助けてもらえるかという視点。逆に言えば、自分のキャリアで助けられる人を探す。そういった出会いをセレンディピティ的につくるのが、「SHIBUYA QWS」の役割です。その分、4月の緊急事態宣言で止むを得ず2カ月休館となり、実際に会えない状態になったときには、苦労しました。
トークルームや掲示版で、人との出会いから生まれる化学反応を誘発させる

──緊急事態宣言時には、どういった対策を取られたのですか。
星川:以前から使用していた「LINE WORKS」が、メンバー内で飛躍的に活用されるようになりましたね。
──いわゆる、ビジネス版のLINEで、情報や予定を共有しあって活動する、組織・チームのためのコミュニケーションツールですよね。
星川:「SHIBUYA QWS」をオープンするにあたり、コミュニケーションを取る上でSNSの必要性は感じていました。当然、大勢が利用しているLINEも検討したのですが、ビジネスシーンで初めて会った人とのLINE交換を躊躇する人もいるでしょう。「LINE WORKS」なら、プライベートのLINEとは別にアカウントを持つことができるので、交換のハードルも下がり、交流を加速させられると考えました。
入会している会員さんは全員、我々の負担でアカウントを提供しています。考え方としては「SHIBUYA QWS」が会社であり管理者。会員は社員みたいなもので、管理者からアカウントが付与されるといった仕組みです。
ほかにも、いくつかのチャットツールを検討したのですが、やはり、LINE WORKSが一番馴染み深くて、誰もがすぐに使いこなすことができると思いました。10代から90代の会員がいるので、LINEと同じUIは大きな決め手になりました。
今は、「LINE WORKS」に「MyPlace for Coworking(MyPlace)」をAPI連携させています。「MyPlace」は、ビーコンを利用して会員の位置情報を把握できる「SHIBUYA QWS」の独自アプリです。「MyPlace」の画面で話しかけたい相手が近くにいることがわかれば、「LINE WORKS」の画面に移ってメッセージを送ることができます。

──「LINE WORKS」の管理者は「SHIBUYA QWS」の事務局だと思いますが、具体的にはどう活用していますか。
星川:「SHIBUYA QWS」では、企業人やクリエイター、研究者など多様な人々が、肩書きや立場、分野を超えて「問い」を立て、プロジェクトチームを組成して活動しています。
事務局では、「LINE WORKS」のトークルーム機能を利用して、30を超えるプロジェクトへの連絡や進捗確認を行っています。管理者は過去ログを追えるので、それぞれのプロジェクトのやりとりを把握した上で、そこに適した支援者や共感しそうな会員をつないで、コミュニケーションを活発化させることもできます。
もうひとつの活用が、掲示板(ホーム)機能です。会員は掲示版にプロジェクトの活動内容などを投稿したり、自分が所属する会社やコミュニティの取り組みを投稿したりしています。それを見て、興味をもった会員が直接トークを送るなどして、交流が始まります。
トークルームも掲示版も、化学反応を誘発させる機能です。たまにはイタズラっぽく、あえて無関係な領域の人同士をつないだりすることもあります(笑)。そこから、思いもよらない新しい価値が生まれたりもしていますよ。

──「LINE WORKS」のようなツールは、これからの働き方にどのような可能性を生み出すのでしょうか。
横石:いつでも手軽にコミュニケーションを取れる「LINE WORKS」を使えば、自宅にいてもどこにいても孤独感を減らすことができそうです。ただ、それ以上に注目したのは、「LINE WORKS」がスマホファーストで作られていること。今後は一カ所でじっと座って仕事をするスタイルは復活しないと思います。場所に囚われることなく、人は移動しながら働くようになるのではないでしょうか。
そうなると、当たり前のように言われていたPDCAも時代遅れになります。計画して動くのではなく、動いてから計画を立てることがスタンダードになるかもしれない。当然、コミュニケーションもより密に、スピーディーで細切れになります。それには、パソコンよりもスマホが向いているわけですから、スマホを中心にした業務プロセスへの適応が図られることになるでしょう。
──先ほど、リモートワークはワイガヤを生み出すことが難しいとの指摘がありました。イノベーションを生み出すようなチャットツールの使い方はありますか。
横石:対面コミュニケーションで生まれる創発の感覚を、そのままチャットツールで再現するのは難しいと思います。チャットツールに限らず、オンライン会議などでは、何かしらの目的や意思を持って集まることが多いので、脱線が起きづらい。隙がないんですよね。しかし、面白さや新しい解釈というのは脱線や余白と呼ばれるようなズレから生まれることも多いですよね。そういった意味では、チャットツールでもできるだけ柔らかく使うのがいいのではないでしょうか。
「LINE WORKS」でいえば、例えばスタンプの活用。どんなスタンプを使うかは、その人の人柄を如実に表しますし、言葉を介さないわけですから感覚的なコミュニケーションにも向いています。普通のチャットツールやメールにはないノンバーバルな仕組みですから、そのズレを楽しむことでリアルなコミュニケーション以上の盛り上がりも期待できます。

