解決しなければならない問題は、常にたくさんあります。メールボックスを開けてみれば、きっと何かしら問題が起きていて、手を加えなければならないことがあるはずです。

問題をすべて解決するには時間も能力も足りないでしょう。したがって優先順位をつけなければなりません。

この様々な問題の優先順位づけに使われる最も一般的な2つの判断基準は、騒がしさ(「きしむ車輪は油をさしてもらえる=はっきりと自己を主張すれば見返りが得られる、という意味のことわざ)」の場合と同様)と問題の大きさです。

この「きしむ車輪」基準にはたしかに欠陥がありますが、多くの場合、何らかのメリットに基づいています。

この方法も時には間違いを犯すことがあります。しかし、常に間違えるわけではありません。

しかし、問題解決の優先順位を大きさで決めることには、第一の基準としては本質的な欠陥があります。それと同じくらい重要なことは、このフィルターに支配された盲目状態が危険であるということです。

なぜなら私たちは、誰もその決定に反論できない、あるいは反論すべきではないかのように動いてしまうからです。

これは、このモデルを反転させて、あまのじゃくに行動すべきということではありません。

しかし、問題解決を考えるうえでこの基準をあまりにも上位に置いてしまうと、普段は目に見えない大きな悪影響があります。小さな問題を解決するという行為を軽視してしまうのです。

小さな問題を解決するという知恵

小さな問題を解決すべきという知恵は、決して新しいものではありませんが、忘れられがちです。

この釘のたとえ話は、小さい問題を解決することが持つ影響を表しています。

その起源は不明ですが、次のようなバージョンは13世紀にまで遡るものです。

釘が足りないために蹄鉄が失われ

蹄鉄が失われたために馬が走れず

馬が走れないために騎手が乗れず

騎手が乗れないために伝言が伝わらず

伝言が伝わらないために戦に負け

戦に負けたために国が滅びた。

すべては蹄鉄にたった1本の釘がなかったためだ。

これは、大きな問題のほとんどは小さな問題が放置されたり、拡大したり、伝播したりしてはじまるという原理を表しています。

やってくる小さな問題は、すべてを解決することはできませんが、少なくとも大切にすべきです。

そうした問題が重要なのは、それが現時点でどんな問題なのかということではなく、今後大きな問題になる可能性があるからなのです。

もう1つ重要なことは、どの小さな問題が大きな問題になる可能性があるかを実際に判断することは、不可能ではないにしても非常に難しいという現実です。

最低でも、野放しにされている小さな問題ひとつひとつの潜在的なリスクを評価するほうが、実際の問題そのものの解決よりも間違いなく労力が少なくて済みます。

そのため、少なくとも、小さな問題をすべて尊重しなければなりません。その中のいくつかの問題が、いつか本当にあなたを悩ませる問題に拡大するからです。

小さな問題が大きな問題を巻き起こした話

極端な例ではありますが、マリナー1号計画がその好例です。

NASAには似たような話がたくさんあるので「これはNASAだけの問題かもしれない」と思われるかもしれませんが、それは、NASAが自らの失敗を研究・公表することに多大な努力を払っており、失敗を研究するための真の実験室となっているからです。

マリナー1号は、金星を通過して調査するためにつくられた探査機です。1962年に打ち上げられ、すぐにコースを外れてしまいました。

復旧できず、人的被害の発生を防ぐためにマリナー1号は自爆させることとなり、計1850万ドルの損失を出しました。

失敗の原因は、Rという記号の上にあるべきバーが欠けていたことでした。

Rは半径(radius) のことで、Rの上にあるはずだったバーは、平均を取ること、つまりデータの各点に反応(あるいは過剰反応)せずにデータを滑らかにするということを示していました。

この1つの書き落としが指示書からコード化されたソフトウェア、そして最終的にロケットへと送られ、大失敗に終わったのです。

この例は、つくられたものに小さなミスがあれば、それが甚大な影響を与え得ることを示しています。

別のテーマで言えば、受信箱に入っているすべてのメールに同じだけ注意を払っているでしょうか。

私はワシントン・クロッシングのほど近くに住んでいますが、ここは1776年のクリスマスに、ジョージ・ワシントンが兵を率いてデラウェア川を渡りドイツ人傭兵隊を攻撃した場所です。

これは重要な精神的勝利であり、その瞬間を描いた絵はアメリカの歴史をよく象徴するイメージの1つです。人数が少なかったため、優位に立つにはアメリカ軍の攻撃は奇襲である必要がありました。

不運なことに、その途上で英国支持者の農夫がワシントン軍を目撃し、ドイツ軍に伝言を送りました。伝言は指揮官のヨハン・ラール大佐に伝えられたものの、大佐はそれを読まなかったか、誰にも翻訳を頼みませんでした。

その未読のメモは大佐の遺体から発見されたのですが、トレントンの戦いでのワシントンの勝利は独立戦争の重要な節目となりました。もちろん、アメリカ人にとってこれは幸運な間違いでした。

甚大な影響を持つ小さな問題であれば、そのすべてが何百万人もの犠牲者を出したり、戦況をひっくり返したりする結果になるとは限りません。

しかし、前提としては、組織のいたるところに一見小さな問題が存在し、その影響がより大きなものへと伝播していくまではそういった問題はすべて同じように平凡なものだ、ということです。

自社の顧客や従業員に影響を与えるかもしれませんし、あるいは予算にしか影響がないかもしれませんが、そのような問題は身近に存在するのです。

問題発生を未然に防ぐための工夫

では、まず良いニュースからお話しましょう。当然のように思えることですが、問題が小さいうちに解決したほうが速くて簡単です。

理由の1つは、問題拡大の悪影響をすべて修正する必要がないからです。別の理由としては、時間が経過してしまってから本来の原因まで問題を遡るほうがずっと難しいからです。

交通事故に遭って足が折れたら、骨折の原因はわかります。20代の頃に触れたもののために50代で病気になった場合、その原因を突き止めたり証明したりすることは非常に困難です。

したがって、まずは、できるだけ早く問題が明らかとなるよう仕事のプロセスや管理システムを設計するのが良いでしょう。すべてを解決しようとすることはおそらくないでしょうが、少なくともその選択肢もあります。

問題が発生した時点で目に見える形にすれば、原因究明も解決もはるかに容易になります。

問題が小さいうちは10分の1の労力で解決できるとしても、100倍の問題があれば依然として遅れをとることになります。

もう1つ、重要な解決策があります。さらに組織を問題解決に関与させることです。より多くの問題を解決するための最もシンプルな方法は、問題を解決する人を増やして問題解決に取り組む準備をしてもらうことの他にありません。

多くの組織は、これが意味するのは、問題解決チームを増員して彼らを巻き込むことだと考えています。

しかし、実際にはこれは目的に反しています。チームの集合知は最終的に問題解決をより効果的なものにするかもしれませんが、かえってプロセスを遅らせ、問題解決の量を増やすことにはならない場合が多いのです。

代わりに、組織全体の問題解決スキルの一貫性と深さに焦点を当て、自分に最も身近な問題の解決に取り組んでもらうようにしましょう。

問題解決は、非常に人間的な行為です。人々は、達成感や貢献しているという実感を持ちます。そのエネルギーを活用しない理由があるでしょうか。

壁にぶつかった時に乗り越えるための研修やコーチング、基準、方法などのメカニズムを構築し、ひとりひとり、毎日、できればすべての問題について、人々が持つ問題解決の力を駆り立てましょう。

Originally published by Fast Company [原文

Copyright © [2021] Mansueto Ventures LLC.