若いころの恋愛は、魂や感情の結びつきというよりは、肉体的なものに重きを置く関係になりがちです。
でも、長く続く関係の場合、それを支えるものとして、必ず何らかの愛情があるはずですよね。こうした「魂の結びつき」の神髄を伝えるのが、古代ギリシャの哲学者、プラトンの教えです。
そもそも「プラトニック・ラブ」って何?
読者のみなさんも、「プラトニック(プラトン的)な友情」あるいは「プラトニックな理想」といった言葉を聞いたことがあるでしょう。どちらもプラトンの思想から生まれた言葉ですが、実はプラトン自身が提唱したものではありません。
プラトニックという言葉で表現される「2人の人間が、性的接触なしに充実した関係を築くことができる」という考え方は、プラトンの著作『饗宴』についての論考から派生的に導き出されたものです。
この本の中で、プラトンの師にあたる哲学者ソクラテスは、愛に対する人間の理解を「はしご」のような段階で説明しています。
美しい体に寄せる一時的な熱情から、美そのものに寄せる愛まで、はしごの各段が愛の段階を表していて、上に行くほどレベルが高くなるという図式です。
簡潔に説明すると、このはしごは、次の各段階からなります。
一番下には、美しい体やすべての肉体的な美しさへの愛があり、その上に、肉体的な美よりも精神的な美を重んじる愛がある。さらにこれが、「知識が持つ美」に対する愛に取って代わり、最終的には「美そのもの」に対する愛に至るというのです。
そもそも古代ギリシャで形作られた理論なので、プラトンが唱える愛の概念は、現代を生きる私たちが考える愛とはかなり違います。
何より、『饗宴』の舞台になった紀元前5世紀のギリシャでは、恋愛は男性間の同性愛関係に限定されていました。当時の男性にとって、女性との結婚は、子孫を残す目的しかなかったのです。
「プラトニック・ラブ」の誕生秘話
その後15世紀になって、愛をはしごに喩える考え方が再浮上します。そのきっかけは、イタリアの哲学者マルシリオ・フィチーノの著作でした。
『Slate』の解説によると、「プラトニック・ラブ」、ラテン語で「アモール・プラトニクス(amor platonicus)」という言葉を生み出したのは、このフィチーノとのことです。
フィチーノの解釈では、最高レベルの愛とは性的な営みではなく、それよりはるかに高い、魂の領域にあるものです。このような愛についてフィチーノはこう書いています。
「あちらこちらの体を求めるのではなく、そのような体を貫いて発される神聖な光の輝きを求め、それに驚異と畏怖の念を抱くものだ」
しかしその後、プラトニックな関係という概念は、友人同士にとどまっている2人の関係を表現するのに使われてきました。
ただしこうした使われ方は、時とともにこの言葉が変容を遂げた結果であり、もとの概念と完全に一致しているとは言い切れないところがあります。
本来のプラトニック・ラブは、深い魂の結びつきを伴うものです。
愛とは魂の片割れを探すこと
現代の私たちが頻繁に耳にする「プラトニック・ラブ」の概念とは異なります。The Conversationの記事で指摘されているように、プラトニック・ラブの概念を最も端的に解説しているのは、『饗宴』に書き残されているアリストファネスのモノローグでしょう。
この中でアリストファネスは、愛というものを、ソウルメイト(魂の片割れ)を探すというプラトン的な理想だとシンプルに説明しています。
愛は、すべての人間に生まれながらに与えられている。愛は、私たちの本質の片割れを呼び寄せ、1つになろうとする。
2人を1つにし、人の本質が負った傷を癒そうとする。それがかなえば、私たち一人一人は、全体としての人間を構成する「ぴったり合う片割れ」となる……そして私たちは常に、自分とぴったり合う片割れを探している。
この説明は、プラトン思想の核心に触れるものです。「Dictionary.com」は、この思想を以下のように定義しています。
美のイデアに向けられる愛。個人に向けられる欲望や肉体的な美に寄せる愛から、精神的な美あるいは理想的な美に向けられる愛と思索へと進化していくプロセスの究極の姿とされる。
実は、この思想は、パートナーを見つけるアプローチや、今のパートナーとの関係を改善するためのアプローチに、有益な影響を与えてくれる可能性があります。
プラトンによる愛の定義を、恋愛関係に応用する方法
セックスは大事なものですが、パートナーとの関係を魂の融合と考えることで、プラトンの思想を取り入れることができます。
あなたは、相手の体というよりは、魂と関係していると考えてみましょう。あるいは二人の関係は、より抽象的で柔軟な概念でとらえられるかもしれません。心の炎を燃やし続けてくれる相手との愛が、あなたにとって持つ意味が重要になるわけです。
肉体的な美に惹かれる感情(はしごの最初の段にあたるもの)は、相手との絆が生まれるきっかけになりますし、一緒になりたいという気持ちを後押ししてくれるものでもあります。これを足かがりに、はしごをのぼって行くと、お互いを深く理解できる境地にたどり着くことができますよ。
2000年以上前にプラトンが唱えた真意とは一致しないのかもしれません。けれども、彼が提唱した愛の概念は、パートナーと上手く付き合っていきたいと考える私たち現代人にとっても、価値あるアドバイスになる可能性を秘めています。
Source: Same-Sex Desire: Then and Now, Amir, Slate, The Conversation, Dictionary