2015年に放送された「episode of 60 minutes(60分のエピソード)」で、アップルのCEOティム・クックがインタビューに答えています。
ホストのチャーリー・ローズがクックに、ジョブズがテクノロジー業界で特異な人物だと思った理由を説明するよう求めました。
クックの答えは、ジョブズが「先を見通すことにかけて、とてつもない能力を持ち、完璧さに対して絶え間ない原動力を持った」人物だったというもの。
「良いだけでは十分とはいえない」とクックは続けて言いました。
すばらしくなければならない。スティーブが日頃言っていたように「とてつもなくすばらしくなければ(insanely great)」と。
この二語は興味深いものです。
とてつもなくすばらしいとどうやって決められるのか、分かりません。少なくとも客観的には。それが重要なのかも分かりません。大抵の場合、重要な唯一の基準は、ジョブズがそれで良いと思うかどうかでした。
立て続けにヒット商品を出せた理由
ただし、常にジョブズの根底にあったのは自身の個人的な嗜好ではなく、それが世界と分かち合うことができて誇りに思えるものかどうか、ということ。ジョブズにとって、MacやiPhoneを体験する人々に喜んでほしかったのは、機能性よりも感覚でした。
ここでジョブズの意図に近い発言を引用します。
美しい整理箪笥を作る大工だったら、ベニヤ板を背面に使おうとはしないでしょう。背面が誰にも見えないとしても、美しい木材を背面に使おうとするでしょう。
何かをする際には、細部が重要です。競争相手と同じ位良いものをつくるだけでは十分ではないのです。アップルの顧客にはより良いものがふさわしいとジョブズは信じたのです。
ジョブズがアップルに戻ってから、立て続けに印象的なヒット商品を出しました。iMacであり、iPodであり、iPhoneであり、MacBook Airです。
ピクサーでも同じ基準が適応されていた
ところで、このような状況であったのはアップルだけではありません。ジョブズは、アニメ映画の定義を完全に変えた会社であるピクサーのCEO(最高経営責任者)でもありました。ピクサーでも同じ原則が適用されました。
たとえば、著書「Creativity, Inc.」での中で、ピクサーの社長であったエド・キャットマルは、単なる改善が目標ではなかったと説明します。
プロセスを改善し、容易にし、安くすることを目指すのは重要であり、継続的に取り組むべきことですが、それが目標ではありません
さらに、キャットマルは次のように書いています。
すばらしいものにするのが目標です。
キャットマルは同じ表現を使いませんでしたが、ピクサーには、「可能だと考え得る最高の製品をつくったとしても、より良いものにする余地はまだある」というジョブズの基準が反映されています。
トイ・ストーリー、ファインディング・ニモ、カーズ、モンスターズ・インクといったピクサーの映画は、商業上のヒットであったばかりでなく、想像力をかきたてられるすごいストーリーでもあり、視聴者と共鳴しました。
つまり、とてつもなくすばらしかったのです。
ジョブズの「とてつもなくすばらしい」基準では、より多くの努力が注がれます。最終的に、良いもので妥協するのではなく、もっと良いものを得ることになることが分かっているからです。重要なのは、実現可能だと思われるより良くすることです。
それはそうと、ジョブズがまだ生きているとしたら、少し違う形容詞を選ぶかもしれないと思います。今日では身障者差別者と思われるような表現は避けたことでしょう。
その一方で、ジョブズは「とてつもなく」を否定的な意味で使っていません。その反対です。ジョブズは、理解を超えることを言いたいがために「とてつもなく」を使っているのです。
ジョブズが「とてつもなく」を使うのは、目標とするものが何であれ、最良のものであるべきことを強調したいがためです。
それが重要なのです。
「とてつもなくすばらしい(insanely great)」
この考え方にいまだに突き動かされているアップルが私は大好きです。
人々がMacやiPhoneで一番気に入っているものは、スペックだという反論は受け入れます。
でも、目標は最高スペックのデバイスをつくることではなく、最高の体験を提供できるデバイスを作ることであり、すばらしい機能であなたを驚かせるものをつくることなのです。
ジョブズの周辺の人なら誰でも「とてつもなくすばらしい(insanely great)」が良いものをつくり出す原動力だったと理解したことでしょう。
良いもので妥協することこそ、他社がやっていたことです。同様に、すばらしいもので妥協することもないでしょう。
その逆で、さらに上を目指さなければならないのです。人々が期待するよりもはるかに良いものを目指さなければならないのです。
それでうまくいったのだと、我々全員が同意すると思います。
――2022年10月24日の記事を再編集のうえ、再掲しています。
訳山岸昌之/OCiETe
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