過去、そしてこれからの10年を考えると、さまざまな分野で「ライフハック」のヒントが欲しくなりますが、猛暑、集中豪雨、地震、台風と災害が続く今、行きつくのは、そもそも天変地異が起こったらどう生き抜くのかということ。

サバイバルに必要なのは衣食住ですが、今回フォーカスするのは「」。25年もの長期保存ができる『サバイバルフーズ』を製造する株式会社セイエンタプライズ代表の平井雅也さんに、長期保存を可能にする技術とはどのようなものか、そして保存食の可能性についてお話しをうかがいました。

なぜ25年も長期保存できるのか

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Photo: ライフハッカー[日本版]編集部

--なぜ「サバイバルフーズ」は長期保存が可能なのでしょうか。

平井:食品が食べられなくなる原因は主に2つで、腐敗酸化です。まず、腐敗は食品中の微生物が増殖することで起こります。

でも、食品中の微生物は、水分がないと増殖することができません。サバイバルフーズは、フリーズドライ加工により食品中の水分を最大で98パーセント除去しており、微生物が使用できる水分がないために腐りません。

--フリーズドライに適さないメニューや食材などはあるのでしょうか。

平井:凍ると膜ができてしまうハチミツのような食材、それにレタスのような葉物野菜はバラバラになるので、原型を留められないという意味で難しいですね。なので適度な強度の繊維組織を持った食材は比較的向いていると言えます。たとえば鶏肉はもとの状態に復元しやすいですし、エビや人参もうまくいきます。

とはいえ、どんな素材にせよ、工夫によってフリーズドライ加工することは可能です。それこそフリーズドライにする技術によります

--フリーズドライ食品は、一般のスーパーで扱われているお味噌汁、ラーメンのかやくなどでもおなじみですが、25年も保存できません。この差はなぜなのでしょう。

平井:食品が食べられなくなる原因のもう1つ、酸化への対策もしているからです。酸化は食品が酸素によって科学的に変化することで起こりますが、サバイバルフーズではフリーズドライした食品を密閉容器に封入していて、窒素などの不活性ガスを充填し、酸素に食品が触れないようにしています。

ただ、これは過去のやり方で、今は脱酸素剤を入れています。空気から酸素が抜けるとほとんど窒素だけになり、同じような状態になります。

以上の2点により、腐りも酸化もせず、半永久的に保管が可能となります。フリーズドライ食品を缶詰に封入するのは、サバイバルフーズならではの製法です。

--実際には25年ではなく、それ以上の保存が可能なのですね。

平井:そうです。理論的には何年でも保存が可能です。ただ、経験的に25年を賞味期限としています。また、我々にはすでに40年の販売実績があります。

サバイバルフーズは、1978年にデータストアレージの会社を起業した現会長が、BCP対策をふまえて災害が起こったときにデータを提供するなら、そこで働く人のためにデータと同じくらい保管できる食べ物の用意が必要だと考えたことに始まります。当時データはマイクロフィルム保存で、「50年保存する」ことを考えていました。

--今年よりアメリカから国内製造に変わっていますが、保存可能な期間は変わりないのでしょうか。

平井:現行品でも加速試験によって、30年経過しても問題ないことを確認しています。半永久保存も可能だと思っていますが、あまりにも長すぎて想像できなくなってしまいます。

「25年保存できる」というPR文句にしたのは、『人間五十年』と言いますが、永久を人生と考えると半永久は25年だと考えた理由からです。経験的に25年の保存期間はちょうどいいと思っています。

ですので、今後はいかに保存期間を延ばすかというより、長期保存を保ったままどこまで品質を上げられるかということや、フリーズドライ技術だからこそできること、さらなる技術の追求や味の模索をしていきたいです。

開発の苦労と国内製造にした理由

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Photo: ライフハッカー[日本版]編集部

--今年から国内製造にされたそうですが、その理由は何ですか。

平井:日本人のための備蓄なので、日本の技術で作るべきだと思っていました。しかし、国内で製造するには、技術を持った国内メーカーの協力を得なければいけません。そして今年の6月より、高度なフリーズドライ加工技術をもった永谷園さんの協力のもとに国内生産するようになりました。

