ある日携帯を見ると、25分の間に13回もの着信がありました。
いずれも、80歳になる私のおばからのものでした。
「もしもし、マリエッタおばさん」
「出てくれてありがとう。どこに行っていたの?」
「エラと遊んでた」
「あら。レイラはどこ?」
「お風呂だよ」
「そうなのね。ただどうしてるかと思って連絡したの。忙しいところごめんね」
毎日このような電話がかかってきます。一度たりとも、急ぎの要件だった試しはありません。ほとんどが、20秒もかからないようなものばかり。毎日最初の着信は、たいてい午後3時半。
育児と介護に追われる「サンドイッチジェネレーション」
高校教員である妻が、仕事を終えて車で帰宅中の時間です。2回目は、私が皿洗いを終えて少したったころ。エラはまだ起きている時間です。そして3回目は、それからほどなくして。

我が家のように育児と介護に追われる人は年々増えており、「サンドイッチジェネレーション」(日本ではダブルケア)と呼ばれています。
2019年には、1100万人の米国人がサンドイッチ状態であるとNational Alliance for Caregiving and Caring Across Generations(NAC)が報告しています。また、Alzheimer's Associationによると、認知症患者の世話をする162万人の米国人のうち、およそ4分の1がサンドイッチ状態なのだそう。
団塊の世代が引退を迎えるにつれて、これらの数字は増えると予想されています。
サンドイッチジェネレーションの多くは、選択の余地なくその役割を担っています。前述のNACの報告より。
サンドイッチケアギバーのうち54%が自らその役割を選んだと述べているのに対し、45%は選択の余地などなかったと答えています。後者は、精神的にも肉体的にも参ってしまうことが多いようです。
まさにそれが、私の生きる世界。それこそが日常なのです。
私の介護生活が始まった日
おばの精神状態は、約6週間かけて悪化の道をたどりました。最初は日曜日の教会後に様子を見に行く程度だったのが、やがて「1人になるのが怖い」と、家に残ることを懇願されるようになりました。
悪化のきっかけは特定できませんが、急きょ精神鑑定のために入院させた日は、ものすごく身が引き締まる思いがしたものです。
退院の日、おばはまるで車に固定された部品のように、かたくなにシートベルトを外そうとせず、1人では生きていけないと訴えたのです。
こうして、私の介護生活が始まりました。私の姉も従兄弟もこの街を離れており、おばの姉妹(1人は私の母)は亡くなっていたからです。それから1週間のうちに、おばを高齢者施設に入れる手はずを整えました。
ダブルケアの苦しみは、そうかんたんに説明できるものではありません。
子どもに聞かれたらどう説明する?
娘のレイラにはよく、「なんでマーおばさんはいつも電話をかけてくるの?」と聞かれます。おばの介護生活に慣れてきた9歳児としては、妥当な質問でしょう。おばは40年間幼稚園の先生をしていたので、家を訪れるたびに娘たちにいろいろなことを教えてくれました。
厳しい中にも愛があり、子どもたちの学ぶ意欲を伸ばしてくれる、理想のおばだったのです。
レイラには、「マーおばさんはいろいろなことが心配で、その感情をコントロールできない」と話しています。 National Alliance on Mental Illness から American Academy of Pediatrics にいたるまで、専門家は皆、子どもには起きていることを包み隠さず話すのがいいと口をそろえます。
誠実でオープンな親子コミュニケーションをすることで、起きていること(あるいは起きていないこと)に対する不安を和らげることができるのです。
その際、子どもの理解レベルに合わせて話すことが重要です。たとえば幼稚園児や小学生なら、おばさんが常に不安でいることに疑問を抱くでしょう。
10代の子どもでもそうかもしれません。あるいは、おじいちゃんがなぜいつも寝ているのか、出かけるのに車いすが必要なのかなど、疑問はたくさん出てくると思います。
我が家の場合、「おばの脳は私たちのとは少し違うように動いていて、いろいろなことが心配になり、安心させてあげることが必要」と伝えることで、9歳児の好奇心は満たされたようです。
もっと大きな子どもは、より厳密な質問をしてくるでしょう。でも、理解能力も高いので、病気の原理や進行、治療方法などについて、わかりやすく説明してあげてください。
