2019年卒の就職活動の時期が近づいています。毎年繰り返されることではあれど、「新卒」は大抵の人にとって人生に1回です。志望業界の調査だけでなく、時代や世情の変化にも対応しなければなりません。それに就活は、エントリーをするだけでも、企業調べやエントリーシート書きなど、かなりの労力と時間を要します。余計なコストをかけることなく本当に必要なことだけやりたいものです。

そこで今回お話を伺ったのは、ディスコ キャリタスリサーチ研究員、松本あゆみさん。ディスコが運営する「キャリタス就活」という新卒用の就職サイトに登録する学生から、就職活動に対する意欲や内定率、世の中の一般的な学生はどのような就職活動をしているのか、また、企業の採用状況などの調査分析を行っています。そんな「就活の専門家」に今どきの就活事情や対策についてお聞きしました。

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Photo: ライフハッカー[日本版]編集部

松本 あゆみ(まつもと あゆみ)株式会社ディスコ キャリタスリサーチ 研究員

ディスコ キャリタスリサーチでは、新卒採用マーケットを中心に就職・採用に関する調査・分析を実施。「キャリタス就活」の会員から「就職活動モニター」を組成し、学生の就職活動状況や内定率、志向などを定期的に調査するほか、新卒採用を行う企業を対象とした調査も実施、採用計画や充足率など採用活動状況などの分析を行っている。株式会社ディスコ入社後、採用アウトソーシング、就職情報サイトの学生向けプロモーション、人材開発部門などを経て、2015年より現職。

就活生を取り巻く状況の変化

最初に、昔は常識だったものの、今は変わっていることや今の時代だからこそ、やるべきことをお聞きしました。最初に就活生をとりまく現状を把握する必要があります。

採用選考活動のスケジュール比較
Image: 株式会社ディスコ

まず、採用スケジュールは年によって変わります。2015年卒までは12月1日が就職活動の開始日でした。企業が採用に関する広報活動を開始し、学生がセミナーに参加する受付が始まります。そして面接など、選考活動の開始日は4月1日でした。

それが2016年卒からは広報活動の開始日が3月1日、選考活動の開始日が8月1日と大幅に後ろ倒しになりました。一般的に内定式が行われるのは10月1日頃。よって、学生は「それまでに自分は内定をもらうことができるのか」、企業は「こんな短期間に希望の人数を採用できるのか」と、双方が焦って困る事態になり、結局は形骸化してしまったそう。

そこで2017年卒からは広報活動の開始日は3月1日で変わらないものの、選考活動の開始日が8月1日から6月1日に前倒しに。2018年卒と2019年卒も同じスケジュールで動いているとのこと。つまり、ここ数年は広報活動の期間が2カ月短くなった分、選考が早まっているということになります。

新卒採用見込み(前年度入社者との比較)
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次に企業の採用意欲の変化を見ると、2010年度から概ね増加が続いており、今年も「売り手市場」なのは変わりません。

内定率の推移
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上はモニター調査による学生の内定率です。内定式が行われる1番上のグラフが10月1日時点ですが、内定率は2011年度を底に増加の一途。2018年は92.7%で2005年以降、最も高い数値になっています。

世情を反映して、学生のスタンスはどのように変化したのか

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Photo: ライフハッカー[日本版]編集部

数字だけ見ていると、学生にとって追い風のようですが、学生の実際の動きに変化はあるのでしょうか。松本さんによると、やはり学生は社会と密接に関わっているわけではないので、知っている企業の応募になりがちだそう。B to Bの企業や中小企業は企業研究をするといい会社とわかるものの、最初から目を向けにくいということと、中小企業は数が多いので、どう調べたらいいのかわからないという学生も多いそうです。

一方、選考スケジュールの変化による影響が見られるとのこと。以前は4月1日から大手企業の選考を受けて、納得のいく結果が出なかった人は6月くらいから中小企業を受けるのが学生の就職活動の一般的な動きでした。しかし、現在の売り手市場だと学生が早く始まる大手企業の選考だけ受けて、そのまま中小企業と関わることなしに就職活動を終了してしまい、中小企業は学生を採用できないかもしれません。そこで、大手よりも先に学生とコンタクトをとり選考を進める中小企業が増えているのだとか。

また、学生も早く内定をもらえるなら中小企業を受けてみようという気になり、受けてみたら良い会社だと思ったので入社するというケースもあるそうです。

インターンシップの役割が変わっている

インターンシップ実施・参加状況-1
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この「学生と早めにコンタクトをとる」方法として、活用されているのがインターンシップ。上はインターンシップの増加率ですが、縦棒のグラフが学生のインターンシップ参加数で、折れ線グラフが企業の実施率になります。

