敏腕クリエイターやビジネスパーソンに仕事術を学ぶ「HOW I WORK」シリーズ。
今回お話を伺ったのは、本気ファクトリー株式会社の代表取締役畠山和也さんです。
畠山和也の仕事歴
本気ファクトリーの代表取締役。大企業向けに新規事業支援、複数スタートアップに株主・経営陣として参画、大学生や高校生向けに起業家教育、エンジェル投資家としてU30起業家に出資している。新卒でソフトバンクBBに入社し、リクルート、スターティアラボ、ラクスルを経て2014年に独立。「若者が未来に希望を持てる社会を創る」という個人ミッションを実現するため、起業家や新規事業を多数生み出す活動をしている。
畠山さんは高校生のころ、「日本の教育制度を改革したい」と高い志を抱き、東大を目指しましたが、受験に失敗し挫折。
その後、早稲田大学を卒業後、ソフトバンクに入社。リクルートへの転職を経て独立します。事業に失敗してほぼ全財産を失うも、現在は大企業の新規事業開発支援やエンジェル投資家として活躍しています。
「大した才能はないからこそ、人の倍働く」という畠山さんの仕事術とは?
若者が未来に希望を持てる社会を作る
――まずは本気ファクトリーについて、教えていただけますか?
本気ファクトリーは、新規事業の開発や広報の支援をしている会社です。大企業の新規事業開発を円滑にするために、「だれでも新規事業つくれるカレッジ」という動画で新規事業が学べるWebサービスや、一個人が起業を学べる「イチから起業オンライン」などの開発・運営をしています。
また、個人としては「若者が未来に希望を持てる社会を作る」というミッションを掲げ、さまざまな支援を行なっています。
若者が未来に希望を持つためには、社会が豊かで安定していることが大前提です。チャンスの多い豊かな社会の実現を、自らが起業して事業を創ったり、大企業の新規事業開発をサポートしたりすることで目指しています。
加えて、若者側へのアプローチとしては、学生にキャリア教育や起業家教育を提供すること。そして、エンジェル投資をすることで、若者の起業を具体的に支援、サポートしています。
――実際に支援している会社を教えていただけますか?
具体例として挙げるなら、創業時から支援している株式会社BYDです。中高生大学生向けのキャリア教育を提供している会社で、私は社外取締役も務めています。事業の一つが大学生向けのスクール事業「3rd class」で、起業家志望の若者に講座を展開しています。
そして、この「3rd class」出身者が創業したスタートアップが、フードテックプラットフォームを提供する株式会社Gifukuru。私も出資しており、事業支援を行なっています。
勢いで起業するも、総売り上げ3万円で全財産を失った
――2010年に一度起業をして失敗したと伺いました。今に至るまでどのようなキャリアを歩んできましたか?
大学のサークルの先輩の影響で、ビジネスや起業に興味を持ちました。「起業は世の中を良くするもの」という考え方を教えてもらったと思っています。
当時はITブームで、ライブドアやサイバーエージェントが出てきたりして、まさに「Web1.0」の時代。自分もITで世の中を良くしていきたいと思いました。
しかし就活では大幅に出遅れ、新卒で3000人採用を掲げていたソフトバンクになんとか滑り込み入社。入社後GW明けに、グループの日本テレコム大阪支社に転勤出向になってしまい、求めていたベンチャー的な環境で働くことはかないませんでした。
そこで1年もたたないうちにリクルートへ転職。将来起業することを目指し、営業として働きますが、1つアポをとると1つクレームをもらうような営業スタイルだったので「1アポ1クレームの男」なんて呼ばれましたね(苦笑)。
それでも少しずつ結果が出るようになり、3年目には関西カンパニーMVPを受賞。仕事が楽しくて、仕事ばかりしていた20代でした。まさに「大事なことはみんなリクルートから教わった」という感じです。
リーマンショック後に早期退職の募集があったことをきっかけに「起業するためにリクルートに入った」ことを思い出し、深く考えることもなく勢いで独立。大学生向けのキャリア教育事業や人事コンサル事業に取り組むも、回収できた売上はたった3万円でした。
リクルートからの退職金なども含めた全資産をほとんど失い、売り上げた3万円だけ握りしめて当時付き合っていた彼女の家に転がり込みました。ちなみにこの彼女は最初に就職したソフトバンク時代の同期で、現在の妻でもあります。
要するにヒモになってしまったのですが、ここから転職活動をはじめ、スターティアラボやラクスルで新規事業の立ち上げに関わります。それなりに真面目に働いたのですが、どうしても「会社員として働くのは性に合わない」と感じ、二度目の起業を決意しました。
仕事は「稼ぐ仕事」と「学ぶ仕事」に分類できる
――二度目の起業では、どのようなことを?
独立した翌月に子どもが生まれたこともあり、「仕事があれば何でもやります」という姿勢で仕事を受けました。1度目の起業の反省を生かして、「まずは毎月固定費をもらえる仕事を受けよう」と決めたことが大きかったです。
たとえば、デザイン会社の業務委託として、営業や制作のディレクションなどに関わったり、メディアの編集をしていたりする時期もありました。その結果、「ウチの名刺を持ってほしい」とあちこちから言われ、気づけば同時に最大8枚の名刺を持って働いていましたね。
――キャリアを拡大するコツはありますか?
