編集委員のひらたです。いつの間にか秋ですね。秋というと実りの季節。食欲の秋、芸術の秋、スポーツの秋など、いろんな秋がありますが、個人的には「読書の秋」を推したいところです。ということで、いささか強引ではありますが、ライフハッカーを愛読いただいている皆様にお勧めな本の書評をお届けしたいと思います。

今回とりあげるのは『リファクタリング・ウェットウェア』。リファクタリングというのは、コンピュータ用語の一つで「一度作られたプログラムを、動作を壊さずに、よりよいものに作りかえること」。ウェットウェアというのは「人間の脳」という意味です。「達人プログラマー」の著者でもあるのAndy Hunt が自分の知識と経験をおりまぜながら、プログラマに限らず「達人」になるためにはどのように「脳」を「作りかえ」ればいいのか、を彼らしい視点で説明し、さらに説明だけで終わることなくきちんと実践できるように書かれています。

 仕事にせよ趣味にせよ、一つこだわりのものを見付けると、だれしも、達人の域を目指したくなるものですが、この本によると、達人にいたるまでの習熟度として「初心者」「中級者」「上級者」「熟練者」「達人」という段階があるそうです。そして、達人の域に達すると、自分のやっていることに「直感」が働くようになり、手が当たり前に動いたり、どうしてそうするのか説明できないができるようになってしまいます。でも、いきなり、その域に達するわけでもなく、実際はちゃんと段階を経て成長する必要があります。達人はしばしば超越してしまっているので、学ぶべきは熟練者であったりすることもあるとのこと。確かに天才の真似はするものではない、ということに通じているかもしれません。

この本では、単純に達人になるための技を磨く方法を紹介しているのでありません。「リファクタリング・ウェットウェア」という言葉が象徴しているように「考え方」を変えるのです。そのためにコミュニケーション能力や学習能力をどうやって高めていくのか。達人への道はそこから始まります。そのためには、ハードウェアとしての「脳」を「作りかえる」必要があります。人間の頭脳にはいろいろなバグがあるので「アタマをデバッグ」するのです。

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例えばコンテキスト。対話などのコミュニケーションだけでなく仕事を行うときでも、ある言葉を使うとき、その言葉がどのような場面、文脈で使われるかによって異なる意味を持つことがあります。文脈を含めた一連の知識、情報の集まりをコンテキストと考えればいいでしょう。本来、コミュニケーションや仕事ではコンテキスト単位で情報を扱う必要があるのですが、わたしたちは、実はあまり意識せずにやっています。そして肝心なときに、ついうっかり、そのことを忘れがちだったりするのです。

個人的にとても共感したのはストレスのコントロールについてです。例えば締切などのプレッシャーは、適度であれば、昇華し、時には前向きに進むための原動力になったりもすることがありますが、過度なストレスは、単純に失敗のリスクを高めるだけではなく、学習の妨げにすらなります。充分なテスト、安全に失敗できる環境作りなどを通して、失敗から多くのことを学びながら、経験を得て、達人に近づくことができるでしょう。個人的にも山ほどの失敗の積み重ねをさせてもらえたおかげで今の自分があると思っています。

リファクタリング・ウェットウェア』は一見するとプログラマにしか役に立たないと思うかもしれませんが、あらゆる人、分野で応用できる話でいっぱいだと思います。プログラマの方だけでなく、どんな分野の人でも、どうすれば、もっと上手にできるのか、どうやったら「達人」になれるのかと考えている人にはとてもお勧めの本です。この本を読むと「勉強の秋」にしたくなりますよ。はい。

ライフハッカー[日本版]編集委員・平田大治)