仕事ができる人や人生をエンジョイしている人は、上機嫌に過ごす時間帯が多く、感情も安定して前向きになれるもの。いっぽう、ストレスをため込み疲れやすくなってしまう人は、素晴らしい能力や素質があっても“もったいない状況”に陥ってしまいがち。

では、両者の差はどこにあるのでしょうか? 『脳のコンディションの整え方』(茂木健一郎 著、ぱる出版)の著者によれば、それは持って生まれた頭のよさや性格の問題ではなく、「脳のコンディション」をどのくらい意識して整えているかの違いなのだそうです。

そこで本書では、著者が脳科学者として得た知見と、自身の人生のなかで実践してきたことを軸として、脳のコンディションの整え方を明らかにしているのです。

「脳のコンディション」を整えるには、いくつかのポイントがあります。なかでも非常に重要なのが「ストレスへの接し方」です。世の中には自分でコントロールできないことで自分に悪影響を及ぼすことがたくさんあるからです。

他人が何を言うか、他人の振る舞い方、自分の仕事を同僚や上司、さらには取引先の人が、どのように受け入れて評価しているかなど、自分ではコントロールできないことが意外にストレスになり、心身のバランスに支障を来すこともしばしばです。そうしたときにどのように考えればいいのかを扱っていきます。

また人間には不安や怒り、さらには自分なんかどうせダメだと思ってしまう、あきらめの気持ちなどがあります。そうしたネガティブな感情が生まれたときの対処法についてもお話しします。(「はじめに」より)

著者によれば、「脳のコンディションを整える」ということは、自分と対話をすること。つまりメタ認知で自分の脳の状態を把握し、自分にとっていま必要なことをして、感情をコントロールする「セルフメンテナンス」を行うことが重要だというわけです。

きょうはそんな考え方を軸とした本書の第3章「ビジネス脳の鍛え方」に焦点を当ててみたいと思います。

雑談で脳のスパーリングをする

雑談とは、いろいろなアイデアを出すことができる、非常に重要な機会。著者はそう主張しています。仕事ができる人は、例外なく雑談を楽しめるものだとも。だからこそ、雑談でスパーリングをして楽しむべきだというのです。

意識的に商談で雑談する機会や時間を増やすことは、次の仕事につながると思います。仕事で大事なのは「あの人はこうだよ」と評価してもらえる信頼関係だと思うのです。

何かのときに声をかけられるとか、仕事の誘いがあるとか、そういう信頼関係は、雑談の機会を何度も設けて、培われるものだという気がします。(124ページより)

雑談の名手は、「この人とはどういう間合いで仕事ができるのか」ということをコミュニケーションのなかで確かめてつかんでいくもの。著者はそう指摘しています。そういう意味で雑談には、脳と脳とを混ぜるようなところがあるというのです。

すなわち、互いに相手の脳の情報を共有するということ。そのことを著者のような研究者は「ソーシャルブレイン(社会的な脳)」と表現するそうですが、つまりは1+1が2以上の効果をもたらすものが雑談だということです。

ただし雑談時に自分の話ばかりをするのはNGで、ときには聞き役になることが大切。また1対1でなく複数の人がいる場合は、全員がまんべんなく話に加われるように気遣いできるのが理想的な雑談だといいます。(122ページより)

できるだけ近くと、できるだけ遠くの両方を見る

著者は相談を持ちかけてくる人に対し、しばしば「近くと遠くの両方を見ること」の大切さを説いているのだそうです。

「できるだけ遠く」というのは、人生の目標、人生で自分が達成したい大きなこと。それがないと、自分の人生の方向性がブレてしまうわけです。

僕の場合、いろいろなメディアでいろいろな仕事をさせていただいています。

その中で脳から心がどのように生まれるかという、僕の研究テーマでもある「脳とクオリア」がライフワークであるということを忘れてしまうと、自分が何をやっているのかわからなくなってしまいます。(127ページより)

その一方で「できるだけ近く」、つまり目の前のことも重要。日々、目の前のことに誠心誠意尽くして、次のステップにつながるように仕事などをこなしていかないと、足元がふらついてしまうからです。

とはいえ、「目の前の次のワンステップ」と「遠くの人生の目標」の両方を見ることは、なかなかできないことでもあります。また遠くを見すぎていると、目の前のワンステップが取るに足らないことのように思えてしまうこともあることでしょう。

しかし人生の目標となるようなどんな大きな仕事も、目の前の小さなステップから始まるわけです。

大事なことは自分の今の小さなステップが、大きな目標にどうつながっているか、見通しやビジョンを持ち続けること。想像力を働かせることが重要です。

逆に大きなことばかり言っている人は、目の前のステップに引き戻す、スケールダウンする訓練が必要で、現実感覚を取り戻すことが必要です。(128〜129ページより)

目の前の近い目標か遠い目標か、どちらかに偏っている人は少なくないでしょう。しかし人は、過去の経験に基づいて未来を描いているものでもあります。

したがって、自分の未来のビジョンを思い描くには、これまでの人生を振り返ることも重要だというわけです。

多くの社会人は今を生きることに精いっぱいで、過去のことといっても社会人になった後のこととか、今の部署についた後のことしか思い出せない方が多いのです。

落ち着いて過去のことを振り返って、子どもの頃の夢や、挫折、出会いなど、自分のライフヒストリーをたどれるようになると未来の道筋を間違えなくなります。

未来の答えは過去や現在にあるのです。(130〜131ページより)

これは、心にとどめておきたい重要なメッセージだと捉えることができるのではないでしょうか。(127ページより)

「脳のコンディションの整え方」をわかりやすく解説した本書は、「脳の取扱説明書」だといいます。脳を最高の状態に保って仕事に臨むため、参考にしてみる価値はありそうです。

Source: ぱる出版/Photo: 印南敦史