「自分はランニングをしている」と話すと、必ずと言って良いほど誰かから、膝を傷めることになるよと警告されます。

ランニングは膝を悪くするという考え方が広く浸透しているのですが、実際にそれを裏付ける証拠が多いわけではありません。

ニューヨーク大学ランゴンメディカルセンターのスポーツ整形外科医Cordelia Carter氏は、「ランニングで膝が破壊されることはありません」と話しています。

それどころか実際には、ランニングには、定期的なエクササイズで得られるあらゆるメリットに加えて、膝を保護する効果があるという証拠が数多くあるのです。

とは言え、エクササイズが原因となって生じる故障を、魔法のようにすべて防げる方法はありません。

ランニングは多くの人にとって有益ですが、自分の身体の能力と限界を把握することが大切です(Carter氏は生まれながら膝を傷めにくい人もいる」と述べています)。

また、膝を傷めないよう、注意深く予防することも大切です。

では、ランニングが膝に与える影響について、何がわかっているのでしょうか?

ランナーの膝関節炎発症率は低い

ランニングは、かつて考えられていたほど体にとって有害ではないかもしれません

それを示す最初の手がかりは、ランナーとそうでない人を比べた時に、ランナーのほうが統計的に膝関節炎の発症率が低いという事実です。

ランナーとそうでない人を比べた20年にわたる調査では、エックス線検査で膝関節炎の兆候が見られたのは、ランナーで20%だったのに対し、そうでない人では32%という結果が出ました。

膝を悪くしたランナーはランニングをやめてしまうため、ランナーでない人として数えられてしまうという反論もありますが、2000人を対象にして数年にわたり追跡調査をした別の研究では、現役ランナーと元ランナーのどちらも、膝関節炎の発症率が低いことがわかりました。

膝の痛みでランニングをやめたのであれば、元ランナーの膝関節炎発症率は、低くなるのではなく、高くなるはずです。

ランニングは、膝の軟骨を強化する可能性がある

最近の研究では、ランニングは膝の軟骨を強化することで保護効果があるという可能性が示唆されています。

かつては、軟骨の自己修復能力には限界があり、ランニングによる衝撃の繰り返しで軟骨が摩耗し、関節炎になると考えられていました。

しかし動物実験では、走る動物は、走らない動物よりも軟骨が厚いという結果が出ています。

2020年に発表された研究では、このことが人間にも当てはまるかどうかが調べられました。研究者らはそれを確かめるために、ランニング中の膝にかかる負荷の計測データを用いて、軟骨への影響がどのくらいになるかをシミュレーションしました。

シミュレーションでは、軟骨の自己修復能力に限界がある場合と、その限界を若干超える自己修復能力が備わっている場合という、2つのシナリオを比較。

その結果、もし自己修復能力に限界があるとすれば、ほぼすべてのランナーどころか、日常的に歩いているかなり多くの人も含めた非常に多くの人の膝で関節炎が発症するはずであることがわかりました。

でもそれは、関節炎の統計値とは食い違っています。実際の関節炎の発症率は、軟骨にかなりの自己修復能力が備わっている場合のシナリオと一致しているのです。

それでも、トレーニングが適切でない場合は膝を傷める場合がある

ランニングが膝に良いことを示す証拠はたくさんありますが、だからといって、ランナーが膝を傷めるリスクがゼロというわけではありません。

膝蓋骨(しつがいこつ:膝の皿)の下にある軟骨が柔らかくなってしまい、痛みが生じる「膝蓋軟骨軟化症」は、しばしば見られる症状です。

治療には理学療法が必要になることも多く、トレーニング戦略の調整も不可欠です。

Carter氏が述べているように、毎日欠かさず、ひたすらランニングばかりしていれば、膝を傷めてしまう確率は高いでしょう。

膝蓋軟骨軟化症は、筋肉のバランスの悪さ、走り方の問題、走行距離の急激な増加など、さまざまな問題で引き起こされます。そのため、トレーニングの強度を上げる時には十分な注意が必要です。

また、シューズはサポート性が高いものを選びましょう。擦り減ってしまったシューズは取り替えることも大切です。

筋肉バランスの悪さによって膝蓋軟骨軟化症を発症した場合は、理学療法を受けて治すケースが多くなります。

一般にバランスを崩す原因となる筋肉には、体幹をはじめ、股関節や骨盤の筋肉などがあります。

Carter氏によれば、治療は「筋群のバランスを取ることと、あまり使われていない筋肉をターゲットにすること」でおこなわれます。

ランナーは、特定の筋群をとても上手に使えるようになりますが、それ以外の筋群には無頓着なのです。

クロス・トレーニングと強化運動を採り入れる

膝の痛みの原因となる筋肉のバランスを崩さないためには、全体的なアプローチでトレーニングを行うことが必要です。

そのためには、筋トレやさまざまな有酸素運動といった多様なエクササイズを採り入れ、休憩と回復に十分な時間をとり、走る距離や強度を徐々に上げていくようにします。

Carter氏は、ヨガなどの運動をすすめています。

そうした運動は体幹を鍛えるほか、ランニングにはない回転運動も含まれるので、故障の防止に役立ちます。

体を強化する効果があるエクササイズなので、私はヨガを、自宅で行う理学療法のように利用しています。


Source: PubMed(1, 2), Runners, NYU