さらに、介護に子どもを巻き込むことで、子どもは状況を理解できるようになります。ただしここでも、年齢によって対応が異なります。2歳のエラは、おばの膝に座って本を読んでもらうといいかもしれません。
9歳のレイラには、おばから学校の様子を質問してもらうといいかもしれません。そうすることで、おばと子どもの間に目的意識と主体性が生まれます。子どもは主体的な役割を担うことで達成感を得られ、おばは義務感から解放されるのです。
子どもの年齢や大人の状態によって、子どもが担う役割は変わってきます。でも、今のうちに健全なケアのモデルを見せておくことは、あなた自身の将来にも役立つことを覚えておいてください。
自分をケアする
ダブルケアの負担を抱えていると、耐えることが日常になります。私もふと、おばや子どもに対して短気になっている自分に気づき、罪悪感にさいなまれることがあります。
そこで先日、Alzheimer's Associationに所属する同僚のRuth Drewさんにアドバイスを求めました。彼女もダブルケア中で、10代の息子を育てながら、アルツハイマー病を持つ父親の介護をしています。
Drewさんによると、我慢の限界が来るのは、感情のエネルギーを使い過ぎているから。
それは、車の「エンジン点検」ライトのようなものですね。
一度点灯すると、ガソリンの補充、オイルのチェック、タイヤのローテーションなど、何らかの対策をしなければ運転はできません。
それと同じで、あなたも時間をとって対策をしないかぎり、仕事、子育て、介護、その他の人間関係など、何もできない状態なのです。
それに、親の対応の1つ1つが子どもに影響を与えることを意識するようにとDrewさん。
私は家に帰ると、自分に次のことを言い聞かせてから玄関のドアを開けます。「親でいられるこの日々は、とても大切で、戻らないもの。私は我が子に、子ども時代の思い出として何を覚えておいてほしいのだろうか?」と。それは魔法でも何でもなく、自分の存在感を意識するための儀式です。
このようなストレスにはさまざまな対処法があります。その一例を下記に示します。
- 1日の始まりと終わりに各5分、深呼吸またはリラクゼーション法(漸進的筋弛緩法)を行う。
- 元気をもらえる友達と週1ランチの約束をする。
- 30分早く起きて静かに瞑想する。
- カウンセラーに相談する、またはオンラインのグループに参加する。
行政や民間のサポートを受けるのもいいでしょう。
境界線を決める
先日、2日間の出張が入りました。おばにはその間、電話をかけてこないようにと明確に伝えました。その要請は、おばにとってはショックだったようです。実際、せいぜい20秒の電話なので、出ようと思えば出られました。それでも、その1回が2回になり、さらに3回と続くのは目に見えていました。
境界線は大事です。私の場合、おばには仕事の様子や家族の病気のことを話しません。なぜなら、おばにとっての心配ごとを増やしたくないからです。また、仕事やお付き合いで外出している時間には、電話禁止タイムを設定しています。
泊まりで出かけるときは、妻が子育てにかかりっきりになるから電話を取れないと説明し、妥協案として私からおばに電話をかけるようにしています。

境界線には、妥協と柔軟性が必要です。昨夏、1週間の家族旅行に出かけたときは、おばに1日おきに電話をかけていました。大事なのは、連絡の内容よりも連絡を取ることです。
とはいえ、そうも言ってられない場合もあります。たとえば仕事のストレスが高い時期には、頻繁な電話にいちいち対処していられません。そんなときは、iPhoneの「この発信者を着信拒否」機能が発動されます。
そして、何とか穏やかで理性的になれる域に達してから、こちらから電話をかけなおすようにしています。
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Image: Lifehacker US
Source: National Alliance for Caregiving and Caring Across Generations, Alzheimer's Association, National Alliance on Mental Illness, American Academy of Pediatrics, Alzheimer's Association
Jared Paventi - Lifehancker US[原文]