リクルートで、仕事は「稼ぐ仕事」と「学ぶ仕事」に分類できると気づきました。「稼ぐ仕事」は、自分のスキルやノウハウを必要とする企業へ提供すること。当然、価値を提供しているので、報酬もしっかりいただきます。
ただ、スキルやノウハウはアップデートしなければ廃れていくので、仕入れが必要です。もちろん、本やWebの記事を読んでいても知識はつきますが、「売れるスキル」にはなりません。
そこで「学ぶ仕事」の出番です。学ぶ仕事は、スキルやノウハウを身につけるためにする仕事のこと。未経験のことをやらせてもらう代わりに、報酬はほとんどいただきません。業務を覚え、しっかりできるようになったら、「稼ぐ仕事」として売りはじめます。
理想の時間配分は、「稼ぐ仕事」が3割、「学ぶ仕事」が7割の状態。最初は営業しかできませんでしたが、デザインやメディアの編集、マーケティングなど自分の領域を広げて、提供できるスキルを磨いてきました。
土日関係なく働き続ける理由
――1日の流れを教えてください。
朝は9時ごろに起床して、10時から本気ファクトリーの定例会があります。それ以降は、1日6〜7件、投資先やクライアントとプロジェクトの進捗会議を確認するオンライン会議があります。前の週の活動や来週のタスクの確認、ディスカッションなどを行ないます。
終わったら、19時ごろになっているので、その日出てきたタスクをそこからさばいていき、日付が変わるごろにひと段落つきます。寝るのは、朝2時〜3時ごろですね。1日6〜7時間は睡眠を取るようにしています。
――ほぼ休みなく働いているのでしょうか?
土日祝日関係なく、毎日仕事をしています。スタートアップの経営者は、平日は時間が取れなかったり、私も予定が入っていることが多いので、落ち着いて話す時間が取れません。
余裕を持ってじっくり話すとなると、どうしても土日になってしまいます。出資先からの相談が終わったら、その後にタスクをさばきはじめます。
――娘さんや息子さんがいる中で、ワークライフバランスや家族との時間についてはどう考えていますか?
私のまわりを見ると、バリバリ働いていた優秀な人たちは30歳をすぎたころからワークライフバランスを重視し、仕事量を減らしている人が多いですが、私は逆に増やしています。ライフハッカー的なスマートな働き方とは言えないかもしれませんね(苦笑)。
でも、私には大した才能があるわけではありません。だからこそ、数字と仕事量にはこだわりたいと思っています。
詳しくは後述しますが、私は世界で初めての「起業の教習所」を作るという夢があります。それを目指しながら、数多くの会社をサポートしています。業務量が少ないはずがありません。
それでも最近は、家族との時間も大事だと考え直し、2カ月に一回は家族旅行に行くようにしています。平日、子どもと一緒にお風呂に入って、寝かしつけてから仕事をすることもありますよ。
生産性を上げるためには無駄を省く
――仕事を円滑に進めるためのタスク管理方法を教えてください。
「Get things Done(ゲッティング・シングス・ダン)」というタスク管理手法を使っています。タスクを一度すべて書き出して、頭の中から吐き出すイメージです。
もともと、考えることが多い性格で、一つのことをやりながら別のことを考えていることがよくあります。頭の中にあるものをすべて吐き出すことを覚えてから、生産性が上がりました。
そして、Get things Doneと相性のいいアプリが「Toodledo」です。気に入っているポイントは、入力項目が少ないこと。最近のタスク管理ツールは、時間を計測したり、優先順位をつけたりと、多機能ですよね。
でも、タスク管理のために時間を使うって本末転倒だと思いませんか? このアプリは、書き込んで整理するだけなので、極めてシンプル。Get things Doneとの相性もバッチリです。
――生産性を上げるために意識していることは?
もともと、オタク気質で、一つのことにこだわりはじめると、際限がないんです。例えば、自分でデザインをはじめるとチラシ一枚作るのに何時間とかけてしまう。コストパフォーマンスが悪いんです。
基本的に、費用対効果がいいところでやめて、それ以上を求めるときは得意な人にふります。だから、一緒に仕事をするパートナーに対しては、凝り性の人を選ぶようにしています。一つのことに時間をかけないことが大事です。
――スケジュール管理のコツは?
Googleカレンダーをオープンにしています。
社員はもちろん、クライアントや投資先などの関係者も含めた約40人が、自由に閲覧できて、予定を入れることもできるようになっています。毎回、ミーティングの調整に時間を使うのはお互い無駄だと思い、カレンダーを共有しておいたほうが早いと思いました。
実際、調整が楽になりましたね。
夢は「起業の教習所」を作ること
――今後の目標について教えてください。
誰でも起業できる世界を作るために、「起業の教習所」を作りたいです。起業と聞くと、特殊な人がリスクを負って成功するイメージがありますが、自動車教習所のように学ぶ環境があれば、誰でも普通に起業できるようになると本気で思っています。
車もそうですが、教習場がなくて一発本番だったら、誰でも事故を起こしますよね。起業も同じで、やり方や手順を覚えれば、そこまで大きな失敗はしません。これは、大失敗を経験した私が言うのですから、間違いありません(笑)。
動画研修や実習が気軽に受けられるようになれば、起業はもっと身近なものになるでしょう。
いきなり大きな会社を目指す必要はありません。飲食店や制作、コンサルティングなどわかりやすいビジネスからはじめ、資金調達や営業、お金の管理などを学び、その後に大きな仕事をはじめればいいんです。
起業の正しいステップを理解できれば、起業は一部の優秀な人がするものではなくなる。私はそう信じています。