次世代自動車の大本命として存在感を発揮するEV(電気自動車)。走行距離が短いと思われていたのも昔の話で、『日産リーフ』の航続距離は、カタログ上はなんと400km(JC08モード)。実際のドライブでも250km前後は走ることができ、日常のほとんどのシーンで不便がない性能になってきています。

一方で、EV購入に二の足を踏む理由のひとつで、充電スポットの少なさを挙げる人は少なくありません。「せめてガソリンスタンドほどの数があれば…」という声も聞かれますが、実は、すでに充電スポットの数はガソリンスタンドに迫り、追い越そうとしているのです。

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Image: 日産自動車

経済産業省によれば、現在の充電スポット数は、普通充電と急速充電を合わせると、スーパーマーケットや郵便局よりも多い、約2万8500基。全国のガソリンスタンド数は、2017年3月末現在で3万1467カ所なので、肉薄していることがわかります。しかも、ガソリンスタンドは減少傾向で、充電スポットは増加傾向。近いうちに逆転することは間違いないでしょう。

しかし、これだけの数があるにも関わらず、自宅近くの充電スポットを問われると、どこにあるかすぐには答えられないのではないでしょうか。結果として、「EVの充電スポットは少ないから不安」といったイメージにつながってしまい、これがEVの普及阻害要因のひとつになっていると考えられます。

これだけある充電スポットの存在になぜ気づかないのか。また、充電スポットさえあれば、人はEVという新しいテクノロジーを抵抗なく受け入れられるのでしょうか。EVがどのように人々に受け入れられ、どういった影響を与えるのかについて、人間の心理や脳の働きから、東京大学薬学部教授で脳研究者の池谷裕二先生と一緒に考えてみました。

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池谷先生が所属する東京大学薬学系総合研究課
Photo: 木原基行

充電スポットが見つからないのは「AED」が見つからないのと同じ?

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Photo: 木原基行

──EVの充電スポットは、全国に2万8500基もあります。それでも、多くの人はまだあまり普及していないという印象を持っているようですが、なぜでしょうか。

池谷裕二先生(以下、池谷):「inattentional blindness」、日本語でいえば「非注意性盲目」によるものだと思います。つまり、人は注意していないと、目の前にあるものでも見えないのです。例えば、普段の生活で「AED(自動体外式除細動器)」がどこにあるか、知っていますか。

──すぐに答えられません…。

池谷:そういった人は珍しくありません。設置台数が多く(2015年の段階で63万台以上が設置)、命に直結する重要な機器で啓蒙活動が盛んに行われているAEDでも、「自分に関係ない」「興味がない」と思っていれば、目に入っても脳がそれを認識しないのです。EVの充電スポットもそれと同じことでしょう。EVが石油燃料で走るエンジン車よりも普及していないから、充電スポットに気づかない人が多いというだけのことです。

逆にいえば、EVに乗っている人や検討したことがある人は、街中に意外と充電スポットが多いことを知っています。実は私もEVを検討した一人で、試乗も経験しています(笑)。

──EVが普及すれば、充電スポットの数が多いことも認識される。しかし、充電スポットの数が多いことが認知されていないことで、EVの普及阻害の要因にもなっている。卵が先か、鶏が先かのような問題です。

池谷:ただ、世の中的にEVの認知度は上がってきています。複数の自動車メーカーがより本格的な普及活動を始めれば、EVを検討する人も増えるのではないでしょうか。そうすれば、充電スポットの設置場所も徐々に認知されると思います。

人間は「知っているもの」に安心感を覚える

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Image: garagestock/shutterstock

── EV自体は自動車の黎明期から存在しますが、現代においてはエンジン車が圧倒的なマジョリティです。そういった意味では、EV=新テクノロジーと捉えている人も多いでしょう。これまで市場に存在しなかった新しいものを人が受け入れるとき、どのような心理が働くのでしょうか。

池谷:実は、人というか生き物は、本能的に知っているものに安心感を抱き、新しいものに不安や恐怖を感じます。これを「単純接触効果」と言いますが、生き物にとって重要なことです。なぜなら、知っているということは、少なくとも以前に一度接触しているということだから。そして、接触したにもかかわらず、そこで殺されず、再び接触したという事実が重要な意味を持ちます。

新しいものは自分の命を奪う危険性があるけれども、知っているものは少なくとも以前に接触したときに自分の命まで奪わなかった。そういった意味で、生物は知らないものよりも、知っているものに安心感を覚えるのです。

