ファーストクラスCAの心をつかんだ マナーを超えた「気くばり」』(清水裕美子 著、青春出版社)の著者は、元日本航空客室乗務員。国内線を経て国際線ビジネスクラス・ファーストクラスなどを担当し、退職後はCA流美容コンサルタントとして独立したという人物です。

機内で会った超一流のお客様は「気くばりの達人」でした。 それは、人に対してだけでなく、自分自身に対しても、です。 「気くばり」というと、仕事をスムーズにするため、あるいは接客の際にするものというイメージが強いかもしれません。私自身、新卒で日本航空の客室乗務員(CA=キャビンアテンダント)になった当時は、「気くばり」は人間関係がうまくいく潤滑油、くらいにしか思っていませんでした。 しかし、ファーストクラスをはじめ、機内でさまざまなお客様とお会いしているうちに、超一流のお客様は皆、CAの心をぐっとつかむような「気くばり」をしていることに気づいたのです。(「はじめにーー『気くばり』は人生の強力な武器になる」より)

しかもそれは、ただの「気くばり」ではないそう。マナーどおりの気くばりが「一流」だとしたら、マナーを超え、そこに心を込めているのが「超一流」の気くばりだというのです。

そして、そんな「マナーを超えた気くばり」は、初対面の人との関係を円滑にし、仕事や人間関係においての強力な武器になるものでもあるのだとか。そこで本書において著者は、CAとして機内で出会った“超一流のお客様”の会話やふるまい、マインド、セルフマネジメントなどについてまとめているわけです。

きょうは第2章「超一流はまわりに振り回されない いつも余裕がある人のマインド」のなかから、2つのポイントをピックアップしてみたいと思います。

超一流はイライラしない――思い通りにならないことを受け入れる

トラブルが起きたときには人の本質がわかるものですが、著者も実際に、なにか不測の事態が起こったときにこそ超一流の方の素晴らしさに感動させられるものだと記しています。

たとえば、飛行機が遅延したとき。なかには到着後に大切な会議が控えているというような方も少なくないでしょう。つまりは動揺しても仕方がないシチュエーションだということですが、超一流の方はそんなときにもイライラしたり感情的になったりはしないというのです。

「VIPの方を乗せたフライトが、大幅に遅延してしまいました。遅延の対応についていろいろ質問があるかと覚悟していたのですが、質問は「今、携帯電話使っても大丈夫?」ということだけ。その後はご自身で淡々とその後の予定の調整をされたり、お連れ様との会話を楽しんだり、その時間をどう過ごすかにフォーカスされていました。謝罪に伺った際も『どうなっているの?』と催促されることもなく、『仕方のないことだから大丈夫だよ』と理解を示してくださいました」(現役外資系エアラインCA)(96〜97ページより)

超一流のお客様は、どうにもならないことがあるということを理解しているため、CAに対しても無理難題や過剰な要求をすることがないということ。著者はそんな姿を見ていると、超一流の方は「サービスしてもらうのが当然」とも、「物事が予定どおりスムーズに進むことが当然」とも思ってはいないのではないかと感じるそうです。

当然だと思っていることが思いどおりにならないと、イライラしたり動揺したりしてしまいがち。しかし「トラブルはつきもの」と考えているからこそ、どんと構えて冷静な対応ができるということです。

それは機内食やドリンクのラインナップ、アメニティなどについても同じ。希望するものがなかったとしても、「あ、そうなんだ。じゃあ大丈夫」というように、相手に気を遣わせないような軽さで対応し、ないことを理解するわけです。それも、「あるのが当然」とは考えていないから。

「物事は自分の思ったとおりに進んで当然」という考えは、感情の振れ幅を大きくしてしまいがち。そのため、非常に疲れることになります。仕事にしても家庭の問題にしても、私たちが感じる日常のイライラの大半は、「こうなって当然」という考えがあるからなのかもしれません。しかし、その「当然」の根拠をたどっていくと、自分自身の価値観や、「一般的にこうだから」という程度のものだったりするもの。

一方、超一流の方は、自分の予想と違うことや価値観に合わないことがあっても、「そんな小さなことに拘らない」「そんなことでいちいち怒っていられない」と思っているような人間の大きさを感じるといいます。そんなことよりも、自分の感情を平和に保つことに重きを置いているということなのでしょう。(96ページより)

超一流はミスを責め立てない――声を荒げることは損と知っている

CAも人間ですから、多くの失敗談を抱えているはずです。しかし、苦い失敗談を一生忘れられない学びに変えてくれるのが、超一流のお客様の対応なのだそうです。

「私のチェックフライトで管理職も同乗していたときのことです。とても緊張していたこともあり、急に飛行機が揺れた際に、上顧客のお客様に派手にドリンクをこぼしてしまいました。目の前が真っ暗になりつつも必死に拭き、お客様に謝罪した際に『最初はびっくりしたけど、人ってこういうことがあるものだから落ち込まないで頑張ってね』と言われました。さらに、同乗していた管理職にも『彼女は一生懸命頑張っているから、あまり怒らないであげてね』と言ってくださっていたそうです。 とても不快な思いをさせてしまったにもかかわらず、私の緊張もすべてお見通しで、逆に私の心配をしてくださったお客様の心の広さに、ただただ驚き感謝しました」(現役日系エアラインCA)(107ページより)

思わず声を荒げてしまってもおかしくないような状況でも、冷静に対応し、さらに相手のことを思いやるという「マナーを超えた気くばり」を見せられるのが超一流のお客様だということなのでしょう。

いくら相手を怒鳴ったところで、服が濡れてしまったという事実が変わることはありません。もちろんCAも、そんな状況下においてできる限りの対応をすることになるはずですが、状況的に、できることとできないことがあるのも事実。そう考えると、怒鳴るだけ損になるということがわかるはず。

超一流のお客様は、決して声を荒げません。 それは声を荒げたところで何の得もない、むしろ自分のイメージを転落させ、心の平和も奪われ損するだけだということをわかっているからかもしれません。(110ページより)

たしかにそのとおりで、こうした考え方は機内のみならず、さまざまなシチュエーションについても言えるのではないでしょうか?(106ページより)

本書のなかで数多く登場する「超一流」というワードは、地位や肩書だけを指すものではないそうです。考え方や、人や物への対応、立ち居振る舞いなどを含め、「総合的に人として超一流である」という意味がそこにはあるということ。したがって本書で紹介されているような習慣を身につければ、それをさまざまな分野で活用できるということです。


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Photo: 印南敦史

Source: 青春出版社