また、アメリカで製造する場合、食材は現地のものを使いますが、日本の防疫に関するルールにより、たとえば鳥インフルエンザBSEが起こった場合、輸入ができなくなります。国内製造なら、その心配はありません。

--ほかにはどんなメリットがありますか。

アメリカのメーカーにディレクションを行って、作ってもらった商品を輸入していたのですが、たんなる味付けの問題ではなく、「蒸らす」という調理法や「うまみ」の概念など、根本的に料理に対する考え方が日本人と異なると思うことも多く、要望を理解していただくのに苦労しました。

国内製造だと、いわば「日本人好みの味」の説明を殆どしなくてもわかってもらえるので、コミュニケーションがスムーズです。また永谷園さんは経験と実績のあるメーカーさんなので、アドバイスをいただけるのも良いですね。

それにお湯や水をいれたときの戻りが早くなりました。フリーズドライは食材を冷凍することで氷をつくり、乾燥させることで氷があったところに隙間ができるんです。この隙間の大きさが、戻りを左右します。氷の大きさは、温度や時間をコントロールする技術によって決まります。永谷園さんが得意とする技術です。

--新しいメニューで考えているものはありますか。

平井:国内で製造することで、より日本人の好みに合ったメニューの開発ができると思うので、和食のメニューを作ってみたいです。

それに、とある学校に商品を提案したところ、アレルギーで食べられない子がいると不平等なので、備蓄自体をしないと言われたことがあります。それで備えができないのは本末転倒だと思った経験から、アレルギー対応の備蓄食も作ってみたいと考えています。

中身はどうなっていて、味は?

やはり食品なので、保存性だけでなく味が気になります。そこで、実際に試食をさせていただきました。

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『洋風とり雑炊』を開封したところ
Photo: ライフハッカー[日本版]編集部

缶をあけると、このようになっていました。まず、お湯を注ぐ前の時点で食べさせてもらったところ、じゃがいもはクルトンのようで、そのままでもサクサクしておいしかったです。

料理はできあがった状態からフリーズドライ加工されます。だから具材に味がしみ込んでいるので、おいしく食べられるのだそう。

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『洋風とり雑炊』
Photo: ライフハッカー[日本版]編集部
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『クラッカー』
Photo: ライフハッカー[日本版]編集部

実食させていただいたのは『洋風とり雑炊』と『クラッカー』の2品。

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Photo: ライフハッカー[日本版]編集部

だしが効いていて、ほっとするような、食べなれた味わいとも言えます。クラッカーは一般的に市販されるビスケットよりも硬めで塩気が強く、あっさり。洋風のシチューなどに合いそうなのと、よく噛むので1枚でも満足度がありました。

--感動するというより、どこかで食べたことのあるような味ですね。

平井:「普通においしい」とはよく言われますが、最高の褒め言葉だと思っています。緊急事態であるほど、普段と変わらないことが大事だと思っていますから。

非常時に『非常用』に買っておいたからと普段食べなれないものを食べると、それもストレスになります。普段と変わらない食べ物を食べられるように準備したいですね。パッケージに記載した「美味しい備蓄食」にも、その思いが込められています。

また、わかりやすいので「非常食」という言葉を使いますが、「非常」とは何かが起こったときの対処的な意味で、「備蓄」とは何かが起きる前に主体的に備えておくという意味です。なので、私たちはお客様に備蓄をしてもらいたいと思っています。

鴨長明の「方丈庵」を模したショールーム

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商品が陳列された棚も和風。土壁に木の棚がつけられている
Photo: ライフハッカー[日本版]編集部

その思いは、取材の場所となったショールームからもうかがえました。「サバイバルフーズ」のほかにも、消臭機能つきのインナー『デオエスト(DEOEST)』やアウトドアのグッズなど、さまざまな商品が置かれており、購入も可能です。

