『アンガーマネジメントで読み解く なぜ日本人は怒りやすくなったのか?』(安藤俊介 著、秀和システム)の著者は、一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。2003年に渡米してアンガーマネジメントを学び、日本にいち早く導入した第一人者です。
注目すべきは、そのような立場に基づいて「アンガーマネジメントができるようになると、自分と違うものが受け入れられて、自分が本当に使いたいことだけに集中できるようになる」と断言している点。
当然ながら、世の中は自分とは違う人の集まりですが、そんな当然のことを多くの人が忘れているのも事実。自分とまったく同じなどありえないのに、少しでも違いが目につくと「自分とは違う」というラベルを貼り、ときには“敵認定”をして攻撃したりするわけです。
著者によればそれは、多くの人が「多様性を受け入れろ」と圧力をかけられているかのように感じているから。
無意識のうちに「多様であること」「自分と違うものを察知しなければいけないこと」に義務感を覚えているため、その圧力や義務感が、自分とは違うものへの嫌悪感につながり、受け入れることを拒否してしまうということです。
だからこそ、アンガーマネジメントが必要になってくるのです。
ちなみにご存知の方も多いでしょうが、アンガーマネジメントとは、怒りの感情と上手につきあうための心理トレーニングのこと。生きにくさ、生きづらさを感じている人にとって有効な手段です。
アンガーマネジメントができるようになることは、自分が置かれている環境をそのまま受け入れることができる、さらに言えば、受け入れることが苦ではなくなるということなのです。(「はじめに」より)
そんな本書の第6章「これからの時代をムダに怒らない6つのヒント」のなかから、2つのポイントを抜き出してみましょう。
6秒ルールを守る
アンガーマネジメントがコントロールできるのは衝動、思考、行動の3つで、これらはセットになっているもの。そしてこれらのコントロールは、必ず「衝動、思考、行動」のコントロールの順に行うものなのだそう。
衝動のコントロールができなければ思考のコントロールはできず、思考のコントロールができなければ行動のコントロールをすることは不可能。つまり衝動のコントロールは、ほかのコントロールに先んじてできなければいけないということ。
衝動のコントロールができなければ、思考や行動のコントロールはできないので、それはアンガーマネジメントができないということを意味するわけです。
なお衝動のコントロールとは、怒りを感じたときに反射をしないこと。反射とは、考えなしになにかを言ったり、したりすること。
「怒りに任せて、つい口にしてはいけないことを言ってしまい、取り返しのつかないことになった」というようなことはあるものです。いわゆる“売りことばに買いことば”。
すなわち怒りによる反射の賜物ですが、それで場が平和に丸く収まることはまずありません。だからこそ、反射しないことが大切。
では、そのためには怒りが生まれてからどのくらい待てばいいのでしょうか? この問いに対して著者は、6秒だと主張しています。
諸説ありますが、怒りが生まれてから6秒あれば、理性が働くと考えられています。
理性が働くことで、次のステップである思考のコントロールができ、今、目の前で起きていることについて、本当に怒る必要があるのかどうかを、改めて考えることができるようになるのです。
これからはどんなにイラッとしても、とにかく一旦6秒は待ちましょう。(202ページより)
「言い合いをしているときに6秒も待っていたら、相手に言い負かされてしまうのではないか?」と思われるかもしれません。
しかし衝動のコントロールができるようになれば、相手から嵐のようにことばを浴びせられたとしても、冷静を保つことができるもの。
そのため、とくに苦にならないと著者はいいます。だから、とにかく6秒待つことだけを意識してみるべきだということです。(200ページより)
共感疲れしない
「共感疲労」は、もともとカウンセラーなどが、クライアントのトラウマや苦しみという強い感情に触れるなかで、相手に深く共感したり、親身になって話を聞いたりして、自分も心が疲れてしまうことを指すそう。
人は共感疲労すると、不眠、食欲不振、無気力感、気持ちが落ち込む、怒りっぽくなる、感情が不安になるなどの症状が現れるとされています。しかも短期的なものではなく、長い期間にわたって疲れが続くものだとか。
一般的に、共感することはいいことと教わります。
ここでの共感するとは、たとえば相手が悲しい気持ちでいるときに、相手が悲しい気持ちになっていることを感じることです。
自分も一緒に、同じレベルで同じ気持ちになる必要はありません。(「はじめに」より)
隣に落ち込んでいる人がいて、その気持ちを共有することはやさしさといえるかもしれません。しかし、それは共感疲れを招くものでもあります。
共感することで自分まで苦しめてしまうのなら、その共感は無用の長物でしかないわけです。したがって共感疲れしないためには、自分と相手とのあいだに線を引くことが大切。
自分は自分であり、相手は相手。だからこそ、その場では共感したとしても 、その場から離れたら、その場であったことは忘れる努力をし、決して引きずらないようにすべきだという考え方です。(204ページより)
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アンガーマネジメントを身につけることができれば、自分の限られた時間と労力を、本当に自分がかけたいことにすべて注げるようになるそう。だからこそ、アンガーマネジメントの入門書である本書を有効に活用したいところです。
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Source: 秀和システム