2021年に掲載した特集記事の中から、特に人気が高かったものをダイジェスト版としてお届けします。
ビジネスパーソンであれば、誰もが日常的に行なっている「メモ」。ここ数年で「バレットジャーナル」というノート術が世界的にブームになるなど、国内外で「メモの力」に注目が集まっています。
この「深化するメモ」特集では、「考える力」や「思考力」がビジネスパーソンの必須スキルとされる中、その大きな助けとなる「メモ」の効力やその活用法について紹介していきます。
第2回は、“日本一情報を発信する精神科医”として知られる樺沢紫苑さんが登場。
デジタル社会において、一見手間と考えてしまいがちなのが「メモ」をとること。しかし樺沢さんは、脳科学的には「メモこそが、インプットとアウトプットを最大化する方法」と話します。
一体どんなメモをとれば頭のイメージを明確化・言語化し、充実したアウトプットを行なうことができるのか、脳科学に基づいた“最強のメモハック”を教えてもらいました。今回は前編です。
樺沢紫苑(かばさわ・しおん)
精神科医、作家、映画評論家。1965年、札幌生まれ。1991年、札幌医科大学医学部卒。2004年からシカゴのイリノイ大学に3年間留学。帰国後、樺沢心理学研究所を設立。SNS、メールマガジン、YouTubeなどで累計60万人以上に精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝え、“日本一、情報発信する医師”として活動。月に20冊以上の読書を30年以上継続している読書家でもある。ベストセラーとなった『学びを結果に変える アウトプット大全』(サンクチュアリ出版)、『読んだら忘れない読書術』(サンマーク出版)、『今日がもっと楽しくなる行動最適化大全』(KADOKAWA)など著書多数。
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メモの重要性に気づいたのは「患者」のため

「メモ」をとるだけで、理解度が高まり記憶に残る──。樺沢さんがそのことに気づいたのは、意外にも自分ではなく、患者さんのため。精神科医としての悩みが出発点だったと話します。
診察後に病状や薬の飲み方の説明をしても、なかなか正確に理解してもらえない。今言ったことをもう一度繰り返してください、と言っても、ほとんどの方が無言になってしまう…。医師の話を聞いているときは患者さんも緊張しているし、具合も悪いので、話が右から左に抜けてしまうのは仕方のないことなんです。
そこで樺沢さんが思いついたのが、話しているときに患者さんがメモをとり、その内容を復唱してもらうこと。
そうするとお互いの行き違いや記憶違いがなくなり、患者の理解度が格段に上がったといいます。
人間というのはほとんどの場合、聞いているようで聞いていません。私はこれをザル聞きと呼んでいます。そして聞いてもすぐに忘れてしまう。
たとえば良いひらめきやアイデアは、まるで流れ星のように、30秒から1分で消えてしまうことが知られています。
つまり大事な発見や気づきは思いついた直後、30秒以内にメモをとらないと意味がないのです。
脳科学的な視点から考える、メモをとる3つのメリット
樺沢さんは、「メモする=脳の活性化」と考えているそう。脳科学的な視点から考察した、メモをとる3つのメリットを教えてくれました。
メリット1:手を動かすと脳が活性化する
私はタイピングよりも、脳をより広範囲で使うことになる「手書きメモ」をおすすめしています。書くことよって脳は活性化します。それは脳幹網様体賦活系(RAS:Reticular Activating System)が活性化されるからです。
RASとは、脳幹から大脳全体に向かう神経の束であり、神経のネットワーク 。別名「注意の司令塔」と呼ばれ、RASが刺激されると、脳はその対象物に対して集中力を高め、積極的に情報を収集しはじめます。

そして、RASを刺激する最も簡単な方法が「書く」ということ。書くと、注意がそこに集まり脳が活性化する。結果として記憶力や学習能力が強化されます。
そのため、よく「メモをとった後に見返す必要はありますか」と聞かれますが、基本的にはその必要はありません。90%以上の場合は書くだけで脳に記憶が定着します。
メリット2:情報、発見、感動を「永久保存」できる
どんなに貴重ですばらしいインプット(体験)をしても、アウトプットしない限り記憶は時間とともにどんどん失われ、劣化し、曖昧になっていきます。
