少し前に「自分探し」なんて言葉をよく耳にしましたね。
急に会社を辞めてみたり、旅に出てみたりして「自分探し」をする人もいたようですが、今日紹介するお話は、そういうことではありません。なぜなら、「自分」は常にそこにいるもので、本来は探しになんて行かなくてもいいから。ただ、近すぎて見えないことがあるというだけなのです。
生まれたときの私たちは「ありのままの自分」ですが、大人になっていくにつれて「周囲が期待する自分」との葛藤が起きていきます。小さな子供でも、育つ環境によっては大人の顔色をうかがうようになってしまうこともありますよね。私たちは知らず知らずの間に、「本当の自分」を押し込めてしまうのです。これは必ずしも悪いことではありません。周囲との和を保つために、ある程度は必要な作業ですが、長い間無意識に行っていると、すぐそこにあったはずの「自分」をいつの間にか見失ってしまうのです。
「本当の自分」が見えないと、どんな困ったことが起こるのでしょうか。まずは、自分が何をしたいのかがわからなくなります。周囲からの注文があり、それに答える自分はいるのですが、それが本当に自分のしたいことなのかがわからないのです。また、日常を楽しめなくもなります。自分のしたいことをしていないと、たとえ相手の期待に応えられたとしても、真の喜びが感じられないからです。
では、ここで、「本当の自分」を見つけるエクササイズをしてみましょう。紙とペンを用意してください。抽象的な質問が多いのですが、よく考えてまじめに答えてください。
1. あなたの生きている意味はなんでしょう? なぜそう言えますか? 2. あなたの人生が74年で終わるとします。今現在のあなたの年齢から計算すると、人生の何パーセントを生きたことになりますか? 3. 今までの人生で、本当に意味のあることを成し遂げたことがありますか? 4. あなたが今日死んだとして、お葬式であなたの周りの人は、あなたについてどんなことを話してくれると思いますか? 5. 将来へのプランはありますか? 6. 5番で答えたあなたのプランは意味があると思いますか? それはなぜですか?
どうでしたか? このエクササイズは、簡単に答えを出せてしまう人も中にはいますが、たいていの人は考え込んでしまうものです。そしてほとんどの人が、今までの自分の人生は何だったのだろう? これからどうしよう? と焦ってしまうでしょう。でも、それでいいんですよ。今、この瞬間に、あなたがそれに気づいたということが大事なことなのです。
実際、このエクササイズはExistential Therapy(実存主義療法)といって、欧米ではカウンセリングの手法のひとつとして用いられています。クライアントの種類は様々で、将来何になりたいかわからない学生、働きすぎて燃え尽きそうなビジネスマン、定年退職後にすることが見いだせない人などです。このカウンセリングのゴールは「あなたらしく生きる」こと。どうしよう? 何も考えてなかった? と焦るところから始まります。そのときのあなたが何歳でも、今がスタート地点なのです。
次の段階は、具体的にあなたがどういう人間なのかを知るということです。10年ほど前に、ポジティブサイコロジーという新風を心理学に巻き起こしたMartin Seligman博士が作った質問に答えると、あなたの強みを24項目割り出してくれます。ここで例えば「世の中への興味と関心」や「社交性」、「希望」が高かった場合、人と関わる仕事が向いているといえます。会社の広報や、学校の先生などでしょうか。就職活動のときにした自己分析に似ていますね。
夢を持って就職活動していた頃の自分、やる気だけはあった新入社員の頃の自分を、ちょっと思い出してみてください。Seligman博士の質問でなくても、就職活動の頃の自己分析をもう一度やってみると面白いかもしれませんよ。何もかも捨てて「自分探しの旅」に出る前に、その場で10分ほど「本当の自分」を探してみませんか?
(山内純子)
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