映画『エイリアン』の初公開から40周年を記念して、20世紀フォックス社は『エイリアン』の世界を舞台にした6つのショートフィルムをスタジオプラットフォーム Tongalの協力を得て制作しました。
その6作の中で最も人気があった『Alien:Specimen』を制作・監督したのがケルシー・テイラー(Kelsey Taylor)さんです。テイラーさんは、CollegeHumorや1 Minute Horrorのプロジェクトに加えて、自身のショートフィルムのプロジェクトにも携わってきました。
そんなテイラーさんに、映画撮影の現場や脚本執筆のプロセス、撮影後の編集プロセスについて話を聞き、Premiere Proのタイムラインを使った『Specimen』の編集作業も見せてもらいました。この記事を読んでおけば、今後公開されるであろう彼女のフィーチャー映画をより一層楽しめると思
います。
居住地:ロサンゼルス
現在の職業:映画の制作準備(プレプロダクション)段階から担当するフリーランスの映画監督
現在のPC:13インチのMacBook Pro(タッチバーはまだ使っていません)、27インチのiMac
現在の携帯端末:128GBのiPhone 7
仕事の仕方を一言で言うと:全か無か
『エイリアン』のショートフィルムが人生の転機

── まず、略歴と現在の仕事に至るまでの経緯を教えていただけますか?
雨がほとんど降らないワシントン州東部で育った私は、11歳の頃から映画を作りたいと本気で思っていました。5年生のプロジェクトで『Tuck Everlasting』という本を脚色して、その願いが初めて叶い、以来ずっと映画を作り続けています。
大学で学位を取得してから映画製作をしても遅くないと何度も諭されていましたが、本心では映画学校に行きたいといつも思っていました。ロヨラ・メリーマウント大学に入り、映画制作の学位を取得し、映画研究と音楽を副専攻にしていました。
大学卒業後、生活費を稼ぐために、カメラアシスタントや電気工として働きました。映画の監督をするチャンスはほとんどありませんでしたが、つかめるチャンスはギャラの有無に関わらず全部つかみました。
経験のポートフォリオを豊かにしながら必要なコネを作れるし、制作に携わり監督のアシスタントをすることで自分の価値を証明できると思ったからです。今関わっているプロジェクトが次のプロジェクトにつながることもありますから。
やがてTongalに入会しました。これは、知名度の高いブランドやエンターテインメント企業に世界中の映画制作者がプロジェクトを売り込む機会を与える実に実力主義の素晴らしいプラットフォームです。
20世紀フォックス社が6人の映画制作者に予算を与えて『エイリアン』の世界を舞台にしたオリジナルのショートフィルムを制作するという取り組みが、私の人生の転機となりました。そのショートフィルムのおかげで、私が書いた脚本をプッシュしてくれるマネージャーに出会ったからです。
その後、嬉しいことに私はフューチャー映画に移行することになり、来年に向けて別のフューチャー映画を制作中です。
テイラーさんの仕事の1日
──最近の1日の流れを教えてください
私の仕事は、日によって異なります。生活費を稼ぐための商業的なプロジェクトと長編作品のバランスを常に取るようにしています。撮影現場にいるときは、ルーティンは完全に忘れます。
執筆する日は、ヨガと自作のSpotifyのプレイリストでスタートします(プロジェクトごとにプレイリストがあるんです)。これで文章を書くモードに入り集中できます。はっと閃いて筆がすらすら進むまで、ラップトップの前に座って3〜4時間考えていることもあります。
インターネットは使用禁止です。1日中こんなふうに過ごして、夕食の頃には燃え尽きていることもあれば、勢いづいて真夜中まで書き続けることもあります。
コマーシャル制作の日の一例
- まず、New York Timesで朝の情報インプットを始めます。どんな重要なことが起こっているか把握できるので、映画を制作するよりまず世界を救うべきだという気持ちになります。
- 私が監督した2つのコマーシャルを編集している弟のところに行き、クライアントに送って見てもらう前に、全体を確認して微調整します。
- Tongalのプラットフォームの新しい概要を読んで、ピッチ資料を作成します。
- 近所をランニングして、新鮮な空気を吸い日の光を浴びます。
- 時間とエネルギーがあるときは、夜にフューチャー映画の資料を作り、ブレインストーミング、リファレンスを集め、大まかなスクリプトの変更をして1日が終わります。
テイラーさんの仕事ツール
── 「これがないと生きられない」というアプリ・ソフト・ツールは?

