『一人でも部下がいる人のための ほめ方の教科書』(中村早岐子 著、西出ひろ子 監修、かんき出版)の著者は、航空会社のCA経験を活かし、チームビルディング、モチベーションアップ、接遇などをテーマに研修・講演を実施しているという人物。
これまで、「部下を叱るのは難しい、なかなか真意をわかってもらえない」と悩む多くのリーダーや上司の相談に乗ってきたそうです。
そんな方々に、私は「まずは、ほめてみませんか」とアドバイスしています。 「えっ」と思われた方もいるかもしれませんが、「ほめる」も「叱る」も、その本質は同じです。
相手に「成長してほしい、能力を存分に発揮してほしい」という期待があるから、私たちは部下を叱るのではないでしょうか。
問題は、その期待をどのように伝えれば、部下との信頼関係が築けるか、ということです。「叱る」のも一つの手ですが、より大きな効果を発揮するのが実は「ほめる」ことなのです。(「はじめに」より)
そこで本書では、さまざまなビジネスシーンですぐに実践できる「ほめ方」のノウハウを、わかりやすくまとめているわけです。
きょうはCHAPTER 1「ほめる技術の基本」のなかから、「ほめる人の基本心得」を見てみたいと思います。
ほめる人の基本心得(1) 相手をコントロールしようとしない
ほめるときにもっとも大切なのは、心を込めてほめること。そして、ほめることによって、相手をコントロールしようとすることは厳禁だといいます。
なぜならそれは、ほめているのではなく、おだてているだけだから。
「ほめる」と「おだてる」はまったく別もので、心のベクトルは正反対。ほめることは相手を認めることであり、その根底にあるのは相手に対する敬意や感謝、応援しようという気持ちだといいます。
そこで、ほめるときには、「いつもコツコツ下調べしているね。なかなかできないことだよ」など、相手の行動や成果、プロセスなどにスポットを当て、どこがよいのか、自分がどう感じているかを具体的に伝えるべき。
だから、相手の心に響くわけです。(48ページより)
ほめる人の基本心得(2) まず自分をほめる
人間には2つの承認欲求があるもの。ひとつは、他者から尊敬されたい、認められたいという欲求。そしてもうひとつは、自分自身から評価を得たいという欲求。
より重要なのは後者であり、それはいわゆる自己肯定感。自分を価値ある存在だと感じ、大切に思う気持ちです。
自己肯定感の高い人は、基本的に自分を信頼しており、長所も短所も含め、ありのままの自分を受け入れられるもの。そのため心が安定していて、多少のことには動じることもないわけです。
ピンチになっても冷静に状況を見極め、ポジティブ思考で乗り越えられるということ。
また他者に対しても寛容で、その人の可能性を信じて励ますことができるそうです。つまり自己肯定感は、リーダーに不可欠の資質。
シャンパンタワーをイメージしてみてください。てっぺんのグラスがあなたです。下には、部下や友人、家族など、あなたの周りの人々のグラスが、ピラミッド状にたくさん積まれています。
グラスは一人ひとりの心、シャンパンは自信や意欲、期待といったポジティブな気持ち、そして自己肯定感です。(52ページより)
つまり、自分のグラスが空っぽだったり、ほんの少ししかシャンパンが入っていなかったとしたら、下のグラスを満たすことは不可能。
だからこそ、自己肯定感をあまり持てないと感じている人は、まずは自分のグラスをなみなみと満たすことから始めるべきだという考え方。
そのためには、自分をほめてほめてほめまくることが重要なのだと著者は主張しています。
しかも大層なことではなく、「親切にされたとき『ありがとうございます』と笑顔でお礼を言った」「きょうも一日仕事をがんばった」など、当たり前なことでOK。
ハードルを低くして見回せば、自分をほめる種はいくらでも見つかるはず。まず、自分に自信を持つことが大切だということ。(50ページより)
ほめる人の基本心得(3) 2つの心の報酬を意識する
自分のグラスが十分に満たされたら、次は部下のグラスに自信や意欲を注入する番。そのためには、「心の報酬」をしっかり与えることが大切だといいます。
「心の報酬」とは働く喜びのことで、おもなものとしては次の2つが挙げられるそうです。
・ 成長の実感
・ 貢献の実感
(54ページより)
これらの報酬を得られると、部下は働きがいを感じ、パフォーマンスがアップするというのです。
仕事への意欲を高めるのは、給料や福利厚生だけではないということ。仕事のおもしろさや心地よい人間関係、連帯感、達成感、承認、励ましなどが、大きなモチベーションになるということです。
そして、部下のやる気スイッチを押すのはリーダーの役割。
そこで日ごろから部下に小さな達成感や成功体験を積ませ、できるだけ「心の報酬」を多く与えるように努めるべきだというのです。(54ページより)
ほめる人の基本心得(4) ほめっぱなしにしない
ほめることによって部下の士気は高まり、成長していくはず。ただし成長を確かなものにするには、ほめっぱなしにしてはいけないそうです。
それでは、部下が現状に満足してしまったり、慢心したりする恐れがあるから。
ほめられてモチベーションが上がると、見える世界が少し違ってきます。そのとき、次の小さなステップを的確に示してやると、もう一段高いところに上れます。
まず、成長を認めてほめます。
「○○さんはよくがんばっているね。いい提案ができるようになった」そして、次のスモールステップを提示します。
「今度はもっとデータを活用しようか、よりわかりやすくなると思うよ」 「次は、○○にチャレンジしてみたらどうだろう」(60~61ページより)
このように常に上昇スパイラルを意識し、ほめては次のスモールステップ、ほめては次のスモールステップと、背中を押していくべきだということ。
そうすれば部下は小さな成功体験を積み重ねて自信をつけ、自己肯定感を高めることもできるようになるわけです。
ひいてはそれが、さらなる成長へのモチベーションになるということ。(60ページより)
ほめる人の基本心得(5) ほめずにほめる!
ほめ言葉を使わなくても、ほめることは可能。たとえば熱心に耳を傾けてもらえれば相手はうれしくなり、ほめられているように感じるわけです。
逆に、上の空で聞かれると不愉快にもなるでしょう。たいせつなのは、ほめずにほめること。
そのための、「ほめる聞き方」のコツは次の8つだといいます。
アイコンタクト
うなずき
相づちをうつ
復唱
メモをとる
要約する
質問をする
感情を込める
(63ページより)
ほめ言葉を使わなかったとしても、態度や姿勢で「あなたを認めている」と伝えることができるわけです。(62ページより)
本書を参考にして心に響く「ほめ方」をマスターすれば、部下や後輩に対して伝えるべきことをしっかり伝えながら、よりよい人間関係を築けるようになると著者は断言しています。
部下との人間関係で悩んでいる方にとって、大きな力になってくれそうです。
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Photo: 印南敦史
Source: かんき出版