星川:「SHIBUYA QWS」に会員は多種多様。先ほども話しましたが、年齢だけでもこれまで10代から90代まで会員がおり非常に幅があります。普通だったらコミュニケーションをとらないし、どう取っていいか分からない相手も多い。そんなとき、スタンプを上手く活用すると、会話のきっかけになります。私もよく使いますよ。
「LINE WORKS」で出会いを誘発して、セレンディピティにつなげる

──これまではデスクワークを中心に話が進みましたが、リモートワークできない仕事も存在します。コロナ禍ではエッセンシャルワーカーが注目されましたが、現場での働き方も変わるのでしょうか。
星川:まさに、コロナ禍でのさまざまな取り組みは、現場の働き方を大きく変えるチャンスでもあると思っています。私は、JR東日本から出向してきているのですが、以前は駅員として勤務していました。まさに、コロナ禍でも休むことができない、現場の業種です。
ただ、将来的には駅員の数も減ると感じています。例えば、昔と比べると、自動改札になって駅員は減っています。今はまだ、電車に乗務員が乗っていますが、将来は無人で走れるようになるはず。
実際、JR東日本は働き方改革として現場の効率化を進めていますが、現場の業務でも、自分たちで新しい働き方の価値を作り上げていかなくてはいけません。一例を挙げると、「申し送り(朝礼)」があります。駅をはじめとして、警察、消防、病院など、交代時には情報伝達があるのですが、今のやり方では、重大事項が発生したときに、担当者によって半日、1日のタイムラグが発生します。
もし、「LINE WORKS」のようなコミュニケーションツールを導入すれば、そういった情報格差もなくなります。また、各自が申し送りを確認できれば、そのための朝礼を無くすことができて、効率化にもつながります。

横石:テクノロジーを現場で上手くいかせるか、そうでないか。これからは、はっきりと二極化してくるのではないでしょうか。それはスタッフ間のコミュニケーションだけの話ではありません。例えば、ある居酒屋が「LINE WORKS」を導入し、QWSがコミュニティ運営に活用するように、お客さんとのコミュニケーションにも使ってみる。メニュー作りやお店を盛り上げるプロセスに一員として参加できることは、特別感や付加価値にもつながります。
──アフターコロナの時代、コミュニケーションのあり方は多様化し、さまざまな選択肢が生まれそうです。「SHIBUYA QWS」はどのように進化していきますか。
星川:リモートワークを経て分かったことは、実際に集まる「場」の価値がより明確になったということ。オンラインだけではまだ再現しきれない、偶発と誘発を促す仕組みが大きな価値になるはずです。偶発はまさにセレンディピティですね。たまたま隣の席の打ち合わせ内容が聞こえてきちゃった…みたいな。
誘発とは、例えば「SHIBUYA QWS」のスタッフが間に立って、本来なら出会わないような人と人をつないだり、「LINE WORKS」を上手く活用してプロジェクトに人を誘導したりすることで、出会いを促すことです。
横石:「LINE WORKS」を始めとしたチャットツールは、誘発に向いていますよね。チャットツールで誘発して場にいざない、リアルな場で偶発的な出会いを生みだす。そういった使い分けこそが、あるべき姿なのではないでしょうか。
つなぐ、出会うというのは、意外に時間と手間がかかる作業です。しかし、「LINE WORKS」を使えば、その時間を大幅に省略することができる。
そうやって新たに生まれた時間こそが、人間を幸せにするためのキードライバーだと思っています。家族との食事や睡眠時間、自分の没頭できる時間をしっかりと確保すること。あらゆるテクノロジーは、時間を生み出してくれるためにあると言っても過言ではありません。デスクワークであっても立ち仕事の現場であっても、それは自身の幸せへ直結することなんです。
チャットツールなどで効率化が進んだり、業務の時間が短縮したりすることで、仕事が奪われるのではなく、働く人が自発的に働き方や生き方を選べる社会になると信じています。
【現場に強い 仕事用のLINE】LINE WORKSの詳細についてはこちら
Photo: KOBA
Image: LINE WORKS
Source: LINE WORKS