こんにちは、メンズファッションライターの丸山尚弓です。
ヨハネ・パウロ前ローマ法王や、ヨーロッパ各国のVIPがこぞって愛顧する靴職人、エンツォ・ボナフェさん。
イタリアの名門靴メーカーA.Testoni(ア・テストーニ)に15年間勤め上げた後、1963年にボローニャで自身の名前を冠したブランドを立ち上げました。50年以上も靴の世界に携わり、その誠実な手仕事から「イタリアの良心」とまで言われ、世界各国に多くのファンがいることで有名です。
イタリアの共和制40周年式典では、イタリアの文化振興に寄与した企業として大統領から勲章を授与されています。

そんなボナフェさんが、伊勢丹メンズ館とBEAMSにて開催されたトランクショー(オーダー会)のため10月末に来日された際、貴重なインタビューの機会をいただきました。
現在84才になってなお、毎日工房に立ち続けるその仕事への情熱と、こだわりの靴づくりについてお聞きしました。
エンツォ・ボナフェのInstagramアカウント→enzobonafeshoes
いまだ、自分の仕事に心から満足したことはない

── 13歳から靴づくりに携わり、現在も家族一丸となって工房を経営されていますが、家族経営において大切になさっていることはありますか?
エンツォ・ボナフェさん(以下、エンツォ):現在12名の従業員と家族で運営をしていますが、会社=家族そのものだと考えています。
”Deeper than business” ただのビジネスとしてではなく、一人一人のお客様に満足していただけることだけを考え、毎日120%の情熱を持って仕事に臨んでいます。
特に日本のお客様は目が肥えているので、製品に満足していただけた時は本当に嬉しいですね。
── この職人はすごいと思う方はいますか?
エンツォ:日本人の職人なら福田洋平さんですね! 彼が靴に注ぐ情熱はもはやアルチザン(工匠)を超えています。
靴作りって簡単そうに見えて、とても大変な仕事。力仕事ですし手が汚れることも多いです。ですから気持ちのない人には続かないですし、仕事と正面から向き合える人でないといけません。
福田さんは人柄も含めて、本当に素晴らしい方だと思います。
── 靴職人として一番嬉しかったことはどんなことですか。
エンツォ:小さい頃から手を動かすのが好きでしたし、靴作りにずっとこうして携われることをとても幸せに思いますが、いまだ自分の仕事に心から満足したことはありません。
日本人は靴に対しての意識が高い
── 初めて靴をオーダーする人に知っておいて欲しいことはありますか。
エンツォ:デザインの好みは人それぞれだと思いますが、まずは出来上がった靴を履いてどんな場所に行きたいか、自分のクローゼットを見渡してどんなものがマッチするだろうか、ということをイメージしておいていただくことが、とても大切だと思いますね。
どんなに良い靴を作ろうとしても、持ち主になる方の目的に沿ったものでない限り、長い目でみた時には喜んではいただけないということがわかっていますから。
どんなラスト(木型)がご自身の足に合うかということに関しては、私たち職人を信用していただきたい。長年さまざまな国や年齢の方々の足を見てきていますのでね。
── 日本人の靴(足)についてどんな印象をお持ちでしょうか?
エンツォ:ヨーロピアンに比べると、小ぶりなサイズのオーダーが多いですね。
日本人は靴に対しての意識が高いと思います。やはりオーダーしに来てくれる方の靴の手入れが行き届いていると嬉しくなりますね。
どんなに良い靴でも、持ち主が愛情を込めて使ってくれないと良さが半減してしまいますから。
── 靴のデザインが一緒でも、大きさによって製作の難易度は変わるのでしょうか?
エンツォ:いえ、25センチの靴でも30センチの靴でも、実はまったく変わりません。ただ、革の合わせ方のバランスはしっかりと見ないといけませんね。

── 日本人がオーダーした靴で一番記憶に残っている靴はどんな靴でしょうか。
エンツォ:今まで色々とユニークなオーダーをお受けしていますが、やはり日本の方が好きなんだなあと思うのは、外羽根のウイングチップシューズですね。とてもオーソドックスなデザインなのですが、長年履き込んでからも満足していただいていると感じることが多いです。
健康な限り一生工房に立ち続けたい

── 若い頃から現在まで、職人としての技術を研鑽していく上で心がけていることはありますか。
エンツォ:一枚一枚の革ととにかく向き合うこと。新しい革と向き合う際は常にチャレンジだと考えています。特にエキゾチックレザー(ワニ、リザード、パイソンなど)は、革目を合わせるのにとにかく神経を使います。
両足揃った際に美しいことが求められるので、非常に難しい作業です。長年のカンを持ってしても、新しい一足をつくる度に学びがありますよ。
── ずっと1つの仕事を続けていく中でくじけそうになった時、どうされていますか。
エンツォ:自分の求めることが形になるまで、あきらめずに根気よくトライし続けますね。時間を気にしているようでは、まだ「作業」の域を超えていません。
時には寝食を忘れるくらい打ち込むことで、人に納得してもらえる「仕事」を達成できるでしょう。私は常に前に進むことしか考えていません。
── 何歳まで靴作りをされる予定ですか。
エンツォ:健康である限り、一生工房に立つことが私の望みです。靴作りこそ私の人生です。あと20年ぐらいはがんばりたいですね!

息子のマッシモさんのお話によると、エンツォさんはたった1日家族でバケーションに出ている間さえも、工房のことが気になって帰りたくなってしまうほど、靴作りが大好きなんだそうです。
80才を超えてなお精力的に取り組めるのは、本当に人生をかけるほど好きな仕事を見つけられてこそでしょう。
13歳から1つの仕事を極め続けてきた人の言葉には、たくさんの発見があったのではないでしょうか。インタビュー余談ですが、エンツォさんが日本に来ると必ず食べたくなるものは、なんとお肉!
普段はそんなにお肉が好きではないとのことですが、日本の鉄板焼きで出てくるお肉は世界でも類をみないほど柔らかくてジューシーで美味しいのだとか。

ずっと笑顔で対応してくださり、本当に素敵な方でした。
取材協力:オリエンタルシューズ青山オフィス(Aoyama Office)
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商品問い合わせ先:伊勢丹新宿店
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Photo: Okihiro Mori
Source: enzobonafeshoes