世界最高のコーチ 「個人の成長」を「チームの成果」に変えるたった2つのマネジメントスキル』(ピョートル・フェリクス・グジバチ 著、朝日新聞出版)を通じて著者が伝えたいのは、「よきマネージャーは、よきコーチである」ということなのだそうです。

ここでいうコーチとは、チームのメンバー一人ひとりの目標達成をサポートし、成長を促す存在(人)のことです。そして、その実現のための手法を、本書では「コーチング」と呼んでいます。(「はじめにーーよきマネージャーが行うべきたった2つのこと」より)

マネージャーがよきコーチでなくてはならないのは、現代のビジネス環境の変化に対応しながらチームでより高い成果を上げていくにあたり、チームの各メンバーの成長が欠かせないから。

チームのミッション達成とメンバー個人の成長を両立させ、個人の成長をチームの成果につなげて、会社全体にいい影響をもたらしていく。それこそが、コーチとしてのマネジャーの役割であり、コーチングの目的だということです。

そこで本書では、「どんなコーチになれば最高のチーム状態を実現できるのか?」について解説しているわけです。

第1章「よきマネジャーは、よきコーチである」内の「最高のコーチは『創造的な会話』を生み出す」に焦点を当て、コーチングについての基本的な考え方を確認してみたいと思います。

ゴールの実現に向けてなにを優先すべきか

著者は本書の冒頭で、「コーチが挨拶以外にひとこともしゃべらずに終わったセッションが最高のコーチングである」という話を引き合いに出しています。

いったい、どういうことなのでしょうか?

それは、コーチが尋ねるまでもなく、コーチングの相手(クライアント)自身が「自分がなにを目指すべきか(=ゴール)」を理解していて、「そのゴールの実現に向けてなにを優先して行えばいいか」という答えを見出し、「そのことによる他人への影響(アウトカム:outcome)」まで認識できている状態。

そこまでに至るステップは次の4つに分けることができ、それらは「コーチのサポートによって起こしたいクライアントの変化」という捉え方もできるのだとか。

① 自分と自分の状況を認識すること

② 自分が置かれている環境を認識すること

③ 自分には選択肢があることを自覚すること

④ 選択したことに対する責任と自分が与える影響を考えること

(16〜17ページより)

だとすれば、「自分で答えを出せるのなら、コーチは必要ないのでは?」という疑問がわいてきても不思議はありません。しかし、そういうことでもないようなのです。(16ページより)

「コーチャブル」とは?

コーチングの世界に、「コーチャブル」という表現があるそうです。

コーチングを受ける人がコーチのサポートを積極的に受け入れるだけでなく、より適切な答えにたどり着くようにコーチからのサポートを積極的に求め、変わることができる状態のこと。

つまり最高のコーチングセッションのクライアントは、まさにコーチャブル。コーチャブルな人とのセッションであれば、必ずよいコーチングになるわけです。

とはいえ当然ながら、常にコーチャブルであり続けるのは簡単なことではありません。

人間である以上、調子がいいときもあれば、悪いときもあるからです。しかも私たちは、従来の習慣を維持しようとする側面を持ち合わせてもいます。

すなわち、人間の「変わりたくない」という側面は、あって当然だということ。変わってばかりいたのでは不安定で、落ち着いた生活が送れなくなってしまうからです。

しかし、だからといって「ずっと変わりたくない」というままでいたとしたら、いつまで経っても成長することは不可能。それどころか、周囲の環境の変化から取り残されてしまうことにもなるでしょう。

人間は、もともと「変わりたくない」存在であるけれども、生きていくには「変わらなくてはならない」存在でもある。人間はそんな矛盾した存在だからこそ、「コーチ」のような存在が必要なのです。(18ページより)

たしかにこれは、忘れるべきではない視点かもしれません。(17ページより)

「変わること」を手伝い、サポートする立場

たとえばスポーツ分野のコーチは、選手が変化を受け入れ、成長し、よりよいプレーができるようになるのをサポートする立場です。事実、ゴルフやテニスなどの優れたコーチは、細かな修正点にも気づかせてくれるはず。

とはいえ、そうした変化を促す役割を誰が担うのかは、文明や文化、時代によっても異なるでしょう。

しかしいずれにしても、相手のそのときの状況に応じて「変わること」を手伝い、目標の実現に向けたサポートを行い続けるのが「コーチ」の役割だということ。

いわばコーチングとは、「アウトプット」を管理することではなく、「プロセス」をサポートすることによって成果を出していく不断の営みであるわけです。

そのためコーチは、仕事の本質(その背景や仕組み、部門間の流れ、評価基準、社内政治、ビジネスモデルなど)を常に具現化、言語化し、各メンバーが最高のパフォーマンスを出せる状態を維持できるように、細やかにサポートすることが求められるのです。

僕は、英語のダイアログ(dialogue)を意味する「対話」と、カンバセーション(conversation)を意味する「会話」を使い分けています。

会話は、いわゆる日常的な会話と思ってもらえばオーケーです。

一方、お互いの理解を深め合うことで行動の変化(成果)を作り出していく「創造的な会話」という意味で、「対話」を使っています。(20ページより)

著者がコーチとしてのマネジャーに目指してほしいのは、「対話」のほうだそう。対話によって建設的な変化を促したり、ときには斬新なアイデアを見出したりしていくプロセスこそがコーチングだということです。(16ページより)

ご存知の方も多いと思いますが、著者はGoogleでセールスコーチングプログラムづくりなどにも携わってきた人物。そうした実績に基づいて「どうすればよいコーチになれるのか」を解説した本書は、マネジメントに携わる人をしっかりサポートしてくれることでしょう。

Source: 朝日新聞出版