--普段から使えるというのが、セレクト商品のコンセプトなのですか。

平井:そうです。実は、『デオエスト』は今着ているんですよ。消臭機能って、災害時に服を洗えないからという理由がなくとも、普段の生活からあるといい機能じゃないですか。

また、この和風な造りのショールームは、鴨長明の住んでいた組み立て・解体がすぐにできる家「方丈庵」をモチーフに作られているそうです。大きさも実物に即した5畳半ほど。

--なぜ「方丈庵」をモデルにショールームを作ったのですか。

平井:鴨長明は人生で多くの災害にあったので、いつでも移動できるようにしていました。そんな鴨長明の『いつでも備えをしておく』という考えが好きだし、共感しているんです。

サバイバルフーズにかける思い

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Photo: ライフハッカー[日本版]編集部

--サバイバルに対する考えをお聞かせください。

平井:私たちがサバイブするのに必要なのは、衣食住です。セイエンタプライズでは、災害時でも生き残るために、普段から備えるライフスタイルを提案しています。その中でサバイバルフーズは、食の備えにフォーカスした商品です。

生き残るためには、長期保存できる備蓄が必須です。でも、保存食は長期保存できるだけではなく、食としてのクオリティも保たなければいけないと考えているため、おいしさも追及しました。だから「美味しい備蓄食」とパッケージに明記しています。

忘れられていますが、ほんの70年前の戦後、我々はしばらくの間食料に困りました。180年ほどの昔には天保の大飢饉 があり、たくさんの餓死者が出ました。今、毎日の食事に困らないのは、日本の経済が安定しているのと高度に発展した流通のおかげです。

ただし、これは普遍的なものではありません。最近の世界はとても不安定に見えます。日本では自然災害が頻繁に起こりますが、東日本の震災でも、先日の西日本の豪雨でも災害後に流通は混乱し、食料はいつものように簡単には届かなくなりました。

生きている限り、食べることは不可欠で、生き残るつもりなら、食糧の備蓄は必須です。そこに手助けができればと考えています。

食品を保存する技術の可能性

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Photo: ライフハッカー[日本版]編集部

--これからの未来、フリーズドライのような食を保存する技術の可能性をどのように考えていますか。

平井:フリーズドライ技術は、すでにさまざまな分野に転用されています。保存が注目されがちですが、フリーズドライのイチゴにチョコレートをコーティングするなど、食感を利用して新しいおいしさも生み出されてますよね。

おいしさの点で言えば、自分で好みの味に調理した以上のものはないので、「肉」「各種野菜」のように食材がそれぞれフリーズドライされていて、好きに調理できるようになったら面白いと思っています。災害時に食の自由度と選択肢も増えますしね。

--未来の宇宙食で見られそうですね。火星のキッチンの「冷蔵庫」の中身はそれが常識になるのかも。

平井:宇宙食といえば、登山用の食品などフリーズドライにすると軽くできることによる運搬のメリット、それに常温保管ができるメリットはやはり大きいです。

化粧品医療にも利用されているんですよ。血液のフリーズドライや、手術のときやばんそうこうに使える、血液をものすごく吸収してくれる綿なんかがありますね。

--そのようなさまざまな分野での可能性をふまえて、今後10年、会社としてどう展開していきたいと思っていますか。

平井:サバイバルフーズの技術が活用できる分野には、どこにでも展開していきたいと思います。思い出のレシピを25年間保存する「食のタイムカプセル」のようなサービスも面白いかもしれませんね。

また、商品の開発だけではなく、各家庭やコミュニティにはじまり、国全体として食料備蓄をどれだけ増やしていけるかということに取り組むことで、災害や万が一の事態に対して備えていられる社会作りに貢献したいです。

さらに、それらの活動を通して、弊社がコンセプトとして持っている「備えて暮らす」というライフスタイルの提案と浸透をこの10年で進めていきたいと思っています。


Photo: ライフハッカー[日本版]編集部

Reference: セイショップ(1, 2), Wikipedia

取材協力: 株式会社セイエンタプライズ セイショップ事業部