スーパーなどで買い物をしていると「農家から直接届きました!」というポップと、おいしそうな野菜が並んでいる姿を見かけます。何となく見過ごしがちですが、実はここには大きなイノベーションが隠されていたのです。
IBMが運営するWebメディアMugendai(無限大)では、「農家」を「農業経営者」に転換させた仕掛け人が登場していました。最も生活に身近で歴史の古い産業である農業において、一体どのようなイノベーションが起こっていたのでしょうか。
「本当においしいトマト」が食べられるようになったカギは、「流通」にあり
インタビューに登場していたのは、株式会社農業総合研究所代表取締役社長の及川智正さん。資本金50万円で起業し、8年で株式上場にまで至ったという敏腕経営者です。
冒頭のスーパーでの光景は、同社が展開する「農家の直売所」でのこと。特に宣伝していないのに、そのおいしさが口コミで広がり、売り上げを伸ばしています。
なぜこのようなことが実現できたのでしょうか。及川さんが徹底的にこだわったのが「流通」でした。

これまで野菜や果物の流通は、市場や卸問屋を経て消費者に届くまで3~4日かかるのが普通でした。一方の「農家の直売所」では、出荷から中一日。
従来の方法では、例えばトマトなら青いうちに摘み取り、3~4日の流通中に熟させるものもあったそうですが、一番おいしいのは完熟してから摘み取ったもの。「農家の直売所」は、こうして本当においしいトマトを流通させることに成功したのです。
頑張れば収入が増える。農家が経営者となる意識改革の仕組みとは
及川さんたちがこうしたイノベーションを実現できたのは、農家の方々の意識改革が大きかったといいます。
「農業はビジネス」と語る及川さんは、これまで「作る」ことがメインだった生産者の方々に、「売る」ことの重要さと楽しさを伝えました。主に農協などに任せていた流通部分を自分たちで行うことで、「頑張れば収入が増える」ことを実感させたのです。

農家の方が具体的に行うのは、収穫した農作物をパッケージングし、値札シールを貼り、最寄りの集荷拠点に持ち込むだけ。あとは農業総合研究所が契約している全国約1200店舗のスーパーマーケットの店頭に、自動的に並びます。
この仕組みは徹底したデータ化もされているため、期間別の売り上げデータやランキング、廃棄になった数といった情報がスマートフォンなどから気軽に確認でき、生産者のモチベーション向上にもつながっているそうです。
さまざまな立場を経験したからこそ見える課題と解決法
及川さんたち農業総合研究所が目指しているのは、ただの「儲かる農家」ではありません。生産者と消費者といった、「人と人とをつなぐ」という価値も提供しています。
例えば、同社が開発したシールのバーコードをスマートフォンでスキャンすると、生産者の写真などの情報や動画を見ることが可能。「おいしいいね!」ボタンを押すとそれが生産者に届く仕組みもあり、生産者の大きなモチベーションとなっているそうです。

及川さんがこうして農業にイノベーションを起こせたのには、農大を卒業後、一般企業での勤務を経て農業生産者の現場に3年、青果販売の現場を1年経験した、ご自身の経験が大きかったといいます。
その頃を振り返り、以下のように語っています。
農家を経験してみると、「つまらないな、この仕事」と思いました。仕事やお金の面ではなく、お客様や上司から「がんばったね、ありがとう」という声が届かなかったのです。(中略)青果販売店をやっている時は、商品を1円でも高く売りたい、利益を上げたいという思いが強くなり、生産者に対して価格を安くするように要求していました。生産者の立場もよく分かっているはずなのに、立場が変わると考え方が変わってきます。これは両方やったことがある人間しか身にしみて分かりません。
今後は、生産、流通、販売、飲食までをコーディネート対象に広げ、農業のさらなる進歩を目指したいと語る及川さん。今後の活躍にも目が離せません。
その他にも、起業の決定打となったハローワークに行った話や、社名にかけた思いなど、農業および起業やイノベーションに興味のある方は、Mugendai(無限大)より、ぜひ続きをお楽しみください。
Image: Mugendai(無限大)
Source: Mugendai(無限大)