敏腕クリエイターやビジネスパーソンに仕事術を学ぶ「HOW I WORK」シリーズ。
今回登場するのは、Peatix Japan株式会社取締役/ゼネラルマネージャーの藤田祐司(ふじた・ゆうじ)さん。
同社のイベント管理・集客サービス「Peatix」から、イベントのチケットを購入したことがあるという方は多いのではないでしょうか。
今回は、他のサービスとは一線を画すPeatixが立ち上がるまでの裏話や、藤田さんの実践する仕事術についてお話を伺いました。
これまでに至る略歴と、現在の仕事に就いたきっかけを教えてください
2002年に新卒でインテリジェンス(現・パーソルキャリア)に入社しました。当時はまだ200人ぐらいの規模で、ベンチャー感満載の時期。25歳の社長が経営するグループ会社に自ら手を挙げて出向し、かなり若いチームの中で法人営業をやりました。
ところが、入って1年も経たないうちに、そのグループ会社が本社に吸収されることに。個人的に納得がいかず、若気の至りもあって退職を決め、2003年3月にAmazonに転職しました。
Amazonには6年間在籍し、マーケットプレイス事業の営業からはじまり、アカウントマネージャー、セールスマネージャーなどを担当。いろいろなプロジェクトに関わらせてもらいました。
その後、Amazonで仲の良かった同僚たちと4人で起業したのが、Peatix Japanの前身であるOrinoco株式会社でした。
登記自体は2007年7月なので、もう11年経ちますが、Amazonを辞めて起業1本になったのは2009年の半ばぐらいです。それまでは二足のわらじで、終業後に夜な夜な集まったり、ミーティングしたりしながら事業を温めていました。
Peatixができるまでは?
サービスとしてのPeatixを立ち上げたのは2011年5月で、その前の2年間は暗黒時代でした(笑)。
最初に立ち上げたサービスは半年ぐらいでクローズし、2つ目も大きくは育たず。コンサルティング事業をやったり海外のマーケティングサービスの代理店をやったりしながら、なんとか会社を維持させていました。
2010年の秋ぐらいに1度単月黒字化したのですが、「起業したからには、やはり自分たちのサービスを勝負したいよね」ということで、うまくいきかけていたコンサル事業等をすべて閉じることに。
頭おかしいですよね(笑)。ようやく苦しいところから抜けだせそうだったのに、それを捨てるなんて。
ただ、コンサル事業の中で既存のウェブサービスについてかなりリサーチをしていて、イベントにまつわるサービスがアメリカで盛り上がっているということがわかっていたんです。それが、今後日本でも来るんじゃないかと考えていました。
もともと「表現する人を応援する」というのが会社のコンセプトとしてあって、それまでにアーティストをサポートするサービスや自分で書いた小説をPDF化して売るサービスを立ち上げたこともありましたので、そうした自分たちのコンセプトとも合致するということで、新しくPeatixというサービスを立ち上げることになり、今に至ります。
現在の仕事について教えてください

Peatixがスタートした当初は、いろいろなコミュニティや企業の方たちとお会いして、サービスを啓蒙していくチームを統括していました。
2011年の冬にアメリカに本社を移し、シンガポールやマレーシアなど世界各地に拠点が拡がっていったタイミングで、グローバルのセールスチームの責任者に。
その後、日本のマーケティングやPR戦略を担当し、去年の9月からはゼネラルマネージャーという立場で、国内のセールスマーケティングやイベント周りの統括をしています。
最近では「コミュコレ!~Community Collection SHIBUYA 2018 」など、イベントの運営やモデレーターを務めることもあります。
Peatixと他のチケットサービスの違いは?
チケット販売のサービスだとはまったく考えてなくて、イベントやコミュニティを支援するサービスであると考えています。
チケッティングの機能というのはほんの一部であって、コミュニティやイベントとPeatixのユーザーをどれだけマッチングできるか、というところにものすごく力を入れています。
Peatixのレコメンデーションエンジンによって、それぞれのユーザーにマッチしそうなイベントをプッシュ通知やメールで知らせます。結果的に、Peatixを使って集客をしてくださると、平均30%強の方がレコメンドからイベントに参加しているというデータが出ています。
この点については、他のサービスとは一線を画すところかなと。現在約280万人の会員がおり、データも集まって来ているので、かなりレコメンデーションの精度が高まってきています。
また、今Peatix上では7000件ほどのイベントが常に申し込み受付中になっているのですが、ビジネス系、エンタメ系、ライフスタイル系のイベントが、それぞれ3分の1ずつの割合で存在しています。
他のサービスではイベントのジャンルをある程度絞っているケースが多いのですが、我々はオールジャンルでやらせていただいており、その点も特徴だと思います。
音楽好きの人でも音楽にしか興味がないわけではないですし、普段は仕事をしていて、例えばマーケティングのことを勉強したいという方もいるでしょう。いろいろな趣味嗜好の方たちにサービスを使っていただき、レコメンド機能によって新しい出会いが生まれてくれればいいなと思っています。
愛用している、仕事をうまく進行させるためのツール(ToDoリスト、アプリ、道具など)はありますか?

