①指示待ちだけで自分で考えて動けない
②自分の思いや指示がなかなか伝わらない。指示通りに動いてくれない
③会議などの場であまり発言しない。やる気が感じられない
④自分で調べればわかることでも質問してくる
⑤トラブルやクレームなど、悪い報告をギリギリになってからしてくる
⑥なにを考えているのかわからない
(「はじめに」より)
部下に対して、こんな悩みや不満を抱いている方は少なくないはず。しかし『指示待ち部下が自ら考え動き出す!』(大平信孝著、かんき出版)の著者によれば、部下は内心でこう思っているのだそうです。
①自分で仕事を進めても、どうせ「勝手に進めるな」と怒られるから指示を待っている
②指示だけ出してやり方を教えてくれない
③まったく期待されていない、戦力外だと思われている
④質問しないと「なんで聞かないんだ!」と言われる
⑤いつも忙しそうでイライラしているから話しかけづらい
⑥なにを期待されているのかわからない
(「はじめに」より)
たしかに、すれ違っている部分は多そうです。そこで著者は本書において、このような上司と部下のミスマッチを解消し、部下を「自ら動く人材」に変える方法を紹介しているのです。
きょうはそのなかから、第2章「部下のモチベーションを劇的に上げる『行動イノベーション・トーク』」に焦点を当ててみましょう。
「行動イノベーション・トーク」のシンプル5ステップ
「行動イノベーション・トーク」とは、部下のモチベーションを上げるために、上司が部下の「目標づくり」とその実現をサポートするための仕組み。なお、ここでいう「目標」とは、会社が与える数値目標などではなく、部下の感情が動く目標のことだそうです。
つまり、部下自身が「心底実現したい!」と思える目標のこと。
「会社から一方的に押しつけられた目標」や「意味や意義を感じられない目標」「マンネリ化した単調な仕事をこなすことで到達できる目標」を達成するための仕事を、自ら率先して自発的に行うのは困難。モチベーションは高まりにくいわけです。
しかし、目の前の目標が、自分自身の夢や目標と関係があることがわかったとしたら、部下は自ら考え動き出せるようになるはず。
それを実現するのが、ステップ1から5までの手順に分かれた「行動イノベーション・トーク」。それぞれを確認してみましょう。(62ページより)
ステップ1:現在地を確認する
ファースト・ステップは「部下の現在地」の確認。「仕事において、どんなことができていて、どんなことが課題なのか」という現状を把握することです。
具体的には、仕事の一連の流れを分解し、「できていること」と「できていないこと」とに分けること。もしくは、会社からの数値目標に対する達成度合いを確認するなど。
山で遭難するのと同じように、現在地を確認できていなかったり、認識にズレがあったりすると、「行動できない」「ずれた行動をしてしまう」「適切な行動が取れない」といった弊害が生まれるもの。
そのため、部下の「現在地」を確認するプロセスが重要な意味を持つというのです。そして仕事の現在地は、次の3つの項目を確認することで把握できるそうです。
①「どんなことができているのか?」(できているところ)
②「どんなことができていないのか?」(課題)
③「体調が悪かったり、悩んでいることはないか?」(心と体の状態を確認する)
(67ページより)
現在地を確認する際のポイントは、必ず「できているところ」「うまくいっているところ」など、ポジティブな側面の確認からはじめること。そして仕事の現在地を確認することは、部下に自信を持たせ、モチベーションを上げることにもつながっていくといいます。(65ページより)
ステップ2:会社の目標と部下の役割を確認する
ここは、会社の目標を確認し、部下に自分の役割を再認識させる段階。
なお、ここでいう「会社の目標」とは「年商○○億円を達成する」「前年比120%を達成する」といった会社全体、部署全体の数値目標、または「お客様の○○に貢献する」といった経営理念のこと。
「やらされ感」を払拭するためには、「会社や部署の目標を達成するために、部下自身がなにをすべきか」という「役割」を明確にしていくこと。
そこで、会社の目標と部下の役割を確認することがステップ2になるわけです。この段階で確認するのは、企業理念、会社の方針、組織の目標、組織内での部下に対する期待や役割。
やり方は簡単で、次の3つの質問に答えてもらうだけだそうです。
①「会社の方針や目標について、ちょっと説明してみて」
②「部署の方針や目標について、話してみてくれる?」
③「部署内でのあなたの役割は?」
(75ページより)
これだけの質問で、部下は自分の役割を認識することになるといいます。そして重要なのは、同じ労働でも、そこに「意味」が加わるだけで、自ら動けるようになるものだということ。
だからこそ、モチベーションの低い部下の「意味づけ」をすることは、上司の役割だというわけです。(72ページより)
ステップ3:個人的な夢や目標を確認する
