『最上のほめ方 自己肯定感を高める4つのステップ』(八田哲夫、原邦雄著、光文社)の著者は、「幼児教育から日本を元気にすること」を目的に、子どもを持つ親や先生たちに向けて30年間で3700回以上の講演・研修を行ってきたという人物。
そんな経験に基づいて断言できるのは、「子育てには『目的』や『考え方』、そして『有効なほめ方』がある」ということだといいます。そのことを知っているか知らないかによって、育てる側にとっても育てられる側にとっても、子育てというものが大きく違ってくるというのです。
そこで本書においてはその内容を紐解き、ほめて人を育てる教育メソッドである「ほめ育」を軸に、「親も子どもも幸せになる最上の子育ての方法」を明かしているというわけです。
しかし、その前提として問題視していることが2つあります。
まず最初は、「情報への慣れが引き起こす子育ての弊害」。情報があふれ、たくさんの情報にも簡単にアクセスできる世界で育った現在の子育て世代は、「調べればすぐに答えが出ること」に慣れています。
しかし、それが子育ての悩みをより深刻にしてしまっているということ。なぜなら、子育てにはそもそも正解がないから。不特定の情報にアクセスしたところで、解決できるようなことではないわけです。
そして子育てをする際、「どうしたらいいかわからない」という壁に突き当たる最大の理由は、親の側に「この子をこう育てたい」という軸がないこと。
さらにはそこに付随した問題として、子どもの体力と学力の低下があるのだといいます。軸がないため必要以上に心配し、子どもに手をかけすぎるようになってしまっているというのがその理由。
これらを解決するために、昔の子育ての方法に戻ろうと言うつもりはありません。スマートフォンやパソコンのない生活に戻れないのと同じように、進む時代に合わせて子育ても進化していかなければいけないからです。
そこで、本書のタイトルでもある「ほめ方」がキーワードになってきます。 最近では、ビジネスにおいても「ほめること」が人材育成やマネジメントの方法として取り上げられるようになりました。本書では、それを子育てにフォーカスしてお伝えしていきます。(「はじめに」より)
ほめて育てれば、子どもは自然と自立した人間に成長するもの。そして子どもが自立した精神を持つようになれば、子育てもやりやすくなります。
そんな考え方を軸として、本書では「ほめること」に焦点を当てているのです。
また本書のもうひとつの特徴は、共著者である原邦雄氏の提唱する「ほめ育」が併せて紹介されていること。それは、一般社会・ビジネスの分野を問わず、日本を含めた世界10ヶ国以上の人々に広がっている人材育成メソッドだといいます。
ところで著者の提唱する「最上のほめ方」においては、順番が大事なのだそうです。まず「あり方(考え方)」があり、それから「やり方(方法)」に入っていくということ。
「あり方(考え方)」とは、みなさんの“家庭の”あり方のことです。 そんな子どもに育ってほしいか、ということを起点に、日頃の言葉かけや各家庭のしつけ(ルールづくり)など、幸せになる子を育てる土壌となる「家庭のあり方」について再確認をします。(「はじめに」より)
この点について説明されたChapter. 1「『最上のほめ方』ステップ1 ~『家庭のあり方』を再確認しよう~」から、きょうは「親が子どもに言ってはいけない8つの言葉」を見てみたいと思います。
親が子どもに言ってはいけない8つの言葉
普段、子どもに声がけをするにあたって、絶対に避けたほうがいい8つの言葉があるといいます。すべて、子どもの成長を阻害する言葉。
これらを口に出していないか確認するだけでも、改善できることは少なくなさそうです。
1 なにやってんの
たとえば壁紙にクレヨンでお絵描きしたり、ピアノの上に乗るなど、子どもは大人にとって理解できない行動や非常識な行動をするもの。そんなとき、つい口に出してしまうのがこの言葉。
2 何回言ったらわかるの
子どもが、前に注意したことをまたやったときにはついこの言葉を口に出てしまうことがあります。しかし著者によれば、「子どもは1000回言って初めて伝わる」と思っておいたほうがいいのだそうです。
3 誰がそんなことしていいって言ったの
これは、「なにやってんの」につなげて出やすい言葉。しかしこの問いに対する答えは、「子ども自身がただやりたいだけ」か、「親がいいと言った=親の行動を見てマネをしている」なのだといいます。
4 余計なことするんじゃない
これもまた、1と3につながってくる言葉。しかし見逃すべきでないのは、「余計なこと=子どもにとっては挑戦」だということ。
ところがこの言葉は、子どもには「挑戦するな」「新しくなにかをできるようになるな」「成長するな」と聞こえてしまうもの。そのため注意が必要だというわけです。
5 も~っ!
1~4が積み重なって、疲れてくると出てくるのがこれ。しかし、もはや言葉ではなく、単に感情を吐き出して怒っているだけにすぎません。
子どもとコミュニケーションを図ろうという気持ちがなくなってしまっているということです。
6 わかった! わかった! わかったから!
コミュニケーションを図ろうとする気がなくなった次の段階には、この言葉を使ってシャットダウン。子どもの話を聞かず、親側の都合によってコミュニケーションの断絶が行われるということ。
7 早くしなさい
早く家に帰りたいのにブラブラしていたり、いつまで経っても着替えが進まなかったり、大人の都合に合わせてくれないときが子どもにはあるもの。そんなとき、つい口に出してしまいがちなのがこの言葉。
しかし子どもはそんなとき、別のなにかに好奇心が向いているだけ。つまり、こうしたことを言うことによって子どもの行動が親の望むように早くなることはないわけです。
8 もう知らない!
きわめつけがこの言葉で、「もういい!」「もうやだ!」なども同じ意味合い。最終手段の言葉であり、親御さん的には「私のせいじゃない!」という気持ちがあるものの、やはり子育ての結果は親の責任だと考えるべき。
(以上、37〜40ページより)
家の「家訓」をつくろう
では、すべての基本である「家庭」でのしつけをいま以上にしっかりとしたものにしていくためには、具体的にどうすればいいのでしょうか? そのヒントとなるのが、「家訓」をつくることだと著者は言います。
「家訓」とは「その家に伝わる、守るべきものや戒め、教え」などを指しますが、ここでいうそれは「我が家のルール」のようなもの。
たとえば、
・自分から挨拶をする
・いつでもどこでも靴を揃える
・0.2秒で「はい」の返事をする
・約束を守る
・早寝、早起き、朝ご飯。規則正しい生活をする
・自分の使ったものを元に戻す(整理整頓)
・背もたれを使わずに座る
・足の裏を必ずつけて授業を聞く
・クラス全員を100点にする
・まずやってみる
・失敗を恐れず失敗から学ぶ
・始めたら、最後までやり通す
・昨日の自分を超える
(40ページより)
など多種多様。項目も最初は10個くらいが適切ですが、大きくなるにつれて、より絞っていったほうがいいそうです。
あまり細かくルールを設定すると、今度は子どもの自立を邪魔することになるから。しかしそのあたりは子どもによってさまざまなので、実情に合わせてアジャストすればOKだといいます。
「自分は叱られて育ったから、子どもをほめるのが苦手」という方は少なくありません。しかし、子どものかけがえのない長所を見つけたいのであれば、まずは親が自身の長所を見つけるべきだと著者は主張しています。
自分自身の長所を探し当てたうえで子どもを見てみれば、その子ならではの魅力や成長が確認できるものだというのがその理由。
だからこそ、ほめることに慣れていないという人こそ、本書を手に取ってみるべき。その内容を実践してみることによって、子育てにまつわる悩みのいくつかを解消できるかもしれません。
Photo: 印南敦史