この言葉は、最新の心理学研究に基づいた、あるエクササイズを実践した人たちから発せられたものです。
「先延ばし傾向が減り即実行の人になった」「職場全体を生き生きさせる効果を実感した」「営業成績が200%アップした」
このように、仕事にかかわる劇的な改善を体験する人が続出しているエクササイズの名は「セルフ・コンパッション」。
もとは2003年に米国の社会心理学者、K・ネフ博士が発展させ、欧米で大きく注目された概念です。
これが欧米のエグゼクティブや企業に取り入れられ、ストレスマネジメントやメンタルヘルスケアにおいて高い効果を挙げています。
近年は、日本でも認知度が高まり、実践する人が増えています。でも、「はじめて知った」という人の方が、まだまだ多いでしょう。
そこで今回は、セルフ・コンパッションの基礎的な知識と手法の一部を、最新の入門書『ストレスに動じない“最強の心”が手に入る セルフ・コンパッション』(大和出版)をもとに紹介します。
セルフ・コンパッションとは?

ネフ博士の唱えるセルフ・コンパッションの概念は、「誰かが悩んでいたり、苦しんでいたりする際に思いやりや優しさを向けるのと同じように、自分に対して思いやりを向けること」です。
ネフ博士は、さまざまな研究を通して、この概念の中にはさらに3つの構成要素、
「自分に対する優しさ」「人間に共通する体験であると認識すること」「マインドフルネス」
が含まれるとしました。
日本でも大流行しているマインドフルネスは、実はセルフ・コンパッションと対をなす考え方です。
ひとつのコインの裏表であるともいわれ、どちらかが欠けることはありません。
マインドフルネスは、「自分の中に生じた思考やイメージに対して“良し悪し”の判断をすることなく、その思考をただ受け容れ、注意を向けていくこと」という意味も持ちます。
実は、ブッタがマインドフルネスと同じくらい、あるいはそれ以上に重要視したのが、コンパッションの実践だそうです。
セルフ・コンパッションを実践すると
最新の心理学研究では、日々セルフ・コンパッションを実践していくと、
- 本当の自分に基づいて行動できる
- メンタルが良好に保たれる
- 身体的な健康を維持できる など
さまざまな効用が得られることがわかってきました。
さらに、本書の著者でセルフ・コンパッション研究の第一人者である石村郁夫博士は、企業のエグゼクティブやマネージャー向けの研修を通じて、仕事のパフォーマンスを向上させ、組織風土を改善させるなどの効果を認めています。
セルフ・コンパッションが不足していると
逆に、セルフ・コンパッションが不足していると、
- 自分の気持ちがコントロールできなくなる
- 物事に対する責任感がなくなる
- 少しのストレスでも大きなダメージを受ける など
といった問題につながってしまいます。
これらは、個人の仕事のパフォーマンスや組織全体の風土に悪影響を与えるばかりか、幸せな人生とはいえないでしょう。
セルフ・コンパッションのエクササイズは、7種類

本書には、セルフ・コンパッションを向上させるエクササイズのやり方が、準備段階といえる基本的なもの(ステップ0-1、0-2)を含め、以下7種類あります。
【準備段階】
- ステップ0-1:コンパッショネイト・リフレクション
- ステップ0-2:マインドフルネス
【実践段階】
- ステップ1:スージング・リズム・ブリージング
- ステップ2:コンパッショネイト・カラー
- ステップ3:コンパッショネイト・コーチ
- ステップ4:コンパッショネイト・レター・ライティング
- ステップ5:コンパッショネイト・アクション
- 番外編:2人で行うコンパッショネイト・フロー
このうち、最初の4つは呼吸法となります。
ステップ3「コンパッショネイト・コーチ」は、イメージが中心。
ステップ4「コンパッショネイト・レター・ライティング」は、自分宛てに「慈悲の手紙」を綴るというもの。