── 今回の話でいえば、消費者はEVよりもエンジン車のほうに安心感を抱くという話ですか。

池谷:EVの動力はエンジンではなくモーターですが、もしかしたら暴走するのではないかという不安を持ったり、そもそも電気で動くことに懐疑的だったりしても不思議ではありません。なにより、充電が切れてしまうことへの不安は大きいでしょう。

多くの人は、ガス欠は想像ができても、クルマの電池が切れることを経験したことがない。経験したことがないから、不安も大きいのです。それに、電池切れはスマートフォンで経験して嫌な印象が植え付けられているから、より悪いイメージを抱いてしまいがちです。

テレビや電子レンジやインターネットなどの新技術には、恐怖心や不安感がつきものでした。しかし、個人的には、「単純接触効果」に囚われるのは、非常にもったいないことだと思っています。大事なのは、不安だからといって避けるのではなく、新技術にどのように馴染んで生かすか。

不安を乗り越えると、そこには広い豊かな風景が広がっているかもしれない。それを知るのは、面白いじゃないですか。人はそうやって、未知の土地を開拓しながら、進化していったのです。

──EVを選ぶことは、人類の進化に関係する小さな一歩かもしれませんね。知らなかった世界を知ることで、楽しみが広がることがよく分かりました。

池谷:楽しみが広がる理由のひとつが「リフレイミング」です。これは、今までの事象を別の視点から眺めること。心理療法などでよく使われます。例えば、「人生がマンネリでつまらない」と思っている人に、「毎日、何ごともなく過ごすことができるありがたさ」を意識してもらうと、自分の人生をポジティブに再評価できるようになります。

しかし、考え方を変えることは、誰しもができることではない。そこで、新しい技術や製品を生活に取り入れると、「リフレイミング」が強制的に行われるのです。

エンジン車からEVに乗り替えると、「リフレイミング」が発生すると思います。つまり、EVに乗ると、エンジンがないことによる静かさや動力源であるモーターの特性による心地よい加速などが、これまでの概念を覆し、クルマを再定義してくれる可能性がある。

EVがリフレイミングの閾値(いきち)を下げるといってもいいでしょう。その結果として、出かける機会が増えたりドライブが趣味になったりして、人生が豊かになるかもしれません。

リニアに加速することで、文字通り「クルマと一体」になる

── 池谷先生は冒頭で「EVを検討して試乗もした」と話されましたが、ご自身のなかでもリフレイミングがありましたか。

池谷:エンジン車とはまったく違うと感じて、クルマの概念が変わりましたね。ひとつは音。普段乗っているクルマはターボでエンジン音が大きめということもあるのですが、とにかく室内が静かでした。ただ、これはある意味、想定できていたことです。すごいなと感じたのは、レスポンスの良さです。

エンジン車は構造上、アクセルを踏み込んでから加速するまで、どうしてもディレイ(遅延)が発生してしまいます。このディレイが気持ち悪い。クルマの加速に限らず、パソコンでもキーボードを打ってから文字が出るまでに時間差があると、ストレスが溜まるでしょう。

クルマのアクセルにしろパソコンのキーボードにしろ、完全にディレイを無くすことは難しい。そこで脳は、そのディレイに慣れて、遅れを感じないように脳内補正をします。

しかし、EVはモーターの性質上ディレイが少なく、アクセルを踏むとリニアに加速します。普段、エンジン車に乗っていると、EVではアクセルを踏み込む前に加速するような錯覚を覚えるはずです。EVの加速に慣れてしまったら、エンジン車の加速はもっさり感じてしまうでしょうね。

──このディレイを脳内で補正する仕組みは、体の動きと脳の思考がどのように関係しているかを表していますね。

池谷:人間の脳は体を動かしたとき、実際に動くよりも先に「動いた」と感じるようにできています。もしそうではなくて、例えば自分の手を動かしたとき、手の動きを目で認識した後に脳が「動いた」と認識した場合、我々はそれを自分の手ではないと感じてしまうでしょう。

それを防ぐために、脳は実際に手が動く前に「動いたと感じろ」といった指令を出します。すると、手が動くと同時に動いたと感じて、手が自分の一部だと認識できるのです。

──つまり、ディレイが少なければ少ないほど、身体の一部だと感じることができるということですか?

