怒りや恐怖、不安、絶望といった強く激しい感情は、心身を疲弊させるものです。
そうした感情を表に出して周囲の人を動揺させることのないように、あるいは、感情を抑制できない見苦しい人と思われるのを避けるために、気持ちを自分の心にしまっておこうとするのは自然な反応です。
とはいえ、感情を抑え込みすぎるのも、それはそれで、感情を抑制できないのと同じくらい有害です。
では、日ごろから感情を抑え込んでばかりいると、メンタルヘルスや人間関係にどのような影響があるのか、それをやめるにはどうすればいいのかを、説明していきましょう。
感情を抑えすぎると、周囲から孤立する
ご存知のとおり、自分の感情を見て見ないふりをしても、それが魔法のように消えてしまうわけではありません。
感情が生み出すストレスや苦しみが内にこもってしまい、結果的にますますストレスや辛さを感じるだけです。
そうするうちに、自分は本当に孤独な人間だと思うようになるかもしれません。そんな気持ちを抱えているのは、世界中で自分ひとりであるかのように。
こうした状態を放置すれば事態は悪化する一方だ、とノース・イースタン大学の行動科学教授Kris Lee博士は、心理学メディア「Psychology Today」に寄せた記事で指摘しています。
人間は、隠せば隠すほど、もっと隠したいと思うようになります。落ち込んでいるときには、誰かに助けを求めるよりむしろ、他人に知られるのを避けて、孤立したままでいようとします。状況を少しずつ改善して前に進むための行動を、いっさいとろうとしません。
こうした孤立感こそが、感情を過度に抑え込む行為を非常に危険なものにしているのです。親しい友人や家族、セラピストなど、あなたをよく知る人たちは、何かがおかしいと気がつくかもしれません。
けれども、自分から打ち明けない限り、彼らにはあなたの気持ちを正確に知るすべはありませんよね。
感情を抑え込んでいると、友人や家族の目には、あなたがよそよそしい態度を取っているように映ります。
彼らは、何かあなたを怒らせるようなことをしたのではないかと心配したり、さらに悪いことに、あなたはそれについて話す気がないらしいと考えるようになるかもしれません。
また、恥ずかしさや、批判を恐れる気持ちから、セラピストに対して胸の内を明かさないのは、それ以上にまずいことだと言っていいでしょう。問題が存在していることすら知らなければ、助けの手を差し伸べることはできません。
一方、職場では当然ながら、感情を抑え込んでいてもさほど問題はありません。それでも、まったくリスクがないわけではないのです。
個人的な悩みを抱えていて仕事に集中できず、上司や同僚に気づかれてしまうほどの状態であれば、たいていの場合、明かせる範囲で事情を明かしたほうがいいでしょう。
優れた上司なら、仕事の出来にかかわらず部下のことを気にかけてくれるでしょうが、そこまで理解のない上司でも、事情をほんの少し(適切な範囲で)伝えておけば、仕事に集中できないのは怠惰なせいだとみなされずに済むかもしれません。
感情を抑え込む癖を治すには
他人に心の内を明かすには、多少の慣れが必要です。心の内を明かすことを過去に止められた(あるいは、それを罰された)経験があるならなおさら、簡単にはできるようにならないでしょう。
はじめは、小さなことからで構いません。自分がどんな気持ちを抱いているのかを見きわめて、その気持ちをしっかりと受け止める練習をしましょう。ひとりで練習するのでも、セラピストの助けを借りるのでも構いません。
自分が抱いている感情を表現する言葉が見つかれば、他の人にもずっと話しやすくなります。
自分の感情を打ち明ける具体的なタイミングや方法は、それを聞いてくれる相手によって異なりますよね。考えられる一番安全な相手は、信頼できるセラピストです。
セラピストは、患者がどのような感情をぶつけてきても、対応できるように訓練を受けていますから、自分を抑える必要はありません。
家族や知り合いに相談する前に注意すべきこと
相手が家族や友人である場合は、どんなときも事前に確認をとるのが得策です。要するに、悩みを長々と書き連ねたメッセージを、やみくもに送ってはいけないということです。まずは、難しい話をしてもいいタイミングか、確認してください。
「最近悩んでいるんだけど、話を聞いてもらってもいい?」というひと言で十分です。万が一にも「ノー」という答えが返ってきたら、その判断を尊重しましょう。相手を悩ませてはいけません。
ただの知り合いや同僚、あまりよく知らない人が相手の場合は、自分の感情をどのくらい打ち明けていいものか、判断が難しくなります。
そういうときは、慎重に考えることです。
たとえば、心の病を持つ人を公然とあざ笑うような人は、その場の思いつきで、自分のうつ状態を打ち明ける相手としてはふさわしくないでしょう。
けれども、相手が上司で、メンタルヘルスの問題に配慮してもらう必要があるなら、その話題を避けて通ることはできません。その場合は、具体的かつ正確な言葉で伝えるのが効果的です。
もちろん、こと細かに生々しく説明する必要はありませんが、「気分がすぐれない」という曖昧な表現よりも、「うつ」「不安」「パニック障害」(これらはほんの一例)といった言葉を用いたほうが、相手はあなたの訴えを無視しづらくなります。
それに、言ってみなければわからないものです。
こちらが知らなかっただけで、もしかしたら相手には、自分と共通の経験があり、それを介して絆が生まれる可能性もあります。そうすれば、孤独感もずいぶんと和らぐでしょう。
Source: Psychology Today