11月初旬、ヒューストンの野外フェスで観衆が殺到して死亡者が出たという事故のニュースが、地元テキサス州に住む私にとっては特にショッキングでした(日本でも報道されていた)。
しかも、9人(アメリカ時間11月11日時点)は、14〜27歳という若者だったのです。
この事故のあと、群衆行動を研究している専門家のアドバイスが目にとまりました。ドイツ、マックス・プランク研究所に勤めているMehdi Moussaïdさんです。
Moussaïdさんは、NPRのインタビューでこう述べています。
群衆で圧迫を感じはじめたときには、行動するには遅すぎる状況かもしれません。
私たちができる最善のことは、そのような危険な状況に身を置かないようにすること。問題なのは、ほとんどの人はそんな状況が危険だとは気づいていない点です。
群衆の危険性を認識するという風潮はありません。ですが、本当に危険なのです。もっとも重要なアドバイスは、群衆が自分のまわりに密集しすぎると危険であるという意識を持つこと。
現在はコロナの状況もあるので、そんな人混みに自分の身を置くことはないとは思いつつも、知っておいて損はないMoussaïdさんのアドバイスをまとめました。
1. 群衆密度を知る
Moussaïdさんによると、群衆密度は群衆の危険度を判断するのに不可欠だそうです。群衆密度という言葉、初めて聞きました。
群衆密度は、1平方メートルに何人の人がいるかで判断します。まわりの人と体が触れ合わないならば密度は3人以下で、安全です。まわりにいる1〜2人と体が触れ合うほどなら、密度はおそらく4〜5人。
即危険というほどではありませんが、混雑の中心に位置することは避けたほうがいいそうです。
危険になるのは6人以上で、密度が8人になると怪我などにつながる可能性が高まるそうですよ。
2. 障害物を避ける
群衆の中で倒れたら立ち上がるのが難しいので、「立ち姿勢を維持するように」とMoussaïdさん。倒れた人はもちろん、床に置いたバックパックなども障害物になるので、床や地面にモノを置かないことも大事です。
たとえば、混雑した電車内で、他人の足や床置きの荷物などに足を取られそうになった経験は誰にでもあるのではないでしょうか。
また、足元だけではなく、横の移動を妨げる壁やフェンス、柱なども避けるべき障害物です。ただし、フェンスの上に登って身の安全を確保できる場合もあります。
3. 群衆の流れに逆らわない
人から押されたら本能的には押し返したくなりますが、群衆の場合には流れにまかせて動いたほうが安全なのだそうです。
それは、誰かが押し返したらその動きがウェーブとなって広がり、最終的には障害物に当たって逆に自分のほうへ戻ってくるという連鎖反応が起こるからなのだとか。
群衆の流れとともに動いている場合でも、バランスを保って立ち姿勢は維持することは重要だそうです。
4. 呼吸のためのスペースを死守
Moussaïdさんによると、群衆の中で死亡する主な原因は窒息死。
なので、ボクサーのように腕を胸の前に持ってきて息ができるスペースを確保することが重要だそうです。呼吸のために胸の前にわずかでもスペースがあれば、苦しいけれども窒息は避けられると述べています。
5. 助け合い精神が命を守る
The Conversationの記事では、Moussaïdさんはサセックス大学で集団心理学を研究しているジョン・ドルリー教授の研究を挙げています。
集団では助け合いも拡散するので、まわりにいる人たちと助け合うことも危険な状況において役立つのだとか。
誰かが隣の人を助ければ、その人がまた隣にいる人を助ける……。危険な状況では自分の身を守ることだけを考えてしまいそうですが、まわりの人を助けることが自分を助けることにもつながるのだとMoussaïdさんは強調しています。
このようにできることはいろいろあります。
ですが、その状況になる前に現場を立ち去るという決断と行動が究極の対応策のようです。
Moussaïdさんは、危なくなりそうな状況から立ち去れば、それによって群衆密度が下がり、他人を助けることにもつながると述べています。
振り返ってみると、群衆で身動きができず危険を感じた状況にもっとも近いものは東京のラッシュ時の満員電車ですね(でも、通勤電車では混み具合や乗客の動き、電車の動きもだいたい予想できますが)。
日米での生活経験を考えると、日本のほうが人混みに身を置く状況が多いと思うのですが、皆さんはいかがでしょうか。
これらの対策を実際に使う状況には陥らないことを願いますが、Moussaïdさんのアドバイスは心に留めておきたいと思います。
Source: Mehdi Moussaïd, KIRO7, NPR, The Conversation