2015年は約3割の企業しかインターンシップを実施していなかったのに、2018年は6割と2倍に。広報活動の開始日が遅くなった分、何とかして早めに自社に興味をもってもらいたいということと、広報期間の短期化で自社のことを知ってもらうには時間が足りないが、納得した上で選考を受けてほしいという考えから、インターンシップを実施する企業年々増加しているとのこと。また、学生の参加数も大きく増加しており、今年は約8割の学生がインターンに参加しているという調査結果で、「就職活動はインターンから始まる」という考え方になってきているそうです。

インターンシップ実施日数についての考え
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また、インターンの日数も「半日インターン」「1日インターン」という短期のものが増えています。本当にインターンの意味はあるのかという議論はあるものの、忙しい学生でも気軽かつ早めに企業を知ることができるので、一定の評価があり、学生の参加数も増えているとのこと。自分のときのことを考えると、理系は実験や実習が多く、1~2週間も研究ができなくなるインターンはやりたくても無理だったので、短期の選択肢があるのは企業にとっても学生にとっても良いことに感じます。

手をかけるべきところ、かけないでいいところ

「就活疲れ」という言葉があるように、就活は体力的にも精神的にも疲れるものです。実は労力をかけすぎているところや、それを省いてむしろここは力をいれるべきところはあるのでしょうか。

まずはインターンシップですが、今は7~8割の学生が参加する時代なので、昔のように行っただけではPRにはなりません。希望の会社の職種と違う職種のインターンシップ経験を言うと本当は希望の会社に興味がないのかと思われてしまう可能性さえあります。インターンシップに参加するにも難関な企業の場合、それに参加できる実力があるということになりますし、ライバル会社のインターンシップを受けたなどは企業の興味をひくかもしれませんが、目的もなく、数だけ増やすのやめた方がいいそう。

次に、マナーは大事ですが、過剰に意識する必要はありません。ノックを何回するのか、おじぎや名乗るのはいつ、どのタイミングで何回するのかといったことに気を取られ、緊張で受け答えがうまくできなくなるのはもったいないもの。マナー講座で講師に教わった通りに全ての人に90度のおじぎをしたり、寒い中でも会社につくかなり前からコートを脱いだりするような学生も多いものの、見られているのは「型どおりにできるか」ではなく、「不快感を与えず、気持ちよく応対ができるか」。つまり社会人として基本的なことです。

それならば、「清潔感」や新卒ならではの「フレッシュ感」に気を使うべきです。スーツを着慣れないせいもあるでしょうが、電車に座ったときにスーツのジャケットの裾やスカートの裾がくしゃくしゃになってしまっていたり、シャツや袖口が汚れていたりする就活生は多く見られ、むしろこちらに気を使った方がいいと感じるそう。

そして企業へのエントリーに関しては、「字のきれいさ」や「書き間違いに修正ペンは使えるか」などが気にされていた手書きの履歴書ではなく、今はWEB入力が主流。とはいえ、最終選考の前に履歴書を提出するようにというケースはありますが、すでにエントリーシートで知っているうえで選考が進んでおり、たんに形式上必要ということがほとんどです。

今の時代の就活の効率のよいやり方、やるべきこと

インターンシップ参加企業への本選考応募と内定
Image: 株式会社ディスコ

先述のとおり、インターンの位置づけが以前とは変わっているので、上手く使うことが就活の成功を大きく左右します。インターンは企業の広報活動の場であると同時に、すでにプレ選考となっているところもあります。企業は学生にインターンの参加だけでなく、選考の応募もしてほしいと思っているので、夏にインターンに来た学生を秋に「セカンドインターン」として呼び、模擬面接をするなど、水面下での囲い込みのような動きが進んでいるそうです。

学生にとっては採用されるチャンスが増えるということですし、ほかの企業を受けるためのトレーニングになります。また、早めに企業に接触することで就職活動の心構えができ、気持ちの余裕が生まれるというメリットがあります。

さらにインターンは情報収集にも役立ちます。どのコミュニティに属しているかで入ってくる情報や量が変わるからです。2019年度卒の学生でも、大学が同じだとしても所属コミュニティによってすでに内定が何人も出ている、全く出ていないなど差があり、学校で自分が所属しているコミュニティにだけ合わせて行動していると乗り遅れる危険性があります。さまざまなコミュニティから情報をとってくることが重要とのこと。

それに、インターンシップではグループワークやディスカッションをするので、就活仲間をつくるきっかけとなります。自分の興味のある業界にインターンに行く人は同様に関連する業界を志望している人が多いので、お互いに情報交換をすることができます。実際に学生から、学校では就活に動いている友達はまだいないが、インターンで知り合った就活仲間とは動いているという話を聞くそうです。学校の友達だと就活の進捗状況について話しにくいものの、学外の就活仲間なら相談しやすいという場合もあり、メンタルを健康に保つというメリットもあります。