「iPad Pro」。ミーティングが多いのですが、基本的にはiPadを持ちこんで、外に出る時も持ち歩いています。一番使ってるツールですね。Split Viewで、チャットや資料等を横に並べて作業ができるのが便利です。

Logicoolの「Spotlight」というプレゼンツールもよく使います。イベント登壇の際などに、画面に写したスライドや資料を、レーザーポインターで指し示したい時がありますよね。

そんな時この「Spotlight」があれば、指し示したい部分を画面上で絞り込み、周りを暗くすることで、その部分を強調することができます。会場によってはモニターが複数あることもありますが、この機能を使うことですべての画面に絞り込みが反映されるので、会場の方にストレスをかけることなくプレゼンができます。
社内でのコミュニケーションは「Slack」で行い、メールのやり取りはゼロです。社外の方とはメールも使いますが、8割くらいがFacebookメッセンジャーです。
ノートアプリの「Noteshelf」も便利です。社内と社外、1対1のミーティングなど、それぞれファイルをつくって管理することで、その相手と何を話したかというのが一覧でわかるようになっています。
個人のタスク管理は「Todoist」を使っていて、プロジェクト管理は「GitHub」を使っています。もともとは開発チームのみがGitHub使ってたんですけど、今はビジネスサイドも含めて全社的にGitHubでプロジェクト管理をするようになってます。
仕事をうまくいかせるために習慣にしていることは?
1つは、イベントの現場に行くことです。毎週何個かのイベントには必ず参加させていただいてます。
ずっと同じ仕事を続けていると、「こういうものだ」と考えが硬直化してくるので、イベントを通して新しい出会いや考え方に触れることで、そうならないように気をつけています。
行き慣れた心地の良いコミュニティだけではなく、普段自分が行かないコミュニティが主催する、"アウェイ"のイベントにも意識的に参加するようにしています。"違和感"のある場所に自分の身を置くことが大事で、次の仕事につながるもことあります。
最近だと「LIMITS」というデジタルアートバトルのイベントに参加したのですが、普段接してないデジタルとアートの世界で、これだけ心を動かされるものがライブパフォーマンスとして提供されていることに衝撃を受けました。
また、去年の頭ぐらいに参加した「渋谷をつなげる30人」というプロジェクトのキックオフイベントは、その後の仕事に大きく影響を与えました。
渋谷エリアで活躍している30人が、「まちづくり」をテーマにさまざまな取り組みを行うソーシャルアクション系のプロジェクトです。僕自身はその30人というわけでもなければ地域の活動に関わりがあったわけでもなかったのですが、たまたま声を掛けられて参加することになりました。
渋谷区は会社のオフィスもあるし自分も住んでいるのでもともと縁はあったのですが、これを機に渋谷区という地域を今一度見つめるきっかけになり、その後から、同じ渋谷にある東京カルチャーカルチャーと一緒に、地域に関わるイベントをやるようになりました。
これも、普段からさまざまな領域のイベントに顔を出していることの成果だと思います。
もう1つは、ランチにサラダを食べるようにすること。ここ2、3カ月意識しているのですが、きっかけは企業にサラダをデリバリーするサービスを行っているサラドというベンチャーが主催するイベントに参加したこと。
そのイベントで、「血糖値の上昇を抑えると眠くならない。それにはサラダがいい」という話を聞いて、取り入れてみることにしました。
思い込みなのかもしれませんが、ランチ後にあまり眠くならなくなりました。ミーティングが多い日などは極力サラダだけ食べるようにすると、頭がすっきりした状態で過ごすことができています。
お気に入りの時間節約術を教えてください
やることがたくさんあるので、油断するとすぐに何かを忘れたり、時間に追われたりという状況になってしまいます。そうならないように、朝カフェに寄ってゆっくりコーヒーを飲みながら、今自分がやっていること、チームがやっていること、全社的な状況などを振り返る時間を設けるようにしています。
そうしないと一瞬で時間が流れていって、気が付くと1年が終わっている…なんてことになってしまうので、自分が置かれている状況を定期的に整理することで、あまり無駄な動きをしないように意識しています。
ハードワークを乗りこなすコツは?
性格的なものなのか、基本的にめちゃくちゃポジティブで、すごく忙しくてストレスがかかるような状況でも、あまり追い込まれない方です。
忙しいのは悪いことじゃないし、特にスタートアップで暇だとおそろしいことになるので(笑)、その状況をいかに楽しむかということを常に考えています。
忙しいことで機嫌を悪くしたり、それによって近づきにくい空気が生まれたりすると、チームや周りの人が遠慮して話しかけない、情報が入ってこない、結果として業務の進行が遅れる、というようなことにもつながりかねません。
すごく意識をしているわけというではないですけど、いつもオープンマインドで、固い空気は作らないようにしています。
仕事場はどのような環境ですか?