これを防ぐ方法が、インプットとアウトプット(メモ)をペアリングで行なうこと。メモをとること自体が、じつは「書く」というアウトプットに他なりません。
「書き出す」という作業をすれば、その瞬間の感動と、「脳内」の状況を1枚の写真のように永久保存することができます。さらに、そのメモを2週間に3回程度見返すようにすれば、記憶はより強固になるでしょう。
メリット3:アウトプットの精度が高まる
重要なのは、インプットできた量=アウトプットできた量ということ。メモはインプット量を最大化する上で、非常に役立ちます。
極端に言えば、2時間の講義を聞いた後、2時間自分で同じ内容の講義ができますか? それが100%インプットするということ。
ほとんどの場合はそこまでする必要はありませんが、メモをとりながらインプットすることでそこに近づくことができます。
人の話を聞いたときや、1冊本を読んだときの理解度の目安は「それについてどこまで語れるか」を判断基準にしてみてください。
よくあるメモの「NG事例」
せっかくメモをとる習慣があるのに、メモのとり方を間違えている人も多い、と樺沢さん。メモに対する誤解も含めた、よくあるメモの「NG事例」を5つピックアップしてもらいました。
NG1:話を聞いた後にメモする
メモは上手にとる必要はありませんが、すぐにとるべきです。
たとえば、上司が部下にする指示に10のポイントがあったとします。メモをせずに話の後でポイントを全て言えるのは、おそらく10人に1人くらい。次の日にはきっと半分くらい忘れているはずです。
メモをとるベストタイミングは、話しているその瞬間。メモできない状況で話を聞くときも、なるべく早く。“人は30秒で忘れる法則”を思い出してください。
NG2:「メモ下手」が恥ずかしくてメモしない
字が汚い、早く書けない、といった理由でメモを避けるのは非常にもったいない。まずはキーワード、ポイントだけ書くことからはじめてみましょう。書く量が少なければ、書くスピードもそれほど必要ないはずです。
たとえば新聞記者は、インタビュー中、ほとんどメモ帳を見ずに相手の顔を見ながらメモしています。以前、有名な記者に「あのメモ、見返すんですか?」と聞いてみたのですが、回答は「見返すわけがない」と。
でもメモをとることで、書いている間に内容が整理され、内容を覚えることができる。つまり、書くことで骨子を記憶に残すことができるのです。
NG3:後から読んでもわからない
私流のメモのとり方は後編で具体的に紹介しますが、一覧性が大きなポイント。見た瞬間、10秒ぐらいで記憶がよみがえるくらいに整理されていることが理想です。
ぐちゃぐちゃに書いてあるメモや、レジュメや裏紙にメモすることは、一覧性が悪くなるので私は推奨していません。
NG4:一言一句メモしている
もっとも重要なのは「何のためにメモをとるのか」ということ。私自身は大人の勉強は、気付きを得るためのものだと思っています。既に知っていることまでメモしたり、あまりに多くのことを書きすぎると、かえってポイントがつかめなくなってしまうでしょう。
メモの必須項目は、気づきとTO DO(やるべきこと)。それらを3点ずつ書けたら充分です。
NG5:アウトプットが前提になっていない
インプットはアウトプットとペアリングで行うべき。アウトプット前提でインプットすると、記憶にとても残りやすくなるからです。
ある調査では学生を2つのグループに分け、Aグループには何も言わず、Bグループには「後でほかの学生に教えてもらいます」と言って短い文章を暗記させ、その後どれだけ覚えているかテストしたところ、Bグループのほうが成績が良くなりました。
教えるというアウトプットを求められることは、適度なプレッシャーになる。勉強した時間は同じでも、記憶の残り方に違いが出るのです。
おすすめしたいのは、発表する、他の人に説明するという状況を自分でつくり出すこと。そうすると程良い緊張状態が生まれ、ノルアドレナリンという物質が出て、記憶力も集中力が高まります。
一番簡単なのはSNS。不特定多数が読む SNS は、間違ったことを書いたら批判が来るという緊迫感があるので、そこがいいというわけです。
精神科医・脳科学者の樺沢紫苑さんに聞く、脳科学に基づいた“最強のメモハック”。後編では樺沢さんのノートを参照しつつ、より具体的なメモのとり方を紹介していきます。
▼後編はこちら
──2021年7月15日の記事を再編集のうえ、再掲しています。
取材・執筆/田邉愛理 撮影/米山典子 イラスト・図版/岡山進矢