一番はラップトップです。すべてのファイルをiCloud Driveに保存して、デスクトップでもラップトップでもアクセスできるようにしています。
Appleのリマインダー(Appleの美学に惚れ込んでいます)とカレンダーを使っています。誰かとコラボするときはWunderlistを使用して、タスクを割り当てています。
脚本を書くときは、必ず脚本ソフトのFinal Draftを使い、私にとって「バイブル」であるJohn Truby著『The Anatomy of Story』を側に置いておきます。あと、Jill Chamberlain著『The Nutshell Technique』も常に近くに置いてあります。
ピッチやトリートメント(映画やテレビドラマの制作において、主要場面の構成やカメラ位置などの概略をまとめたもの)を作成するときは主にInDesignを、IllustratorやPhotoshopと組み合わせて使っていますが、どれもあまり得意ではありません。幸い、何にでもチュートリアルがあるので助かっています!
編集はPremiere Proでしています。
常に変化する時代ですから、何かに集中的に依存し過ぎないようにしています。
──ToDoはどうやってトラッキングしていますか?
すべてリスト化しています。リストが無いと、仕事が全然片付きません。「食料品の買い出し」「植物に水をやる」「ピッチの提出」などと書き出すと、頭の中がすっきり整理されます。
大きなタスクを小さなタスクに分解することもあります。「ピッチを提出」と書く代わりに、「リファレンス画像を集める」「アウトラインの作成」「ピッチにテキストを書き込む」と書き出すと、1つやり遂げるたびに「済」のマークが増えるので、生産的になった気分になれます。
映画監督の仕事場とは

── 仕事場はどんな感じですか?
トリートメント、ピッチ、予算をまとめるときは、自宅のデスクかオフィスのデスクトップPCを使用しています。仕事場に入るたびにクリエイティブなインスピレーションが湧くようにしたいので、部屋の装飾は海賊をテーマにしています。『Black Sails』という番組を見たせいです。
皮肉なことに、そのデスクで書き物をすることはありません。かしこまり過ぎる気がするからです。書き物をする場所をたびたび変えたい方なので、ソファや床やベッドで書くこともあります。ラップトップがあって静かな環境ならどこでも仕事できます。
音楽を聴きながら文章を書くと、聴いている音楽にいつの間にか文章が影響を受けてしまうことに気づきました。ですから、書き物をするときは音楽は聴きません。
集中力とモチベーションを維持できる限り、どこで仕事をするかはどうでもいいことです。細かいことにはこだわらないタチなので。

──仕事場で採用しているプロセスで、興味深いもの、珍しいもの、こだわりがあるものがあれば教えてください
ハードディスクの管理がめちゃくちゃなんです。作業中に使用するドライブがあり、プロジェクトが終わると、中身をベアドライブに移します(その方がはるかに安く、いったん入れるとめったに出すことが無いので)。
そういうベアドライブが段ボール箱1杯分もあるので、古いプロジェクトを取り出す必要があるときは、いつも本当に大変で時間もかかります。
── お気に入りの時間節約術やライフハックは何ですか?
私はプロジェクトの前撮りが大好きです。一連のアクションシーンを前撮りしたり、全体を撮影して細かくカットしたりします。現場では、頭がとてもクリアになって、各瞬間や各ショットのあるべき姿が正確にわかります。
全部を撮影できないときは、毎回友人やアクションフィギュアの助けを借りてフォトボードを作ります。私は絵を描くのが下手なのでこうしています。フォトボードを作ると、誤解や口論や無駄な時間を無くせるので、気に入っています。

