さて、早いもので2018年ももうすぐ終わりです。

僕は2012年8月にライフハッカー[日本版]で書評を書きはじめたので、もう6年と数か月が経過したことになります。単純計算でも、これまでご紹介してきた書籍の数は2000冊近く。当然ながら、今年ピックアップしたものも200冊以上におよびます。

年末恒例ということで、そのなかからきょうは2018年を代表する10冊を選びたいと思います。当然のことながらその作業はなかなか大変だったのですが、「これは印象的だったな」と振り返る作業をするなか、今回改めて感じたことがありました。

「これは外したくない」と思わせる書籍には、それなりのフックがあるということ。そして、なにがフックになっているかといえば、“他にはない視点”ではないかと感じたのです。

出版不況と言われる時代ですから、ひとつベストセラーが生まれると、同じようなテーマの作品が次々と量産されることになります。もちろんそんななかにも優れたものはあるのですが、ただ、やはり心に響くのは、「あ、こういう視点があったか」と感心させられるような個性を持った本なのです。

ベストセラーになったかどうかよりも、そのことのほうが大切ではないかと個人的には感じます。つまり、この10冊もそういう視点で選んだものです。必ずしもベストセラーランキングに入るようなタイプだけではないかもしれませんが、ベストセラー以外にも良書はたくさんあるのです。

そのことをわかっていただきたいという思いから、あえて主観的に10冊を選んでみました。それぞれタイプは違えど、どれも自信を持っておすすめできるものばかり。興味を惹かれるものがあったら、年末年始のお休みにぜひ読んでいただきたいと思います。

10位 『日本人がいつまでも誇りにしたい39のこと』(ルース・マリー・ジャーマン著、あさ出版)

最近はテレビをつけると、「日本すごい!」というアピールをしている番組によく出会います。それはそれでいいのですが、本当の意味で日本の魅力を理解していないのは、当の日本人なのではなかという気がしなくもありません。

そこで手にとっていただきたいのが本書です。著者は、大学卒業後にリクルートに入社し、以来30年間にわたって日本に滞在しているアメリカ人。そんな立場から見た日本の姿は、僕たちが忘れかけていたものであるように感じました。

9位 『春は曙光、夏は短夜 - 季節のうつろう言葉たち』(毎日新聞・校閲グループ 岩佐義樹、ワニブックス)

著者は毎日新聞東京本社校閲担当部長であり、毎日新聞で「週刊漢字 読めますか?」という漢字クイズを9年間連載し、その時々にふさわしい漢字を選んできたという人物。

その連載で出題しながら、「日本語には、季節に関わる言葉がなんと豊かなのだろう」と感じていたのだといいます。そんな思いがきっかけとなって生まれたのが本書。

「月ごとの言葉」を紹介することによって、日本語の表現力と美しさを改めて実感させてくれるのです。

8位 『いつもの仕事と日常が5分で輝く すごいイノベーター70人のアイデア』(ポール・スローン著、中川 泉訳、TAC出版)

どんな仕事をしていたとしても、イノベーティブな発想を求められることはあるものです。そうであるだけに、本書は役に立ってくれそうです。

ステーブ・ジョブズからウォルト・ディズニーまで、あらゆる分野で影響力を持った偉大なイノベーターたちの生涯を、興味深いエピソードを絡めて紹介したユニークな書籍です。

先ごろ映画『ボヘミアン・ラプソディ』で再評価されたクイーンのフレディ・マーキュリーなどの話題も。気負うことなく、リラックスしながら楽しめるはずです。

7位 『貧乏モーツァルトと金持ちプッチーニ』(正林真之著、サンライズパブリッシング)

クラシック音楽全史』(ダイヤモンド社)を筆頭に、クラシック音楽をモチーフにした良書が目立ったのも今年の傾向のひとつだったように思います。いうまでもなく、本書もそのひとつ。

ユニークなのは、著者が弁理士としての立場から、身近な疑問をもとに“勝者と敗者を分ける「権利ビジネスの仕組み」”を解説している点です。

そのため、クラシック音楽とビジネス双方の知識を身につけることができるわけです。読んでいるだけで純粋に楽しく、知的好奇心を刺激される心地よさを味わうこともできます。

6位 『ビジネスの限界はアートで超えろ!』(増村岳史著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

「調和のとれた思考能力を高める」ことを目的として、著者はビジネスパーソンを対象にしたデッサン講座を主宰しているのだそうです。まず、この時点で強烈なオリジナリティを感じさせます。

また当然ながら、その内容もユニーク。デッサンがうまくなるコツの半分は、数学的なものごとの見方や論理力であり、それらと自身が本来持っている感性を合わせることによって、大きな力を引き出すことができるという考え方なのです。

一見すると何の関係もなさそうなビジネスとアートの相互関係を、強く認識できる興味深い内容だといえます。

5位 『炎上とクチコミの経済学』(山口真一著、朝日新聞出版)

