いまや、私たちの多くが「燃え尽き症候群(バーンアウト)」になっています。
健康と安全をめぐるストレスに加えて、失業に、労働条件の変化、これまでよりもはるかに疲れる仕事と家庭の両立など、悩みは尽きません(「これまで」も、そんなに楽ではありませんでしたが)。
ひとたび燃え尽きると、そこから立ち直るのはほぼ不可能なことに思えます。残念ながら、燃え尽き症候群もまた、発症までの時間より、回復までの時間のほうがはるかに長くなる症状のひとつです。
しかも、問題の解決に取り組んでも、うまくいかないことも多々あります。
燃え尽き症候群とは?
回復を目指すうえで重要なのは、自分がなってしまった燃え尽き症候群の原因とタイプについて考えることです。それにより、回復に必要なことが異なってくるからですね。
米ワシントン大学で燃え尽き症候群を研究するアシスタントプロフェッサーのKira Schabram氏は、「疲労困憊しているだけでは燃え尽き症候群ではありません」と言います。
燃え尽き症候群は、精神的または肉体的な「疲労」に加えて、「シニシズム」(たいていは他者からの疎外感)と、「自己効力感の低下」(無力感や無能感など)で構成されがち。「これら3つが組み合わされた状態が燃え尽き症候群なのです」とSchabram氏は言います。
対処法は人によって違う
燃え尽き症候群は、人によって少しずつ差があるのですよ。同じように、回復に必要なことも人によって少しずつ違います。わかりにくい話に聞こえるのは、実際にわかりにくいものだからです。それが燃え尽き症候群。
育児中の母親の燃え尽き症候群をテーマにした『Mommy Burnout』(未邦訳)の著者で、心理学者のSheryl Ziegler氏は、「誰でも燃え尽き症候群がどういうものかを理解できます。なぜなら、目に見えるからです」と言います。
とはいえ、燃え尽き症候群のタイプは人によりけりです。
そのため、重要なのは、自分の燃え尽き症候群は何が違うのかという微妙な違いについて理解を深めていくこと。そうすれば、自分が必要としていることが、もっと見えやすくなります。
「燃え尽き症候群の原因がわかれば、十分に考え抜いたうえでの先を見据えた決断がのちのち下せるようになります」と、Ziegler氏は言っていますね。
燃え尽き症候群を構成する3要素「疲労」「シニシズム」「効力感の低下」と、自分のケースがどのように関係しているのかを患者が理解できるよう、「マスラック・バーンアウト・インベントリー(MBI)」という質問表が開発されました。
MBIは、患者の燃え尽き症候群のパターン特定に役立つもので、最初に表れた症状と、最も強い症状から、最大の効果を得られる対処法についてのヒントを与えてくれます。
それでは、燃え尽き症候群を構成する3つの要素に対して効果が証明されている回復法を、ひとつずつ解説していきます。
疲労による燃え尽きから立ち直る方法
「燃え尽き症候群は、まず疲労を感じて、ほかの2つが後に続くのが典型的なパターンです」とSchabram氏は言います。
燃え尽き症候群と聞くと、たいていは疲労が真っ先に思い浮かびますが、このパターンの燃え尽き症候群から立ち直るのにいちばんいい方法はやはり、休むことです。
仕事を休むなり、家庭での負担を減らすなり、何でも構いませんから、とにかく対策を講じて、休める時間を増やしましょう。
シニシズムによる燃え尽きから立ち直る方法
シニシズムは、ほかの人々から疎外されているという感覚が原因です。
職場で疎外感を抱いている場合もあれば、プライベートでのそう感じていることもあるでしょう。
いずれにせよ、燃え尽き症候群の主な原因がシニシズムのときは、休んでも回復にはつながりません。この場合に大切なのは、他人と有意義なかたちでつながる方法を見つけることです。
たとえば、誰かのメンター役を買って出たり、ボランティアに打ち込んだり、小さな親切を心がけたり、困っている人に手を差し伸べたり。
どのようなつながり方であれ、燃え尽き症候群になっている本人にとって大きな意味を持つのであれば、最大の効果が期待できます。
燃え尽きから立ち直る方法
自己効力感の低下は一般的に、退屈や無能さを感じることが原因で起こりますね。たとえば、職場で簡単な仕事しかやらせてもらえないと感じているときや、自分のスキルに見合わないポジションについているような気がしている場合です。
「いい仕事ができていないと思えるときや、以前は簡単だったことが難しく感じられるときなどもそうです」とSchabram氏は言います。
効力感の低下が燃え尽き症候群の主な原因のときは、達成感を得られることを試してみると、問題の解決につながるかもしれません。
たとえば、担当業務を変えてもらったり、転職したり、新しい趣味を始めたり、ワークアウトの時間を優先したりするのもいいでしょう。
回復に重要なのは、正しいことをどんどんやること
これらの中には、抵抗感を覚える対処法もあるかも。疲労困憊していて燃え尽きを感じている人なら、さらにほかのことをやろうなどとは思わないはずです。
けれども、シニシズムまたは効力感の低下が関係した燃え尽き症候群の場合には、そういった感情を打ち消してくれるアクションを起こすことが重要。
「シニシズムと効力感の低下をやわらげるには、正しいことをどんどんやることが大切です」とSchabram氏は言います。
燃え尽き症候群から立ち直る方法はひとつではありません。原因を特定することで、次のステップが見えてきます。
「自分が燃え尽きてしまった原因がわかれば、立ち直る確率も高まりますし、試せる方法も増えます」とZiegler氏は言いました。
先手を打つ
Ziegler氏もSchabram氏も、燃え尽き症候群になってしまった人に対し、できるだけ先手を打つよう強く勧めています。
燃え尽き症候群は、本人の人生のほかの側面にも波及するおそれがあるからです。
「さまざまなことへの意欲が失われ始め、シニカルになったり、悲観的になったりします。そして、それが全体に広がります」とZiegler氏は注意を促しています。
燃え尽き症候群は人生のほかの領域にも流れ込んでいくのです。
症状が重複しているため、燃え尽き症候群はうつと間違えられることもしばしば。
燃え尽き症候群の初期段階においては、「創造的な思考力がまだ残っています」とZiegler氏は言います。
ですが、シニカルな思考が進行していくと、創造力を発揮できなくなってしまうのです。
Source : Foster, Harvard Business Review(1,2), Mommy Burnout, Dr.Sheryl Ziegler, Wikipedia