『10秒で新人を伸ばす質問術』(島村公俊 著、東洋経済新報社)で明らかにされているのは、指導者が育成にかける時間を最小限にしつつ、最速で新入社員を一人前にするための、「質問」を活用した仕事の教え方。
ちなみに著者はソフトバンクで2万人の社員教育に携わった実績を持ち、現在は「講師ビジョン」という会社の代表として人財育成の支援を行っている人物です。
研修やセミナーを通じて多くの指導者に会ってきた結果、著者は現代のビジネスパーソンが、新人育成に関して2つの悩みを抱えていることに気づいたのだそうです。
まずひとつは、新人に「早く一人前になってほしい」という悩み。以前とくらべ、現代では新人育成にもスピード感が求められるようになったということです。
そしてもうひとつは、「そうはいっても教える時間がない」という現実。
新人育成に携わる上司や先輩は自分の仕事にも追われているため、新人のために十分な時間を割くことができないわけです。
思い当たる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
そこで本書では、著者が試行錯誤の末にたどり着いたメソッドを公開しているということ。
このメソッドは、私が約10年間勤めていたソフトバンクで培い、起業後に多くのクライアント様との仕事を通じて磨き上げたものです。(「はじめに」より)
きょうは第3章「10秒で新人を伸ばす質問術」のなかから、10秒の立ち話で新人を育てる方法をピックアップしてみたいと思います。
はたして、本当にそのようなことができるのでしょうか?
立ち話の10秒で新人を成長させる
たとえば入社して半年ほど経過した新人と一緒に、これから得意先に同行営業に向かうとします。
商談時間前に客先のオフィスに到着し、ロビーのソファで新人と座り、担当者が現れるのを待っているとしましょう。
そんなとき、著者なら新人に考えさせたいことを凝縮した、次のような「時短質問」を投げかけるそうです。
「今日の商談のゴールは、どこに置いているかな?」(120ページより)
この質問にかかる時間は、およそ3秒。新人が答えるのにも、せいぜい数十秒、早ければ5秒程度の時間しかかからないかもしれません。
したがって、「10秒で育成」は決して大げさな話ではないというのです。
質問による育成 10秒トレーニング
1 時短質問を投げかける(指導者側:所要時間3秒)
2 質問に対して考えて答える(新人側:所要時間7秒)
(121ページより)
慣れないと最初は難しいとはいえ、徐々に慣れると10秒程度で完結できるようになるといいます。
新人がもし答えられなかったとしたら、「きょうのゴールは○○にしておくといいと思うよ」とアドバイス。
そして、また同じような同行営業のシチュエーションが訪れたら、そのときにまた「きょうの商談のゴールはどこに置いているの?」と聞くのです。
すると、その際には答えられる可能性が高まるということ。
このような「10秒で伸ばす時短質問」を繰り返すことによって、新人は自らの力で考えられるようになっていくという考え方。
そればかりか、自分の力で考えることで、成長も早まることになるわけです。
そのため、「時短質問」を活用した「自分で考える」という10秒の訓練を、少しでも日常業務のなかに取り入れるべきだと著者は主張するのです。
もちろん、じっくり座って考えさせることも必要でしょう。
しかし効率を追求する日々の仕事のなかでは、形式ばらずに日常の会話の延長線上で「自分で考える」訓練をするのも有効だということです。(118ページより)
答えが返ってこなくても10秒でその場を立ち去る
ただしそうはいっても、「そんなに早く回答が返ってくるかな?」「もっとじっくり考えさせなければならないときもあるのでは?」というような疑問を抱く方もいらっしゃるかもしれません。
たしかに考える時間が短いのですから、新人の口から瞬時に回答が出て来ないというケースも十分に考えられます。
またそれ以前に、「もっと新人に深く考えさせたい」と感じるときもあるでしょう。
しかし、そんなときは、質問だけしてその場を立ち去ればいいと著者はいうのです。
たとえば、先ほどの新人との同行営業のケース。
その際、新人が商談前の「きょうの商談のゴールは、どこに置いているかな?」という質問に対して「お客様とよい関係を構築すること」と回答したとします。
ところが現実的に、「よい関係を築く」とはふわっとしたゴールでしかありません。そのため、大事な局面で遠慮してしまうことに。
結果的にはお客様に踏み込んだ質問をすることができず、次のアポイントをとる機会を逃してしまいます。
しかも指導者は、その商談が終わったあとですぐに次のアポイント場所へ移動しなければならなかったとします。新人とは別行動になるため、ゆっくりと話をしている時間がないわけです。
そんなときには、「商談のゴールはどこに置くべきだったか、メールで送ってもらえる?」と伝えればいいというのです。このフレーズを伝えるだけなら、およそ3秒しかかかりません。
そしてそのまま、次のアポイントに向かってしまうのです。
一方、新人は次の訪問先へ向かう電車のなかなどで、この質問に対する答えを考えることになります。
会社に戻るまでにはある程度の時間がかかるはずなので、それなりの返事をメールで送ってくることになります。
そこで指導者は、メールで送られてきた新人の答えに対してアドバイスをすればいいのです。その際には、直接会って話すのでも、メールで返答するのでもいいそうです。
つまり手段はどうであれ、それは新人が時間をおいてしっかりと考え抜いた意見へのフィードバックになるということ。
そのため、指導者のアドバイスも的を射たものになりやすくなるのです。
指導者からすれば、「10秒で伸ばす時短質問」を投げかけるだけで、その場にいなくても効率的な育成ができるということ。
的確な質問を通じた「宿題」を出すことによって、お互いに時間を有効活用できるわけです。(124ページより)
本書で紹介している51のメソッドは、どれも著者が自信を持っておすすめできるものだそうです。そう断言できるのは、過去の経験によって培われてきたものだから。
いわば、机上の空論とは異なる説得力が備わっているわけです。
だからこそ、時間をかけずに新人を育成したいビジネスパーソンを大きく後押ししてくれることでしょう。
あわせて読みたい
Photo: 印南敦史
Source: 東洋経済新報社