『数学的に考える力をつける本』(深沢真太郎 著、三笠書房)は、2017年に刊行された同名書籍を文庫化したもの。
過去にも著作を取り上げたことがあるので、著者の名前をご存知の方は多いのではないかと思います。
ところで数学の本と聞くと、「難しそう」という印象をお持ちになるかもしれません。しかし、少なくとも著者の指向性はむしろ逆。
なにしろ、数学の本質は「コトバ」にあると言い切っているのですから。「数学とはコトバの学問である」、それが「数学とはなにか」に対する著者の考え方だというのです。
私はビジネス数学教育家として、数学をビジネスパーソンの人材育成に活用している教育コンサルタントです。人に数学を教えているのではなく、人を数学的にしています。
本書はそんな私が、「数学」というものをまったく新しい視点で眺め、ムダなものを削ぎ落とし、大胆に考えていくことでその本質をあぶり出したものです。どんなに数学が苦手だったビジネスパーソンや学生でも、簡単に「数学的に考える力」が身につくように整理してお伝えしています。(「はじめに」より)
でも、なぜ数学が「コトバの学問」なのでしょうか?
その理由を探るべく、Chapter 1「数学の本質は『アタマを一瞬で整理する』こと」のなかから「数学とは、コトバの使い方を学ぶ学問だった!?」に目を向けてみましょう。
主役は計算ではなく、コトバ
シンプルに考えてみた場合、「給与」とはなにを意味するでしょうか?
おそらく一般的なのは、「毎月もらうもの」「生活の糧になるもの」といった答えではないでしょうか。あるいは、「会社がしている投資」という考え方もあるかもしれません。
なんであれ、リターンを得るためには投資をする必要があります。たとえば会社は従業員に成果を求めて給与という投資をするわけで、それは給与の本質であるともいえます。
また株式投資では、成果というリターンがなければ、その銘柄を持っていても意味がないことになります。そのため、いずれは処分することになるわけです。
いずれにしても、そのように考えると、給与というものがより明確に見えてくるということ。
それを踏まえたうえで、著者は「数学とは、いったいなにをする学問でしょうか」と読者に問いかけているのです。
この問いに対する答えとして、著者が耳にした答えの多くには「計算」という表現が含まれていたそうです。
数学の授業ではかなりの時間を計算に費やしてきたわけですから、当然のことだともいえます。
では、数学の主役は本当に「計算」なのか?
この問いに対して、著者ははっきり「ノー」だと答えています。
計算という行為は、単なる「作業」。先生に教えられたルールの通りにやりさえすれば、誰でも正しい答えを導くことができるということです。
ましてやビジネスパーソンであれば、現場においてそれらはは電卓やエクセルを使うだけの機械的な作業になっているはず。
つまり数字が「計算すること」を主とする学問であるとするなら、「数学=作業」ということになってしまうのです。
しかし、本当に「数学=作業」なのでしょうか?
どれだけ数字が嫌いだった人でも、この結論には違和感を持つのではないか?
著者はそう指摘しています。
いいかえれば、数学の本質は「計算」ではないということ。そんな考え方を踏まえたうえで、著者は自らに考え方を明らかにしています。
数学とは、コトバの使い方を学ぶ学問。(25ページより)
この「コトバ」とは、一般的に認識されている「ことば」と同義だそう。もちろん、「ことばの使い方を学ぶのは国語だ」という考え方が正しいことは明らかです。
しかし著者は、数学もコトバの使い方を学ぶために勉強するものだと考えているというのです。(23ページより)
数学で使われているコトバの正体
たとえば「五角形の面積をどう求めるか」を考えた場合、「しかも」「ゆえに」というような“論理的なコトバ(論理コトバ)”で事実をつなげていくと、その手法を説明することが可能になります。
三角形の面積は「底辺×高さ÷2」で求められる。
しかも
↓
どんな五角形も、3つの三角形に分けることができる。
ゆえに
↓
それら3つの面積を合計することで、五角形の面積を求めることができる。
(27ページより)
もし学生だったとしたら、このあと実際に面積を計算して正解を求めることになるでしょう。とはいえ、その計算という行為は単なる作業。
しかし数学という学問において、計算という作業は重要なことではないと著者は主張するのです。
重要なのは計算を正確にすることではなく、その前に論理言葉を使って問題の構造を把握することだと。
つまり、「計算する」という行為は数学におけるほんの脇役にすぎないという考え方。それどころか、「なくても困らない」とすら著者はいいます。
数学≠計算する学問 数学=論理コトバを使う学問(26ページより)
これが、「数学とはコトバの使い方を学ぶ学問である」という著者の主張の根源をなすものであるわけです。(25ページより)
こうしたシンプルでわかりやすい考え方をスタートラインとして、以後も「使える数学」に関する考え方やメソッドが紹介されていきます。
数学が苦手だった人も、無理なく「数学的に考える力」が身につけられるはず。そして、それはきっと、ビジネスに大きなチャンスを与えてくれることになるでしょう。
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Photo: 印南敦史
Source: 三笠書房