ステップ5「コンパッショネイト・アクション」は、「最近うまくいかなかった時のこと」をもとに自分の行動パターンを振り返り、セルフ・コンパッションに満ちた行動に置き換えると、どうなるかなどを書き出すというものです。
参考までに最初の「コンパッショネイト・リフレクション」と、ステップ4「コンパッショネイト・レター・ライティング」のやり方を紹介しましょう。
コンパッショネイト・リフレクションの手順<ステップ0-1>
1. 足を肩幅程度に広げて立つ。
この時、背筋を伸ばすこと。頭から背骨まで1本の柱が貫いていて、頭が上のほうへと引っ張られているイメージ。
正しい姿勢がよくわからない場合は、壁を背にして立ち、壁に頭、肩、お尻、ふくらはぎ、かかとの5カ所が接するようにする。これが正しい姿勢。
2. 手のひらを上に向け、息を吸いながらゆっくりと肘を曲げて手のひらを胸のあたりまで持ち上げる。
この時、腋(わき)は締めておく。
3. 手のひらを返して下に向け、腋を開いて、息を吐きながら手のひらをお腹のあたりまで下げていく。
手のひらで下へ押すイメージ。
4. 息を吐ききったら再び手のひらを上に向け、息を吸いながら、腋を閉めて手のひらを胸の高さまで上げていく。
5. 以上のような「息を吸う→吐く」を1セットとして、10セット繰り返す。
息は大きく吸って、ゆっくり長く吐いていくこと。4秒で吸って、8秒で吐ききるのが目安。
これは、セルフ・コンパッションで基本となる呼吸を練習するためのもので、まずはこれがうまくできるようになれば、以降のエクササイズにスムーズに入っていけます。
コンパッショネイト・レター・ライティングの手順<ステップ4>
筆記具と紙を用意し、自分自身に対して“慈悲の手紙”を、次のポイントをふまえて書きます。
1. 自分の経験と、その経験の中の「何が」「どのように」自分に影響を与えたのかについて触れる。
2. それに対して、自分はどのような対処をせざるを得なかったのか、その結果、意図せぬどんな不利益を被ったかについて触れる。
そして、繰り返される問題や対人関係がどんなパターンであるかを、自分に対して慈悲と思いやりを持って書き出す。
3. 慈悲と思いやりを持った自分から、かつて苦しんでいた自分へ、どんな言葉をかけられるかをしっかりと書く。
セルフ・コンパッションで得られる効果
本書には、中学校時代にいじめに遭ったことから、誰とも繋がれない寂しさを感じながら、他人を信じられないこと、それを乗り越えて変わろうとしている自分へ宛てた自分への手紙の例が掲載されています。
書き方の要領をつかむのに役立つでしょう。
本書には、上記のエクササイズを含めて7つのエクササイズのすべてが、詳しく説明されています。
毎回全部をやることは求められていません。
効果が感じられないものがあったり、最初は困難を感じるものもあったりしますが、無理をせずに進めていきましょう。
セルフ・コンパッションを実践することで得られる効果は、人によってさまざまですが、
「ともすると苦行に転じてしまいそうなビジネスの現場で、苦しむことなく楽々と働き、成功を収めています。そして、本当にすっきりした幸せそうな顔をしています」という共通項があるそう。
それは、とても魅力的な効用で、ぜひとも実践したくなるモチベーションになるはず。
興味がわいた方は、本書を読み実践してみるとよいでしょう。
セルフ・コンパッションをより詳しく知りたい方へ
<オススメ書籍>
『セルフ・コンパッションーあるがままの自分を受け入れる』(石村郁夫、樫村正美/金剛出版)
『実践セルフ・コンパッションー自分を追いつめず自信を築き上げる方法(石村郁夫、野村俊明/誠信書房)
『トラウマへのセルフ・コンパッション』(石村郁夫、野村俊明/金剛出版)
<ウェブサイト>
ーー2020年3月19日公開記事を再編集して再掲しています。
Source:『ストレスに動じない“最強の心”が手に入る セルフ・コンパッション』(大和出版)