この4年半ぐらい、スタンディングデスクで仕事をしています。
長らく、自分のデスクの上に板と箱を組み合わせて自前のスタンディングデスクをつくっていたんですが、去年の10月に恵比寿のオフィスに引っ越したタイミングで、「Loctek」というアメリカのメーカーのスタンディングデスクを導入しました。バーで高さを自由に調整できます。
基本的には健康目的ですが、立っていると顔が常に見えていて、オフィスのどこにいるのかを見つけやすくなるので、前述の「話しかけやすさ」というところにもつながるかもしれないなと、今思いました。
仕事において役に立った本、効果的だった本は何ですか?
『ノンデザイナーズ・デザインブック』という本で、デザイナーじゃない人のためのデザインの本です。デザイナーじゃなくても、プレゼンの資料などを作る際に、文字や写真の配置などを考えることはありますよね。
デザインに関してはデザイナーの専門だから自分はあんまり関係ないと思っていたんですけど、この本ではメッセージを届ける上でのデザインの重要性や、デザインを考えるためのプロセスや事例が丁寧に書かれており、とても勉強になりました。
もう1冊は、佐藤尚之さんの『ファンベース』。さとなおさんとは出身の中高が一緒で、なんとなくこれまで意識はしていた方です。
僕たちはコミュニティの力というのをすごく信じているし、これからもコミュニティを応援していきたいと考えています。
最近は、企業の方たちがコミュニティマーケティングと呼ばれるような、「コミュニティをどのようにファン作りに活かしていくか」ということを真剣に考えるようになってきています。
Peatixも企業の利用が増えているので、そのような相談を受ける機会もありますし、クライアント様向けにコミュニティ作りにつながるようなイベントを企画、運営することもあります。
7年間Peatixをやってきて、コミュニティづくりについてはずっと考えてきましたが、この本にはそのノウハウがものすごくわかりやすく凝縮して書かれており、自分の頭の中が整理されたような感じがしました。
いまお答えいただいている質問を、あなたがしてみたい相手はいますか?
株式会社uni’que(ユニック)の若宮和男さんです。
「女性の感性でカラフルな世界に」というミッションを元に、「Yournail」というオーダーメイドのネイルシールを作れるアプリを開発している会社です。
ユニックは社員全員が複業をしていて、若宮さん自身も今ランサーズに「タレント社員」として所属しながら会社経営もしているという、とてもユニークな会社です。
経歴もおもしろくて、若宮さんは一級建築士の資格を持っていて、建築事務所からキャリアをスタートし、その後NTT docomoに入って新規事業を立ち上げ、DeNAでも新規事業に関わった後、起業されました。
自分の会社のことやりながら複業して、イベント等にも登壇するなどかなり忙しくされていると思うので、時間の使い方やそれぞれの仕事での切り替え方はどうなっているのか、すごく気になりますね。
これまでにもらったアドバイスの中で、ベストなものを教えてください。

イベントなど、人前で話をする機会が増えてきたタイミングで父に言われたことが印象に残っています。
「今度出演するイベントの登壇資料を作ってる」という話をしていた時に、「10準備して出せるアウトプットは1。だから、10の結果を出さなきゃいけないんだとしたら100準備しなきゃいけない」と言われました。
だから、「徹底的に準備に準備を重ねて良いものを出せ」と。
僕はどちらかというと楽をしたいタイプの人間なので、10のアウトプットを出すなら8は出せるように頑張って、なんとなく10っぽく見せられればいいかなと考えてしまうんですけど。
徹底的に準備して臨まないと、来てくれた人や呼んでくれた人に対しても失礼だし、実際に準備が不十分だとしっかりとした結果を出せないということに改めて気づかされて、今一度ちゃんとしなきゃなと思った記憶があります。
有名人の格言でもなんでもないんですけど、最近ではもっとも行動に影響を与えてるアドバイスです。
父親はいわゆる大手企業で長年勤め上げた人で、通常だと息子たちも大きい会社に就職し、勤め上げていくという考えを持っていたと思うんですが、僕も弟も起業したので、結果的にそうはならなかったという(笑)。
父はものすごくよく働いている人でしたが、ネガティブな側面を一切見せない人だったので、小さい頃から仕事は嫌なものだとか辛いものだというイメージはなかったですね。
僕も仕事が苦になっているタイプではないので、父のそういう姿勢を見られたことは、自分にとっても幸せだったなと思います。
Screenshot: ライフハッカー[日本版]編集部 via Youtube/Spotlight™
Photo: 大崎えりや