現代は、クチコミサイトやSNSなどのコミュニケーションツールが欠かせない時代。それらがなければ、僕らの現在の生活は成り立たなくなるといっても過言ではありません。

しかしそんななか、しばしば「炎上」が問題になり、場合によっては特定の個人を苦しませることになるのもまた事実。

そこで、豊富な統計データとさまざまな実証分析によって、クチコミと炎上という「ネット上の発信」の実態を明らかにするために書かれたのが本書。

炎上への具体的な予防・対処法、ソーシャルメディアを効果的に活用する方法も紹介されているので、とても参考になります。それだけでなく、現代を読み解くための資料としても完成度が高いと思います。

4位 『最高の入浴法』(早坂信哉著、大和書房)

過去20年にわたって「お風呂・温泉」を医学的に研究し、のべ3万8000人の入浴を調査してきたという温泉療法専門医が、「一般の方が実践できる、もっとも優れた健康法」としての入浴のメリットを明かした書籍。

忙しい毎日のなか、お風呂に入っている時間がもったいないという理由からシャワーだけで済ませる方も少なくないでしょう。

しかしそんな方も本書を読めば、「医学的に正しい入浴法」をすることで得られる多くのメリットを実感できるはず。ひいてはそれが、ビジネスのクオリティも向上させることになるわけなのですから、決して無視できる問題ではなさそうです。

3位 『amazon 世界最先端の戦略がわかる』(成毛 眞著、ダイヤモンド社)

いまや我々の生活になくてはならないアマゾンのビジネスは、「経営学の革命」でもあると著者は主張しています。10年後には必ず経営学の教科書に載るような、エポックメイキングな存在なのだとすら言うのです。

つまりアマゾン1社を押さえれば、それだけでおもだった業界のことがわかり、「そこでいま、なにが起こっているのか」など、現代のビジネスマンが知っておくべき最新のビジネス感覚も身につけることができるということ。

そういう意味で、アマゾンを出発点として、将来的なビジネス全般のあり方を予測している1冊だと言えます。

2位 『日本の本日』(小野博著、orangoro)

著者は、これまでに世界50カ国を撮影してきた実績を持ち、現在はオランダ・アムステルダムに暮らしているという写真家。日本にいたころにはつらい思いもしてきたようですが、東日本大地震を契機として日本に対する思いが大きく変わったのだといいます。

そこで本書においては、「好きだったころの日本」「息苦しかったころの日本」「変わらない日本」「変わってしまった日本」「繁栄する日本」「衰退する日本」「被災地から見た日本」などについてのさまざまな思いを、写真と文章でまとめているわけです。

写真が中心なので文字量はさほど多くありませんが、本人の体験が軸になっているからこそ、そのシンプルな文章が心に響くのです。

1位 『君たちはどう働きますか―不安の時代に効く100の処方箋』(西本甲介著、東洋経済新報社)

現代は「不安の時代」。しかし、必ずしも絶望する必要はない。なぜなら、仕事を通して成長する「機会と場」を得ることさえできれば、誰でも必ず成長することができるから。

そして成長することができれば、今後も長く働き続けることができるーー。

正社員として採用したエンジニアを大手メーカーに派遣しているメイテックという会社で、30年にわたって働き続ける人たちを見続けてきた著者は、このように主張しています。

本書ではそんな考え方を軸に、働き方や仕事に対する考え方人間関係についての対処法などについて持論を展開しているのです。

しかも対象は、これから社会に出ようとしている人から、新入社員、転職を考えている人、仕事人生の終盤を迎えようとしている人まで広範。

つまり、すべてのビジネスパーソンに向けたメッセージを投げかけているということ。シンプルでストレートな表現だからこそ、その言葉は多くの人を共感させるはず。

時代を超えた普遍的な言葉の数々は、きっと働く人の力になってくれることでしょう。ぜひとも読んでみていただきたい名著です。

【番外編】『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(印南敦史著、星海社新書)

個人的な話で恐縮ですが、今年も自著を発行しました。ということで、手前味噌ながら番外編です。

「本を読んでも忘れてしまう」という悩みを抱えている方は、決して少なくないはず。でも悲観する必要はなく、むしろ「忘れて当然」。大切なのは、忘れてしまうことを事実として受け入れたうえで、「では、どうすればいいか」と考えること。

そのようなスタンスに立てば、読書は楽しくなってくるもの。本書の根底にあるのは、そんな考え方です。また、読む場所などのシチュエーションをうまく活用すれば、より覚えられるようになるもの。

そこで、そのためのアイデアもご紹介しています。“自分のための読書”をより快適なものにするために、手にとっていただければ幸いです。




以上が、今年印象に残った10冊(+1冊)ですが、もちろんこれ以外にも印象に残ったものはたくさんあります。そこで、もし興味があれば過去のアーカイブもチェックしてみてください。

その結果として自分にフィットする1冊と出会えたとしたら、それは「座右の書」になるかもしれないのですから。

今年もたくさんの良書が出版されましたが、それは来年も同じ。きっと多くの本が、さまざまな角度から読者を刺激してくれることでしょう。

そこで引き続き、そんななかからビジネスパーソンに役立ちそうなものを今後もご紹介していきたいと考えております。来年もよろしくお願いします。


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