「サカイク」とは、日本で初めて「サッカーと教育」をテーマにした少年サッカーの保護者向けメディア。
「自分で考えるサッカーを子どもたちに。」をスローガンとして掲げ、子どもが心からサッカーを楽しみ主体的に成長できる環境づくりを目指し、自立を育む親子の関わり方について情報を発信しているのだといいます。
『自分で考えて決められる 賢い子供 究極の育て方』(サカイク 著、KADOKAWA)は、そんなサカイクが、子どもたちに学ばせたい5つのライフスキルを紹介した書籍。
サカイクが取り扱うのは、サッカーの話題が中心ですが、ジュニアサッカーの現場で起きる問題はサッカーの世界、スポーツの世界だけの問題ではなく、子供たち自身の問題、そして親やコーチ、周囲の大人の問題、広く社会の問題に直結しています。(「はじめに」より)
そして本書の重要な核になっているのが、「ライフスキル」という考え方。
それは、「人生で起こるさまざまな問題や要求に対して、建設的かつ効果的に対処するために必要な能力」だそうです。
スキル=技術であるライフスキルは、生まれ持った資質や才能、特質ではなく、後天的に習得が可能。
価値観が大きく変わる現代において、人生をいく抜くための大きな武器になるはずだと著者は記しています。
そうした考え方に基づく本書の骨子となっているのは、「サカイクライフスキルプログラム」。
従来のライフスキルから、サッカーを通して子どもたちの“生き抜く力”を伸ばすことに寄与する「考える力」「チャレンジ」「コミュニケーション」「リーダーシップ」「感謝の心」を抽出したものなのだといいます。
きょうはそのなかから、「ライフスキル3 ちからを合わせて乗り越えるための『コミュニケーション力』に注目してみたいと思います。
周囲に合わせることだけがコミュニケーションではない
コミュニケーション力とは、いったいどんなスキルなのでしょうか?
多くの場合、複数の他者と関わること、そしてそのなかで協調性を持って立ち回ることと解釈されているはずです。
しかし協調性は、コミュニケーション力のひとつの側面でしかないのだと著者は記しています。
「協調性」という言葉を辞書で引くと「周囲の人とうまく協調できる性質」と書かれています。日本では、コミュニケーションの中の協調性だけが強調され、主体性を捨てて、相手に迎合することがいいコミュニケーションだと誤解されがちです。
しかし、本来のコミュニケーションは、自分の考え方をしっかり相手に伝えたうえで、相手の考えを知り、意見を交換する双方向のやりとりがあってはじめて生まれるものなのです。(114ページより)
そして、ここで引き合いに出されているのが、平昌五輪で銅メダルを獲得したカーリング女子日本代表チームの「そだねー」。
2018年の「『現代用語の基礎知識』選 ユーキャン新語・流行語大賞」を獲得して話題になりましたが、オリンピックの緊張感とは一線を画す、いい意味で力の抜けたこのフレーズには、理想的なコミュニケーションのヒントが隠されているというのです。
カーリングは、「氷上のチェス」といわれるほど知的要素の占める割合が強いスポーツ。
ストーンと呼ばれる漬物石のような石を交互に投げて得点を競うこの競技においては、自分たちのストーンをどこに置くのか、相手のストーンをいかに妨害するのかがとても重要であるわけです。
決められた制限時間内でベストな選択をすることが求められるため、話し合いがヒートアップすることもしばしば。
事実、海外の他のチームではケンカをしているような言い合いに発展し、チームに険悪なムードが漂う場面もありました。
しかし平昌五輪の日本女性代表チームは、「そだねー」という肯定的なことばでまずは相手の意見を受け止め、そのあとに自分の意見を伝えるというプロセスを自然に実行していたわけです。
そして、それが大きな武器になったということ。これこそが、強調性の本質だという考え方です。(113ページより)
まずは自分の意思をどう伝えるのか?
