『賢い子を育てる 夫婦の会話』(天野ひかり著、汐見稔幸監修、あさ出版)の著者は、結婚、出産、そして育児と仕事の両立を経験したことから子育ての重要性を認識し、「NPO法人親子コミュニケーションラボ」を立ち上げたという経歴の持ち主。
これまで5万人以上のお母さん、お父さん、子どもたちに向けてコミュニケーションの大切さを伝えてきたなかで、気づいたことがあるのだといいます。
それは、最近では親子の会話と同じくらい「夫婦の会話」に悩んでいる方々の相談を受ける機会が増えたということ。
そして、子どもに関する悩みと思われることの根底には、夫婦間のコミュニケーションの問題が隠れているということがわかってきたというのです。
夫婦として「なんとかしたい」「助け合いたい」「成長したい」と思っていても、どうしたらいいのかわからない人が多いということ。
ただ、そうはいっても夫婦間の会話は、子どもに大きな影響を与えるものでもあります。
パートナーとの会話は少なくても、子どもと私は話しているから大丈夫、と思われるかたもいらっしゃるでしょう。 もちろん、親と子の対話やタテの関係から、子どもが受け取ることはたくさんあります。
ところが、お父さんとお母さんが話している姿とその言葉から、親子の対話よりも多くのことを、子どもは学んで育ちます。 親から直接言い聞かされた言葉以上に、親どうしや親とだれかが話している言葉のほうが、子どもの心に響くからです。
そして、夫婦の会話がない場合、子どもは夫婦の関係も敏感に感じ取り影響を受けていくのです。「はじめに」より)
そこで今後は、親が子どもに「言い聞かせる」子育てではなく、夫婦に会話を通じて「自分で考えて行動させる」子育てが重要な意味を持つと主張しているのです。
つまりそのような考え方に基づき、本書では「夫婦のコミュニケーションを楽にすると同時に、子どもの力を伸ばす会話のコツ」を紹介しているわけです。
きょうは第2章「夫婦の会話を変えると、子どもはこう育つ」のなかから、2つのポイントを抜き出してみることにしましょう。
会話が多い夫婦は仲がいい→ 子どもの情緒が安定する
最近、子育ての講演やセミナーで、「夫婦の会話がほとんどなくて、どうしたらいいでしょうか……」という相談をよく受けます。 じつは、日本は夫婦の会話の時間が、世界でも群を抜いて少ないのです。
ある番組の調査によれば、世界50カ国中、日本は48位と、海外に比べると圧倒的に少なく、1日平均53分だそうです。 子育ての講演で、これまでたくさんの夫婦に実際に聞いたところでは、もっと少なく、1日10分くらいの印象です。(38ページより)
しかも「夫は私の話を聞いてくれない」「妻は私に関心がない」など、夫婦それぞれに不満があるはず。
とはいえ両者との本音の部分では、「夫婦でもっと相談して、一緒に生活(家事)をし、ともに子育てをしていきたい」と感じているのではないでしょうか?
そう思ってはいても、うまくいかないだけについイライラが態度に出てしまうわけです。ところが、子どもは親が思っている以上にそれを敏感に感じ取っているもの。
そして夫婦の会話がギクシャクしていると、子どもは自分の力でなんとかお父さんとお母さんを仲よくさせようと気を遣うのだそうです。
たとえば子どもが小さいうちは、おちゃらけてみたりふざけたりして、笑わせようとするかもしれません。もう少し大きくなると、いたずらや悪さや反抗といったおかしな行動をすることにより、ふたり
を向き合わせようとしてしまうようになることも。
あるいは、「自分が悪い子だから…」と自分を責めてしまうというケースも考えられます。子ども自身がリラックスできないため、変な行動をしてしまうのです。
すると、その行動を見た親も、またイライラしてしまう。そうした負のスパイラルに陥ってしまうわけです。
しかし、そうならないためにも、まずは子どもとの関係性以前に、夫婦の会話を見なおすことが先だと著者は主張しています。
お父さんとお母さんがお互いに向き合っている姿を見ることで、子どもは安心してリラックスし、のびのびと自分の思いを育むことに集中できるのです。
ちなみに「仲のいい夫婦」というと、いつも手をつないでニコニコしているとか、毎日ハグするようなイメージを持つ方もいるかもしれません。
でも大切なのは形ではなく、夫婦で力を合わせて家族を育んでいこうという思いが、子どもに伝わること。
そこで試してみたいのは、まず一緒に家事をすることだといいます。家事というと掃除や食器のあと片づけなどを思い浮かべるでしょうが、そういったことも含め、家族の生活をデザインし、プロデュースし、どのように家族を育てていくのか考え、実践することが重要だということ。
それは、夫と妻と子どもが協力しあいながら取り組むべき一大事業だといいます。当然ながら、家族をプロデュースするためには会話が欠かせません。
その際の夫婦の会話が、子どもの成長に大きな影響を与えていくということです。(38ページより)
夫婦は本音を言える関係でありたい→ TPOを考えてふるまえる子になる
「表裏のない子に育てなければ」と思うあまり、「本音と建前があるのはよくない」と考える親も多いことでしょう。
しかし著者によれば、家と外で言っていることが違っていたとしても心配はいらないのだそうです。
建前は、相手への気遣いだったり、ルールだったりします。
相手に自分のことを理解してもらうためには、建前と本音をうまく使い分けることが、円滑な人間関係を構築するのにとても大切なことだからです。(79ページより)
とはいっても、円滑な人間関係だけを考えて建前だけで生きていると、自分の本音を出せなくなってしまうもの。その結果、人と会話するのがいやになってしまうこともあるでしょう。
だからこそ家のなかは、自分の弱さや本音を吐き出せる場であっていいという考え方。
お互いの弱い面を見たり見せたりすれば、それが不安につながっていくこともあるかもしれません。しかし私たちは本来、弱い部分を誰かに受け入れてもらうことによってバランスをとっているもの。
弱い部分を家で見せ合えるぶん、外に出たときに、強い部分や、あるべき役割を負えるということです。
だから、「いつも理想の父親であらねば!」「弱音は言えない」ではなく、「失敗しちゃった」とか、「でも外では、しっかりしたお母さんだよ」と思えることが大切だというのです。
家で夫婦がお互いに失敗や弱音を言える姿を見て、子どもは安心します。 まずは、夫婦で子ども自身が本音をちゃんと出せる場をつくっていきましょう。 成長するにつれて、子どもはTPO(Time[時間]、Place[場所]、Occasion[場合])を考えてふるまえるようになります。
出かけるときは、親はお化粧をし、服を着替えて愛想よくすることや、電話のときは、話す声をいつもと変えて、ていねいな言葉で話していることなど、家と外での違いを子どもはちゃんと見ています。(80ページより)
ときどき、子どものふるまいが学校と家とで違うため、「嘘つきになってしまった」と心配するお母さんもいるそうですが、それはちゃんと親を見て使い分けられるようになったということ。
だから、ほめてあげることが大切なのだといいます。(78ページより)
夫婦の件形成を軸としながら、子育てについて知っておきたいことがまとめられているので、要点を無理なく吸収できるはず。子どもを健全に育てるために、ぜひ活用したい一冊です。
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Photo: 印南敦史
Source: あさ出版