テイラーさんの息抜きタイム
──どのように充電したり休憩していますか?
ランニングしに行きます。考え事をしながらランニングすると気分がほぐれます。ランニングからウォーキングにして思考速度が体の動きに追いつけるようにすることもあります。何であれ体を動かすと、神経エネルギーが活発になります。
フィーチャー映画を仕上げると、ボーイフレンドと家にこもって何日もテレビ三昧になります。私はもともと自己管理能力が欠けているタチですが、テレビに関しては特にそうです。最近気に入っている番組は、『Dark』(Netflix)と『The Last Kingdom』(Netflix)です。
自分以外の人間の1日を垣間見るのはとても楽しいです。
── どんな人たちからどのように仕事を助けてもらっていますか?
マネージャーのGavin Dormanさんは、いつも私が集中できるようにしてくれますが、何よりも重要な点は、いつも現実的であることです。彼はとてもストレートにものを言う人で、私もそうなりたいと思って努力中です。周囲の人たちにもストレートに発言してもらえると嬉しいです。
私の弟のDawson Taylorも監督をしていて、必ずしも私と意見が一致するわけではありませんが、まずい点があれば必ず私に言ってくれると信頼できる人物の1人です。弟は私の作品をたくさん編集しているので、お互いに自分の正しさを主張して議論することに多くの時間を費やしています。
ボーイフレンドのAdam Leeさんは撮影監督をしていて、全てに関して私の共犯者であり協力者でもあります。彼は、執筆プロセスから編集の完成まで、私がすることすべてに関与しています。2人とも自己主張が強いので、相手を説得しようとしてずいぶんフラストレーションを感じていますが、うまく説得できると、自分の意見の正当性を実感できます。
執筆中の私は、1人で考えながら黙々と仕事をしています。みんなからメモやフィードバックをもらっても、どれが正しいかは私が自分で決めるしかありません。でも、無作法なぐらい私や私の仕事に対して正直でいてくれると信じられる人たちがいないと、私は仕事ができないでしょう。
過去の失敗談と、その対処法

──これまでの人生で犯した最大の過ちは何ですか?それにどのように対処しましたか?
自分が望んでいるものが頭の中ではわかっていても、具体的に明確な説明ができないことです。みんなが同じビジョンを持っているわけでないことを忘れてしまうことがあります。視覚に訴えるリファレンスを交換すると具体的に説明できて、全員の理解が共通になります。
私の撮影監督はそれをさらに一歩進めることを教えてくれました。彼は、リファレンスを見ると、必ず最初に「君はこれのどこが好きなの?」と聞きます。照明、構図、カラーパレット、ブロッキング、どれをとっても作品に多大な影響を与えるからです。具体的に言わないと、各人の解釈の違いによって失われるものはたくさんあります。

──仕事の合間に何をするのが好きですか?
ミュージカルに参加することです!私はピアノが弾けるので、長年伴奏者をしていました。ピアノとミュージカルという大好きな2つを結びつけられます。このプロジェクトに取り組んでいると、映画を作りたいと思った当初の気持ちを思い出します。
──お手製のプレイリストをシェアしてくれますか?
プロジェクトに取り組んでいるとき、Spotifyのプレイリストを自分で作るのが大好きです。執筆中は音楽を流しませんが、執筆を始める前やリファレンス画像の収集をする前にプレイリストを再生します。コラボしている人たちとプレイリストをシェアするのもいいですね。作品のトーンをすぐに伝えられるからです。
──今日あなたがされたのと同じ質問をしてみたい相手はいますか?
Patty Jenkinsさん(アメリカの映画監督兼脚本家)
彼女が登場して私は本当に刺激されました。私がやりたいことを最高レベルで実現している人です。彼女はプレプロダクションをどのようにとらえているのか、また、複数のクリエイティブな仕事をどうやって同時に回しているか知りたいと思っています。

──今、何を読んでいますか? おすすめの本はありますか?
これを言うのはちょっと恥ずかしいのですが、今、Gil Bettman著『First Time Director』を読んでいるところです。パーティに行った先で、この本を本棚から取り出して読んだら、夢中になってしまいました。Bettmanさんのアドバイスはとても実用的であると同時に具体的で、私がはるか昔に初めてフューチャー映画の制作に携わったときの体験にそのまま当てはまります。
村上春樹著『走ることについて語るときに僕の語ること』もおすすめです。文筆を職業にしている人に読んで欲しい素晴らし一冊です!是非お読みください。
──これまでにもらったアドバイスの中でベストなものを教えてください
「問題はプレプロダクション段階でクリアにしておく。」です。これまでもらった中で最高のアドバイスであり、いつもこのルールに従っています。
──挑戦中の課題はありますか?
首尾一貫した夢を見ること。そうすれば夢を脚本にあてはめることができるので。
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Video: Alien Anthology/YouTube
Nick Douglas – Lifehacker US[原文]