人間というのは、ここぞというときに緊張してしまう生き物です。適度な緊張はメリットをもたらすことがありますが、極度の緊張はパフォーマンスの低下を招きかねません。
特に就職や転職、社内の昇進試験などで行われる「面接」は、面接官と顔を合わせて話す大事な場なので、緊張もひとしお。面接のときにあがらないためにはどうしたらいいのか? 今回はそんなテーマでお送りしたいと思います。

お話を伺ったのは、一般社団法人あがり症克服協会代表理事であり、株式会社スピーチ塾の代表取締役である鳥谷朝代さんです。鳥谷さん自身、通院や休職経験があるほどのあがり症だったとのことですが、その経験を活かしてあがり症を克服するためのセミナーを主催。あがり症に関する多数の著書もあります。
「あがり症」には真面目な人が多い
そもそも、なぜ人間は大事な局面が訪れるとあがってしまうのでしょうか? 大きく分けると、身体的な原因と精神的な原因があるようです。
「身体的な面では、緊張するとノルアドレナリンという物質が分泌されます。そうすると、自律神経のうちの交感神経が優位に立ち、赤面や発汗という症状に表れます。精神的な面では、失敗したくない、うまくやりたい、かっこよく見せたいという思考が働いたときに、あがる状態になります」
緊張というのは誰にでも起こるものです。しかし、その緊張の度合いが他人よりも高く、身体的・精神的に影響が大きい人が、いわゆる「あがり症」と呼ばれます。
社会不安障害(SAD)と呼ばれる精神的な疾患もありますが、あがり症との境目を明らかにするのは難しいとのこと。鳥谷さんは「引きこもりになってしまい、まともに社会生活が送れないというレベルなら薬物治療を行う必要がある」と考えているようですが、面接や人前でのプレゼンなどで緊張するといった程度であれば、トレーニングやカウンセリングで十分改善できると言います。
「あがり症は、考え過ぎてしまう人や真面目な人がなりやすいですね。逆に、考えてもしょうがない、行き当たりばったりでなんとかしようと考える、いわゆるいい加減な人はあがりません(笑)」(鳥谷さん)
面接対策の第一歩は「服装」「表情」「姿勢」
まずは、面接での印象を良くするための、基本的なポイントを聞きました。
1つ目は服装。これは基本中の基本で、TPOに合わせた清潔感のある服装で挑むということ。
次に表情。あがり症の人は表情が硬くなってしまう傾向にあります。
「前歯が8本見えるくらいの笑顔が望ましいです。目線は目の高さで、顔は正面に向けて。そういう基本的なことはやっておかないともったいないと思います。服装と表情、これらを気にしないということは面接を半分捨てているようなものです」
そして、姿勢も重要。姿勢が悪いと、好ましい印象を与えることはできません。また、発声にも影響を及ぼすため、姿勢は重要です。といっても難しいことはありません。背筋をピンと伸ばすだけ。そうすると自然と目線も高くなり、相手の顔を見て話すことができるようになります。
笑顔になり姿勢をよくするだけで、自分に自信が付いてくると言います。服装と表情と姿勢。まずはこの3つを気にするようにしましょう。面接対策の第一歩です。

「想定問答集」は丸暗記しないでストーリーで記憶する
面接であがらないためには、しっかりと準備をしていくことが大切です。想定問答集などを作成して練習するといいでしょう。しかし、丸暗記はNGです。
「話す言葉を丸暗記をしていると、本番でちょっと忘れてしまった時に、一気にあがってしまいます。なので丸暗記するのではなく、話すポイントを抑えて、ストーリーや映像などを思い浮かべながら話すようにするといいでしょう」
メモを作る場合でも、かっちりとした文章ではなく、ストーリーがわかる程度の箇条書き程度にとどめておき、それを参考に自分の言葉で話せるように練習しておくほうが緊張しないそうです。
発声練習をしておこう
もう1つ鳥谷さん意識しておくべきだというのが発声です。人前で上手く話せない、声が震えるというのは普通のこと。これを解消するためには事前の練習が効果的。ポイントは4つあります。
・姿勢をよくする
姿勢が悪いと声が出にくくなるので、姿勢をよくすることで発声がしやすくなります。見た目もよくなり一石二鳥。
・体を柔らかくする
体が硬いと声や表情も硬くなってしまいます。ストレッチなどで体を動かしたり、伸びをすることでリラックスして声を出しやすくします。
・腹式呼吸をする
声がうわずったり震えたりするのは、呼吸が浅いのが原因です。腹式呼吸でおなかに息をためて吐き出すようになると、自然とおなかから声が出るようになります。
・滑舌を鍛える
話しているときに噛んだり詰まったりすると、さらにあがってしまうということがあります。早口言葉など、アナウンサーがやるような滑舌の訓練を日頃からしておくといいでしょう。
これらのことを日常で意識していれば、面接のときに声が出なくなったり、うまく話せなくなるという失敗が少なくなります。また、面接の練習をしたものをビデオで録画して見返すのも効果的と鳥谷さんは話します。
「相手から見た自分の印象や口の開き方、表情、滑舌などを、後から自分で見てチェックするというのは重要です。客観的に見ることで、自分のどこが悪いのかがわかりやすくなります」
「面接直前」の緊張をほぐす方法