強調性が重視され、「空気を読む」文化が子どもから大人までに極端な形で浸透した日本においては、コミュニケーションの前提となる「自分の意思を伝える」ことが苦手な人は少なくありません。
しかし、日本社会が日本のなかだけで完結していた時代ならまだしも、これから確実に押し寄せるかつてないグローバル化の波は、こうした文化的特徴にも大きな変化を及ぼすだろうと著者は予測しています。
そして、そこで注目しているのが、日本を飛び出して世界の舞台で活躍するプロサッカー選手。
世界のトップレベルでプレーする“欧州組”や、南米で腕を磨く選手、アジアでプレーする選手など、ひと昔前までは考えられないほど多くの選手が海外でプレーしているわけです。
海外でプレーする選手たちが成功の秘訣として、サッカーの技術より重要と語るのが、「コミュニケーション力」です。オランダ、ロシアで活躍し、イギリスの名門ACミランで10番を背負った本田圭佑選手、同じくイタリアのインテルでキャプテンまで務めた長友佑都選手。
サッカー強国の代表クラスにも物怖じせず身振り手振りを交えて自己主張をする本田選手と、日本式の“お辞儀”で人気を博し、ファンからもチームメイトからもインテルの一員として認められた長友選手のキャラクターは正反対のように見えます。
しかし、2人の選手は、ともにイタリア語を積極的に話し、やり方はそれぞれでしたが、クラブの監督やスタッフ、そして何より選手たちと本当のコミュニケーションを交わしていたからこそ、あそこまでの活躍ができたのです。(120ページより)
2020年の大学入試改革に伴う教育改革では、グローバル化に対応すべく、英語教育が大きく変わるとされています。
これは単に「英語が話せる:ようになるための教育ではなく、多様な言語、文化を背景に持つ人たちと真のコミュニケーションをとるために、「聞く」「読む」だけでなく「話す」「書く」を加えた技術を身につけようというものです。
このことからわかるのは、今後の子どもたちに求められるのは「英語力」ではなく、英語を手段にしたコミュニケーション力だということ。
本田選手、長友選手に限らず、海外で結果を残しているプロサッカー選手はみな、現地のことばを積極的に話し、“日本人離れ”したメンタリティで自己主張し、周囲の信用を勝ち取っています。
「海外では要求しなければ誰からもパスは来ない。遠慮していたらお客さん扱いで終わる」というような環境で生き抜いた彼らは、サッカーをやっていたからこそ、競技を通じてコミュニケーション力を育んできたともいえるわけです。(119ページより)
コミュニケーション力を質問で引き出す
では、コミュニケーション力を引き出し、高めるにはどうすればいいのでしょうか?
この点について考えるときに意識すべきは、いろいろな子どもがいるということ。たとえば低学年の子どもたちを集めてキャンプをすれば、必ず2~3人はみんなの輪に入らず、ひとつぼっちでいる子がいるもの。
保護者にしてみれば「うちの子は強調性がない」と心配になるかもしれませんが、無理やりみんなと同じ行動を強要しても、そこからは本当の意味でのコミュニケーションは生まれないと著者は指摘しています。
それよりも、「自分がいまこうしたい」という意思をコーチに明確に伝え、「コーチはこうしてほしい」という話を徐々にしながら会話を重ねていくほうがいいということ。
ひとりぼっちでいる子の理油はさまざま。
なかには「サッカーの技術に自信がない」という理由でみんなの輪に加わろうとしない子もいるでしょう。そんな子には、まずサッカー以外のことを問いかけることからスタートすべきだと著者は言います。
すなわち、問いかけが重要な意味を持つということ。しかもその場合は、できるだけ答えやすい質問から入ると会話が続きやすいといいます。
サッカーの話ではなく、何気ない会話をするうちに、その子の心も溶けてきて、自分の意見を言うようになるわけです。
親子の会話にしてもそうですが、質問は、自分が聞きたいことを相手に答えてもらう手段。そのため子どもたちへの質問は、できるだけコミュニケーションのきっかけとしてとらえるべき。
親の言いたいことを一方的にしゃべり、最後に「そうでしょう?」と問いかけるようなことをしていても、子どものコミュニケーション力が育たないわけです。
逆に、自分で考える、自分で選択するような質問を意識し、答えに対して会話が続くようなコミュニケーションをとっていれば、子どもたちは自分の意思を伝えることができるようになっていくはずだといいます。(130ページより)
子どもたちがこれから生きていくのは、先の見えない不確かな時代。だからこそ、そんな時代を生き抜くためには“賢さ”が必要なのだと著者は主張しています。
サッカーとは縁のない子どもにとっても有用な情報が詰め込まれている本書を、役立ててみてはいかがでしょうか。
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Photo: 印南敦史
Source: KADOKAWA