池谷:その通りです。そういった意味で、プロのレーサーなどは、エンジン車のアクセルを踏んで加速するまでに、ディレイを脳内補正によって限りなく縮めることができる。すると、文字通り「体の一部」となります。

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Image: Babyboom/shutterstock

もっと分かりやすい例では、孫の手もそうです。

孫の手は手の代わりに、手では届かない背中の部分を掻いたりしますよね。このとき、孫の手の先を触ると、脳内では指先を触られたときと同じ部位が反応します。これは、ほぼ手と直結されていて、非常にディレイが少ない。ディレイが少ないから、体の一部に成り得るのです。

話をEVに戻すと、アクセルを踏んでから加速するまでのディレイが短いということは、体の延長のように感じるということ。しっかりとした実験をしてみないと分かりませんが、体の延長になることで車幅感覚が上がって、車庫入れが上手くなったりすると面白い。一度、検証してみたいですね。

「自動運転」は脳への負担を和らげる?

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Photo: 木原基行

── EVの加速性能が「体の一部」と感じる脳のメカニズムにつながるとは驚きました。EVは次世代自動車の本命ですが、搭載される技術として「自動運転」も期待されています。『日産リーフ』も高速道路での同一車線自動運転技術「プロパイロット」を搭載しています。

池谷:僕は運転が嫌いだからありがたいです(笑)。クルマが登場してから随分と経ちますが、そもそも脳が発達する過程に、クルマを運転する行為は含まれていないのです。ですから、クルマの運転は脳にとっては負担となるでしょう。

そもそも、脳本来の使い方は、面と向かってコミュニケーションをとったり食事をしたりすること。運転中はできませんよね。しかし、自動運転が普及すれば、クルマのなかでもそれが可能になって、車内でも本来の脳の使い方を取り戻すことになるのではないでしょうか。

ただし、運転したいという欲求があることも否定はしません。運転が好きではない僕でも、運転モードを「スポーツ」にして、夜の首都高を走るのは気持ちいいと感じます。ただ、やっぱり疲れるんですよ。人間の精神リソースは有限で、クルマの運転で疲れてしまうと、その後の仕事や作業に影響がでる。

なので、運転を楽しむのは、1日が終わって家に帰るとき。かつ、家でも特にやることがないときです。通勤時などは、できるだけ自動運転を利用して、疲れないようにしたいですね。あと、クルマを運転すると精神が高揚して、気分も盛りあがります。移動後に高いテンションを求められるときなどは、あえてスポーティな運転をするのもいいかもしれません。

──「EVがクルマの概念を再定義する」とはよく言われることですが、脳の仕組み的にもあながち間違っていないことに驚きました。さらに、EVの運転が及ぼす脳と身体の関係にもワクワクします。本日は、ありがとうございました。

クルマを新しく定義する未体験の進化を遂げた『日産リーフ』

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Image: 日産自動車

次世代自動車として、世界中で国を挙げた普及が進むEV。昨年、その代表格である『日産リーフ』がフルモデルチェンジして、さらなる進化を遂げました。最大の目玉は、EVの弱点と言われていた航続距離。400km(JC08モード)という数値は、日常シーンでほとんど心配がないレベル。約2万8500基の充電スポットを活用すれば、電池が切れてしまうという不安はかなり解消されるでしょう。

また、新型『日産リーフ』の売りは、航続距離だけではありません。EVが持つ先進性のイメージを裏切らないテクノロジーも満載です。

そのひとつが、最先端の自動運転技術である「プロパイロット」「プロパイロット パーキング」。

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Image: 日産自動車

「プロパイロット」は高速道路上の同一車線自動運転技術。前を走行するクルマと白線をモニターし、ドライバーに代わってアクセル、ブレーキ、ステアリングを自動で制御してくれます。単調な渋滞走行や退屈な巡航運転をクルマに任せることで、ストレスや疲労を軽減し、ロングドライブの楽しみをより高めてくれます。

「プロパイロット パーキング」は、ステアリング、アクセル、ブレーキ、シフト、パーキングブレーキまで自動制御して、縦列・並列駐車を行ってくれる機能。駐車したい場所の手前に停めると、自動でスペースを検知してナビの画面内にPマークが表示。あとはスイッチを押し続けると駐車が完了します。

EVはモーター駆動で走行しますが、この特性を活かした「e-Pedal(イーペダル)」も注目の機能。アクセルペダルをゆるめるとブレーキペダルを踏んだように減速し、停止します。これも池谷先生の話していた「体の一部」のように感じるまったく新しい体験になるでしょう。

これまでのクルマの進化は、燃費やエンジンパワー、ハンドリング性能の向上、室内空間の充実、外観デザインの工夫などが主なものでした。新型『日産リーフ』は、それらを含めて、ある意味クルマを新しく定義する未体験の進化を遂げました。

今話題のEVを体験し、新しい世界に目を向けてみてはいかがでしょうか。

Image: garagestock,Babyboom/shutterstock,日産自動車

Photo: 木原基行

Source: 日産リーフ