コロナ禍になり、私たちはかつての「当たり前」を見直す必要に迫られました。
そのひとつが、紙を使った情報共有ではないでしょうか?
ラジオ局でも、放送に関する情報を共有するために毎日たくさんの紙を印刷するのが当たり前だったそうです。
コロナ禍で非接触やリモート放送への対応に迫られ、紙を使い続けることが困難になったJ-WAVEは、iPadを使ってペーパレス化を実現。
実際に生放送を行っている現場を取材しました。
ペーパレス化で紙の消費量を約35%削減
ラジオの現場では、話し手であるナビゲーターのほかに、ディレクターやミキサー、AD、構成作家などたくさんのスタッフが関わり、番組進行についての情報を共有しながら放送を行っています。
放送の細かい内容が書かれた原稿は、番組の進行状況にあわせて頻繁な書き換えや追記が行われますが、修正の度に人数分を印刷して配布する方法がとられていました。
しかし、受け渡しの際に接触が発生してしまうことに加え、コロナ禍では状況に応じてリモート放送を行ったり、スタッフの人数を絞ったりしなくてはならないケースもあり、紙を使った従来の方法で進めるのは困難だと判断。
2020年初頭から、ペーパレス化に踏み切りました。
現在は39台のiPadとApple Pencilがスタジオに常設され、生放送は原則として全番組でペーパレス化を実施しています。
結果的に、印刷する紙の量はペーパレス化前後で約35%削減できたそうです。
iPadにApple Pencil&Pagesを選んだ理由

じつは同局には、コロナ禍以前からiPadを使ったペーパレス放送を実現していた番組があります。
毎週月〜木の朝9時から放送されている『STEP ONE』でナビゲーターをつとめ、みずからペーパレス化を提案・推進したサッシャさんとノイハウス萌菜さんに導入の経緯などをインタビューしました。
−−iPad導入のきっかけは?
2020年にSTEP ONEのスタッフが特番を担当したのですが、そのときの番組のテーマがSDGs。iPadを2台購入して、試験的に紙の台本を使わない放送を行いました。
その後、STEP ONEもペーパレス化しようという話に。
僕は私物のiPadを持ち込み、ほかのメンバーはスタジオのiPadを使って、それぞれが手元で台本を見ながら放送を進めるようになりました。
最初はPDFの台本を使っていたのですが、それだと変更時の反映などは難しく、iPadが手元にないスタッフには結局紙で共有することになります。
関係者全員とリアルタイムで情報を共有できればもっと便利になるし、紙の原稿が不要になりコストの削減にもなる。その方法を実現できる方法を考えることにしました。

−−導入にあたってどんなことを実施しましたか?
まず意識したのは、ハードルをできるだけ下げることです。
お金がかかったり、デバイスに制約があったりすると、それを理由に導入を嫌がる人がいるだろうと思い、無料で使えてどんな環境からも使えるサービスを探しました。
最初は、デバイスの制約の面を考えてAppleのサービスは候補に入れていなかったのですが、よく考えたらiCloudを経由すればWindows PCからもアクセスできるし無料で使える。
しかも、iPadならApple Pencilで書き込みもできる。

結局、iPadで使うならApple純正の文書作成アプリ「Pages」が一番じゃないかという結論に。
しばらくはSTEP ONEだけがこの方法で運用していたのですが、2020年に新型コロナの影響で全番組をペーパレス化することになりました。
「どうやって進めているのか教えてほしい」と言われ、ディレクターと一緒に僕が使い方を解説している動画を作って共有しました。
iPadとApple Pencilを活用する一番のメリット
−−具体的な運用方法を教えてください
Pagesの原稿をグループで共有し、変更があればApple Pencilを使ってリアルタイムで書き込みをしています。このときにルールとしているのが、人によってペンの色を変えることです。
色分けをしておくと誰が書いたメモなのかひと目でわかる。
たとえば台本に何かが追記されたときに、それがディレクターからの指示なのか、共演者の個人的なメモ書きなのかすぐに判断できて便利なんです。

あとはPCからもアクセスできるので、長い文章を書いて原稿に貼り付ける場合にはPCを使う場合もあります。
僕自身、自分で原稿を書いているコーナーがあるのですが、番組中に追加情報を書き込みたいときは、Macを横で開いてそこから入力しています。
−−とくにメリットを感じているのはどのような点ですか?
やはりiPadの最大の強みは、Apple Pencilを使うことで情報をシンプルにすばやく共有できる点だと思います。
たとえば“この話はここに移動する”という指示なら、その箇所を囲って移動先に矢印を書き込むだけでわかります。
ゲストへの質問で“この項目は飛ばす”という指示なら大きくバツをつけるだけで伝わりますが、同じことを文字で伝えようとすると結構手間がかかります。

あと、距離の制約がないことも大きな強み。
仮に、構成作家さんが現場に来られなくても、遠隔で指示をもらえます。また、リモート放送をする場合も、普段のスタジオと同じように情報を共有できます。
そのほかに細かい部分でいうと、「ページをめくる」という動きが発生しないこともメリットですね。
かつては紙をめくる音が放送に乗ってしまったり、原稿の末尾数行が次のページに残っていることに気づかず、そのページで最後だと誤解してコーナーを終わらせてしまうこともありました。
iPadなら当然ペーパーノイズは出ない。
半分くらいまで読んだ時点でスクロールすれば先の原稿を見れて、そんな問題は起こりません。
ペーパレスで困ることはない

ペーパレス化が定着した2021年4月から番組に参加し、サッシャさんと共にナビゲーターをつとめるノイハウス萌菜さんは、「逆に毎回紙を印刷していたなんて想像できません」と話します。
今の方法でまったく違和感がないので、こういうものだと思っていました。私は学生時代から資料などは全部デジタルで見ているので、紙を使わないほうが自然ですね。(ノイハウスさん)
ペーパレス化という大きな革新をとげた同局ですが、現在もリスナーからのメールなどは、個人情報保護の観点から紙に印刷しているとのこと。
メールは個人情報を抜いたメッセージの部分だけを台本にコピペして共有することもありますが、もっとスムーズかつ安全に実現できる方法がありそうだなと感じています。
でも、それ以外はペーパレス化したからといって困ることはなく、本当に快適に使えています。(サッシャさん)
非接触だけでなく、紙の消費量の大幅削減も実現できた同局の取り組み。
さまざまな業種で「紙」を使った情報共有が見直されている今、ラジオ局以外でもとても参考になるケースではないでしょうか?