ステップ3の目的は、会社や上司のニーズをいったん脇に置き、部下の「本当はどうしたい?」という個人的な思いを明確にすること。
ポイントは、「この段階では会社の目標との整合性を考える必要はない」ということだそうです。
理由は、いったん「会社」という枠組みを超えた考えたほうが、モチベーションアップにつながるから。具体的な方法は、部下に次の3つの質問をしてみることだといいます。
①「本当はどんな仕事に挑戦したい?」
②「仕事以外のプライベートの夢は?」
③「3年後、5年後、10年後のキャリアビジョンは?」
(80ページより)
著者は、これらの質問にスラスラ答えられる人のことを「長期ゴール型」と呼んでいます。
ただし現実的に、長期ゴール型の人は全体の2割弱程度。そのため、ここで明確なビジョンや夢、目標が出てこなかったとしても、部下を責めたりしてはいけないと念を押しています。
一方、将来の夢やビジョンが明確に出てこない部下は「短期ゴール型」。「自分にとって、いま、なにが大事か」という価値観を、日々の仕事で満たしているかどうかに重きを置いているタイプ。
そこで、短期ゴール型部下の「本当はどうしたい?」を見つけるためには、さらに次の3つの質問をしてみるべき。
「きょう1日の仕事、本当はどうしたい?」
「仕事でやりがいを感じるのはどんなとき?」
「日々大事にしていることは?」
(81ページより)
これらについて考えることで、部下は「本当はどうしたいか?」についてのより明確な答えにたどりつけるということ。なお、長期ゴール型と短期ゴール型の間に優劣の差は存在しないということを覚えておくことも必要。
どちらのタイプにも強みがある、どちらがいいとか悪いとかいうことではないのです。(78ページより)
ステップ4:部下の個人目標を設定する
ここでは部下個人の目標を立て、やるべきことを明確にするわけですが、大事なポイントは、会社の目標と個人の夢が重なり合う「共有ゾーン」を見つけることのみ。
ステップ2と3で確認した、会社の目標と個人の夢を並べて眺め、双方がリンクする場所を見つける。つまりはそれが「心底実現したい」目標になるということです。
それが定まれば、「やらされ感」が消え、部下は自ら考えて動くようになるわけです。そのため、この「共有ゾーン」を一緒に見つけるステップこそが、「行動イノベーション・トーク」の真髄だと著者は言います。(86ページより)
ステップ5:アクションプラン(10秒アクション)をつくる
この段階ですべきは、「現在地」から設定したステップ4の目標実現に向けての行動計画を明確にしていくこと。個人目標を形骸化させないためには、具体的なアクションプランを設定することが避けられないというのです。
ポイントは、少しずつ、確実に変わっていけるようにサポートすること。どれほど小さくても、一歩踏み出せば、着実にゴールに近づけるもの。そして、それを可能にするのが「アクションプランを立てる」ことだというわけです。
とはいえ、1から10まで細かなロードマップをつくる必要はなし。最初の一歩、とっかかりの10秒でできるアクションプランを設定すればいいということで、著者はこれを「10秒アクション」と呼んでいるのです。
「10秒アクション」というのは、目標の実現に近づくための10秒でできる具体的行動のことです。 たとえば、(中略)「朝いちばんに、今日の計画を眺める」「就業時間を宣言する」ことなどが挙げられます。 (96ページよりより)
たった10秒の行動が部下のモチベーションに変化をもたらす理由は、成功体験。「10秒アクション」を続ければ続けるほど、毎日部下のなかに小さな成功体験が積み上がっていくというわけです。
人の脳は、変化を嫌うという性質がある反面、ちょっとずつなら変化を受け入れられるという性質も持っています。
10秒という小さな行動であれば変化を嫌う脳でも対応できます。 「10秒アクション」とは、言ってみれば「ドミノ倒しの最初の1枚」のようなもの。 ドミノは最初の1枚が倒れれば、あとは自動的に倒れていきます。
部下が「心底実現したい!」「行動したい」と感じさせることは、10秒では終わりません。最初の「10秒アクション」さえ先延ばしせずに実行できれば、次から次へと行動がつながっていくものなのです。(97ページより)
10秒なら、どんなに忙しくても必ず実践することができるはず。試してみてはいかがでしょうか。(93ページより)
著者は、企業のリーダー層を中心に、部下育成やリーダーシップについてのコンサルティングを行っている人物。しかし、それ以前は部下育成が苦手なサラリーマンで、部下とのコミュニケーションもなかなかうまくいかなかったといいます。
しかし、やがて「部下そのものを変えるのではなく、部下との『関わり方』を変えようと思い立ち、結果的にはそんな思いが、本書で紹介されているメソッドを生むことになったというのです。
そうした自身の体験が軸になっている本書は、部下を動かすことで悩んでいるリーダーを大きく手助けしてくれるはずです。
Photo: 印南敦史