また、コミュニティ間のコミュニケーションツールとして役立ち、今は大抵の人が何かしら利用しているSNSですが、直接採用活動に結びついているかというと、フォロワーの多い人だけを呼ぶ面接はあるものの、まだ一般的ではないとのこと。興味深いのが、就活専用のTwitterアカウントを作る人は少なくないですが、企業をフォローして情報収集に役立てるだけでなく、これもメンタルケアの側面があり、本アカウントでは言えない本音をつぶやくという使い方もされているのだとか。

志望業界が決まったら、早めにインターン活動をスタートさせることと、就活仲間をつくること、情報交換することが大事です。

面接は人と人とのコミュニケーションであることを忘れずに

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Photo: ライフハッカー[日本版]編集部

就活の面接のはじめに自己紹介はつきものですが、これといった正解がないので迷うもの。自己PRが苦手な人でも少し気をつければできることなどアドバイスをお聞きしました。

よくあるのが、「部活のリーダーをやって大会を優勝に導いた」「バイトで自分の働きで売り上げが〇%アップした」といった“華々しい”エピソードがないことに悩むケースです。でも、企業が興味のあるのは、事実や結果より「他者とどう関わったのか」「自分はそこでどういう役割をして人を巻き込んだのか」という、「思考」と「行動」が見え、人となりがわかるエピソードです。実際に入社したときに、自分がどのようにその会社の中で人と関わって、どう行動をとるのか、活躍できるのかが面接官にイメージできるようにすることです。そして、自己PRは一番最初に話すことなので、面接官にこれから話をどう掘り下げてほしいのかを考えたうえでキーワードを盛り込み、会話が弾むように聞いて欲しいところは重点的に話すとより良いでしょう。

また、説得力があるというプレップ法のようなマニュアルを参考にする学生がいます。最初に結論を言ってから、理由を言うというもので、要所だけ使えばいいのですが、発言の全てに使うと会話としては不自然になります。会話のやりとりにならず、いくら素晴らしいことを言っていてもかえって記憶には残りません。また、うっかりマニュアルの「手順」を間違えるなど予想外のことがおこると、アドリブで対応できず、緊張して上手くいかなくなる危険性もあります。

結局、面接で最も重視されるのはコミュニケーション力。どんな職業の社会人でも不可欠なものだからです。でも、自分のことをPRするのが苦手という人は、先ほどの部活やバイトの成果といった「中身」がないから自信がない人が多く、それゆえにコミュニケーション力も下がってしまいがちです。しかし、「中身」と「コミュニケーション」は分けて考えるべきです。

そもそも、面接で上手く話せないのは社会人である大人と話すことに慣れていないのが大きな要因。実際、日頃アルバイトなどで大人と接している学生は、面接の練習を特にしていなくても、「普段どおりでいいんですよね」と言いながら、内定をとってしまうケースも珍しくないとのこと。もしも、まだ大学1、2年生で時間がある場合は、普段の生活の中で大人と話す機会を作ると良いでしょう。それほど就活まで猶予のない学生も、短期的なアルバイトやイベント、それこそインターン選考のための面接などでコミュニケーションを意識しながら挑むと効率的に面接力が身につくはずです。

それに、「中身」を作るのは難しいですが、コミュニケーションはトレーニング次第で何とかなる部分。大人とコミュニケーションをとることで、社会人の視点がわかり、「こんなことも自己PRにつなげられる」という発見から、「中身」作りにもつながります。また、大人と接することで、意識しなくても話し方やマナーといった総合的な社会人力が磨かれていくでしょう。それは社会に出たとき、そのまま役立ちます。

また、自分を良く見せることに罪悪感を感じてPRができない人も少なくありません。特に真面目な学生ほど、友人といるときや休日にダラダラしているときの「OFFの姿」の自分にフォーカスしすぎて「自分にはPRするような長所がない」と思ってしまいがちです。

でも、社会人にもOFFの姿があり、仕事の場では「ONの姿」を見せているもの。面接でも学生にありのままの「OFFの姿を求めているわけではありません。たとえば、「忘れっぽいので、重要なことは必ずメモをしてチェックする」など、ONのときにはOFFのときのだらしない自分が出ないように気を付けていることを語れば、逆に真面目さをアピールできます。

ほかには、成長した自分が実現できそうなことをPRすることも、「嘘」にはなりません。学生のときの経験や苦労は社会人になれば大抵すぐに超えられるからです。

社会人になると、企画をプレゼンしたり商品を売るためにより良く見せることや、その前に自身を知ってもらうといったコミュニケーションは欠かせません。いわば社会人に近づいた人から内定がとれるということでしょう。

つまり、就職活動というとゲームのように攻略をしてクリアするものというイメージがありますが、実際は就職活動の延長線上に社会人としての自分があり、単なる入り口にすぎません。就職活動だけに必要なスキルではないので、早めに身に着けた方が得とも言えます。効率的な就職活動を通して、内定とともに社会人になったときのアドバンテージも手に入れてしまいましょう。


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取材協力: 株式会社ディスコ