会社の面接では、自分の順番が回ってくるまで控え室や廊下で待つことがあります。事前の準備をしてきていても、この待っている間に緊張が高まってしまいますよね。鳥谷さんはこれを「待ち緊張」(待ち緊)と呼んでいます。
「待っている間、やることがないので自分に意識が向いてしまう。体も小さく縮こまってしまいがちです。待ち緊をほぐすには、周りの景色を見るのが効果的です。会場の雰囲気だったり、会場へ来る途中の景色を見てておくのもいいですね。自分以外のものに意識を向けて、自分に意識がむきすぎないようにします」
また、呼吸法やストレッチも効果的とのこと。深呼吸をしたりストレッチをしたりすることで、震えが止まりリラックスして面接に臨むことができるようになります。
特に、腹式呼吸を意識するといいでしょう。まず背筋を伸ばして、鼻からゆっくり息を吸い込みます。その後、おへその下に手を当てて、おなかを引っ込めながら息を全部吐き出します。時間にして10秒から20秒ほど。そしてまた、おなかを膨らませながら鼻から息を吸い込みます。これを繰り返しましょう。
発声練習も直前にしておくと効果的ですが、ほとんどの場合、発声練習はできないはず。そこで鳥谷さんは、講演会や司会などの仕事で会場へ向かう途中で、できるだけ話すように心がけているとのこと。
「タクシーに乗ったら運転手さんとしゃべったり、会場のビルのガードマンさんや、講演会のスタッフの方などと話します。話す内容は何でもいいんです。とにかく声を出しておかないと、いきなり人前で話すときに声が出なくなります」
緊張で喉が渇くことがありますが、飲み物は適度に。あまり飲み過ぎるとトイレが近くなってしまいます。また、重い食事を直前に取ると体調に悪影響を及ぼすため、軽めにしておきましょう。
「面接本番」に挑む時の心構え

それまでなんともなかったのに、いざ面接本番が始まったら途端にあがってしまう。そんなこともよくあります。あがらないためには、どのような心構えで臨めばいいのでしょうか。
「そもそも面接というのはあがるものです。あがってはいけないと思うとますますあがってしまうので、“あがって当然”と思ってください。決して悪いことではありません。むしろ、その緊張感のなかで自分の話すべきことを話すということに集中したほうが、いい結果になると思います」
あがり症の人は完璧主義者が多いため、面接中にちょっと言葉が詰まったり数秒沈黙ができただけで、すべてが台無しと思ってしまいがち。しかし、意外と面接官は気にしていません。
「面接というのは『会話』です。正解があるわけではないので、面接官の質問に対して、ありのままに答えることが大事。すらすら答える必要なんてないのですから、多少言葉に詰まっても気にする必要はありません」。
そう思うと、少し気が楽になりませんか?
自己紹介の適切な時間は1分
就職や転職での面接では、自己PRや自己紹介から始まることがあります。この自己紹介、どのくらいの時間がベストなのでしょうか。
「適切な時間は1分です。内容的には、職歴や志望動機などを話すのが普通ですね。文字数に換算すると約300文字。原稿用紙1枚弱なので、それほどたくさん話す必要はありません」
面接で必ず聞かれるというものでもありませんが、300文字くらいの内容なのであらかじめ考えておくのがいいでしょう。
逆に、自己紹介に限らず、面接官の質問に対して3分も5分も話すのはNGとのこと。自己紹介に限らず、乾杯のスピーチなども長いのはNG。基本は1分ということを、頭に入れておきましょう。
一度の成功体験であがり症は克服できる
あがり症の人は、たいていトラウマを抱えています。鳥谷さんの場合は、中学生のときの国語の授業における本読みだったそう。そこで「失敗してはいけない」と思ううちに、あがり症になってしまったということです。
しかし、そのようなトラウマは1回の成功体験で払拭することができます。面接ならば、場数を踏んでいき「今日はうまく話せた」という感触が得られれば、それ以降はあがることはなくなるとのこと。
面接前の練習、面接直前の「待ち緊」の解消、そして面接本番中の心構え。これらを頭に入れて面接に臨めば、あがってしまってうまく話せないということはなくなるはず。面接でうまくいかないと悩んでいる人は、ぜひ実践してみてください。
Image: baranq/shutterstock
Photo: 三浦一紀
Source: 一般社団法人あがり症克服協会