「プレゼンの『目的』とはなんなのか?」という問いに対し、「相手に行動してもらうこと」だと答えているのは、『感動させて→行動させる エモいプレゼン』(松永俊彦 著、すばる舎)の著者。
したがって本書でも、「すべてのプレゼンの『目的』は、相手に行動してもらうことである」という前提に立って、その目的を達成するために有効なプレゼンの技術が明らかにされています。
なお、本書におけるプレゼンの定義は、「相手に自分の考えを伝え、納得し、行動してもらうための行為すべて」です。
一般的なプレゼンのイメージである、大勢の聞き手を前にスライドを使用して話をする行為はもちろんプレゼンです。営業もプレゼンです。会議で自分の意見を伝える行為もプレゼンですし、休日の旅行は札幌に行きたいと家族に伝える行為もプレゼンです。
生活のさまざまな場面でプレゼンスキルが必要とされており、このスキルを身につけることができれば、多くの場面で自分の希望をもっととおせるようになるのです。(「はじめに」より)
こうした考え方を念頭に置いたうえで、第1章「エモいプレゼンを行うための三大原則」を確認してみたいと思います。
「エモいプレゼン」のもっともわかりやすい例は、結婚式で新婦が読み上げる両親への手紙だというのです。
「お父さん、お母さん、いままで私を愛情いっぱいに育ててくれてありがとう。子どもは両親を選べないけれど、私はお父さんとお母さんの子に生まれて、本当によかったです」というような、あの手紙。
そして基本要素は、次の3つなのだとか。
聞き手の心の準備
ストーリーの伝達
感情的な伝え方
(17ページより)
それぞれについて確認してみることにしましょう。
大原則1 「聞き手の心の準備」ができている
結婚式での両親への手紙は、「両親に感謝のことばを伝え、これからも温かく見守ってくれるようにお願いする」ことが目的。
これを知らないまま、新婦の話(プレゼン)に臨む参列者はいないわけです。
仮に「え、これは誰への手紙なの?」と疑問に思う聞き手がいるとしたら、その参列者にとって、両親への手紙はそれほど感動的なものになりません。
状況をつかむためにエネルギーを使ってしまうため、プレゼンを聞くことやその内容に集中できないからです。
逆にいえば、聞き手側に事前の心の準備ができているからこそ、その話の内容に対する集中力が高まるということ。これが、エモいプレゼンを実現させるための最初の大原則だといいます。事前に相手と目的を共有し、心の準備をさせておくことで、より行為的な反応を得やすくなるということ。
もちろんそれは、ビジネスのプレゼンでも同じであるようです。
あなたが行うプレゼンの目的について、できれば事前に相手に告知する(目的の告知であって、話す内容の詳細まで告知する必要はありません)、あるいはプレゼンの冒頭であなたの目的を明確に話しておきます。
本題を切り出す前に、聞き手とプレゼンの目的を共有しておくのです。 (20ページより)
そのため大切なのは、常に聞き手の「心の準備」ができているかどうかを意識し、話し手も聞き手も目的な明確な状態になってから話し出すこと。
それこそが、「エモいプレゼン」の第一歩なのだそうです。(18ページより)
大原則2 プレゼンのなかに「ストーリーの伝達」がある
新婦の両親への手紙では、必ず過去のストーリー(物語)が出てくるもの。
それによって聞き手に具体的なイメージを抱かせて話に引き込むからこそ、参列者を感動させるエモいプレゼンを実現できるわけです。
「お父さん、私が小学2年生のとき、お父さんが大切にしているグラスを割ってしまったことがありました。すると、お父さんは顔色を変えて、ものすごい勢いで私の身体を引き寄せ、『怪我はないか!!』と私の心配をしてくれました。 いまでも、あのときのお父さんの顔は忘れません。お母さんからもらった大切なグラスだったのに、ごめんね。 いつも私を第一に考えてくれているお父さん。私は、お父さんの優しさをこの身いっぱい受けてきたから、こんなに幸せな人生を送れています。……ありがとう」(22~23ページより)
こうしたストーリー(物語)を聞いた聞き手は、新婦がグラスを割ってしまった現場を具体的に想像しながら、話し手のプレゼンを聞くことになるでしょう。
ストーリーを語ると聞き手は自然に、話の内容についてフルカラーのイメージを頭のなかでつくり出し、そのときの雰囲気を感じ取ろうとするというのです。
そのためプレゼンに臨場感が生まれ、聞き手を話に引き込めるわけです。
逆にいえば、ストーリーがない話に人が引き込まれることはないとさえ著者はいいます。
だからこそ、「プレゼンのなかにストーリーの伝達を盛り込んでいる」ことが、エモいプレゼンを成立させるためのふたつめの大原則になるということです。(22ページより)
大原則3 「感情的な伝え方」をしている
結婚式での両親の手紙が聞き手を引きつけるのは、それが実際にあったことだから。
そのため話し手は自分の話に思い切り感情を乗せ、手紙を読み上げることができるわけです。だから感情的な伝え方になるのです。
どんなにいい話であっても、伝え方に臨場感がなければ、ただの音としてしか認識されません。話し手の感情的な伝え方があるからこそ、聞き手の心を震わせられるのです。(24ページより)
これが、エモいプレゼンの3つめの大原則、「感情的な伝え方」。
つまりはこれら3つの大原則を満たしているからこそ、結婚式での両親への手紙は聞き手に感動を与えるということ。そして、その手法が業務上のプレゼンにも活用できるというわけです。(24ページより)
著者はプレゼンコーチとして、企業や学校組織の方々に対し、独自の理論に基づいたプレゼンのノウハウを教えているという人物。
そのノウハウが惜しみなくさらけ出されているというだけに、本書を活用すればプレゼンスキルを高められるかもしれません。
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Photo: 印南敦史
Source: すばる舎