ご存知のとおり、『こうやって、考える。』(外山滋比古 著、PHP文庫)の著者はお茶の水女子大学名誉教授、文学博士、評論家、エッセイスト。2020年7月に逝去されましたが、東大生のバイブルとして名高い『思考の整理学』を筆頭とする多くの名著を残されています。

2017年に発刊された作品を文庫化した本書は、著者がこれまでに発表してきた著作郡のなかから、「発想力を鍛えるための150のヒント」を厳選してまとめた一冊

広い意味で、エッセイと言ってよい文章を数多く書いてきた。なるべく短く、と心がけて書いたものの、冗長に流れることが少なくなかった。

もっと短く、味わいのあるエッセイが書きたいと思いながら、年をとってしまった。いまさら、どうすることもできない。

そう思っていたところへ、「発想力や思考力を磨くヒントになるような箴言(しんげん)集を、これまでの著作から抜粋して作らせてほしい」と申し出てきたのがPHP研究所の出版部であった。

利用するところを選び出すのに、著者はほとんど無力である。「よろしく」とだけお願いして、できたのが本書というわけである。(「はじめに」より)

そんな本書の校正などをしているとき、おもしろいことに気づいたと著者は振り返っています。引用された短文が、もとの本文のなかにあったときとは違った、新たなニュアンスを伴っているというのです。

引用されることで、文章が持つ味わいが凝縮されるのかもしれないと分析していますが、たしかにそれは興味深いところ。

きょうは第三章「思考力を高める方法」のなかから、いくつかをピックアップしてみることにしましょう。

考えごとは朝にする

ものを考えるのは、朝、目覚めてからの短い時間がいい。よく眠ったあとの朝は気分爽快で、頭の中の様子はわからないが、夜、寝る前よりは、きれいになっているにちがいない。そこで考えたことが、一日中でベストであると決めた。

知的生活習慣』(54ページより)

著者はもともと、夜になってからものを考えようとしたことはなかったのだとか。しかし考えごとを朝にするようになってからは、「一日中、着想を求めていたのは、少し不自然である」と考えるようになったのだそうです。(54ページより)

知識に甘えない

知識は有力であり、適当に使えば知識は「力」であるけれども、困ったことに、知識が多くなると、自分で考えることをしなくなる。

知識があれば、わざわざ自分で考えるまでもない。知識をかりてものごとを処理、解決できる。知識が豊かであるほど思考力が働かない傾向にある。

『「マイナス」の「プラス」』(55ページより)

極端ないいかたをすれば、知識の量に反比例して思考力が低下するということ。たしかに、納得できる考え方ではないでしょうか?(55ページより)

常に問い、疑う

手はじめは、なにごとにもよらず、新しいことがあらわれたら、「これ、なに?」と自問する。「どうして?」と問うこともあろう。

常識になっているようなことに対しても、「ホントにそうだろうか」と問うてみる。

『「マイナス」の「プラス」』(56ページより)

しかしこれらは、やや具体的な思考。なぜなら、問うべきサブジェクトがあらかじめ目の前にあるからです。

したがって、さらに高度の自由、純粋思考の道に入るためには、「なに?」「なぜ?」を問うだけではいけないというのです。すなわち、重要なのは「未知」を考えるということ。(56ページより)

誤り、失敗を怖れない

アイディア、発明、発見の基本的姿勢として、「常識を疑え」というのがある。既存の権威なども常識に支えられているから、だいたいにおいて非創造的であるのを避けられない。そう考えてみると、誤っておこったこと、失敗したことは、常識を超越しているためにクリエイティヴであるのだと考えられる。

アイディアのレッスン』より

だとすれば、失敗や誤りの多い人生は、新しいものを生み出すのに適していると考えることもできるわけです。(58ページより)

しゃべらない

いい考えが得られたら、めったなことでは口にしてはいけない。ひとりであたためて、寝させておいて、純化をまつのが賢明である。

話してしまうと、頭の内圧がさがる。溜飲を下げたような快感がある。すると、それをさらに考え続けようという意欲を失ってしまう。あるいは、文章に書いてまとめようという気力がなくなってしまう。

思考の整理学』(59ページより)

「しゃべる」ということ自体がすでに立派な表現活動であるため、しゃべってしまうとそれで満足してしまうということ。

だからこそ、あえて黙って、表現に向かっての内圧を高めなくてはならないのです。(59ページより)

わざと関心からはずす

何かやってうまくいかなかったらいい加減でそれをひとまずお預けにする。そしておもしろそうなことを何かやってみる。

その間に、はじめやっていたことが路傍の花のように見えてくる。いいかえると、セレンディピティをおこしやすい位置に見える。

知的創造のヒント』(62ページより)

そして、しばらくしたらまた戻ってもう一度試してみる。すると、案外スラスラと進むものだというわけです。(62ページより)

発想力や思考力から生活に至るまでのさまざまなトピックスが、1ページ1項目でコンパクトにまとめられています。

どこからでも読むことができるだけに、気軽にページをめくってみれば予想外の金言と出会えるかもしれません。

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Source: PHP文庫/Photo: 印南敦史