「参謀」が務まるかどうか。それは、ビジネスパーソンのキャリアを大きく左右するポイント。
『参謀の思考法 トップに信頼されるプロフェッショナルの条件』(荒川詔四 著、ダイヤモンド社)の著者は、そう断言しています。
企業に勤めると、トップ以外は誰もが「部下」としての立場にたちますが、単なる「優秀な部下」にとどまるか、「参謀」として認識されるかによって、評価のされ方に大きな差が生まれます。
「部下」と「参謀」の間には、越えがたいほどの隔たりがあるのです。(「はじめに」より)
株式会社ブリヂストンにおいて、課長、部長などの役職を経て、タイ法人、ヨーロッパ法人、そして本社の社長を任されてきた人物。
そうした自身のキャリアを振り返ってみても、それぞれのポジションにおいて、信頼できる「参謀」を求めていたというのです。
もちろん、社内に「参謀」などという役職などありません。しかし、判断に迷ったり、誰かに意見を聞きたいと思ったとき頼りになる人材を、心のなかで「参謀」と位置づけていたというのです。
いいかえれば、その人物の「見識」を高く評価していたということなのでしょう。
そして重要なポイントは、著者が「参謀」と評価していた人々には共通する「思考法」があったこと。
「ものの考え方」「仕事に対する姿勢」「人との向き合い方」など、根本的な部分で同じようなスタンスに立っていたと思えるため、本書ではその「思考法」を明らかにしようと試みているわけです。
そんな本書のなかから、きょうは第2章「すべては『合目的的』に考える」内の5「上司とは異なる『自立性』を堅持する。」に注目してみたいと思います。
「仕事のスタイル」は、とことん上司に合わせる
いうまでもなく参謀は「脇役」であり、意思決定権を持つ「主役」はあくまでも上司。
つまり上司の「機能」を最大化するためにサポートをする参謀は、徹底的に目立たない「脇役」であり続けなければならないということです。
なかには自らの秘めた意図を表現するため、上司をコントロールしようと試みる人もいるかもしれません。しかし、それは参謀のあるべき姿ではないと著者はいいます。
なぜなら上司が実現しようとしている目的を深く理解し、それに忠実に行動するのが参謀のあるべき姿だから。
組織を率いる「旗」を掲げることができるのは、上司だけだということです。
したがって、仕事のスタイルも上司に合わせるのが当然。たとえば上司がせっかちなタイプなのだとすれば、対面でのコミュニケーションも最短距離で終わらせるべき。
また、資料も要点だけに絞った簡潔なものにする必要があります。
逆にじっくりとコミュニケーションを取ることを好むリーダーであるなら、それに見合った対応をしなければならないでしょう。
上司が「主」であり、参謀は「従」であるという位置づけを厳守しなければ、両者の関係性を維持することは困難だということです。
同じく意思決定に必要な「情報」も、上司のタイプによって異なるもの。
論理性を重視する上司に対しては、詳細にわたるデータを用意する必要があるでしょうし、社内の融和を重視する上司には、現場の情報を生々しく伝えられるように準備することが求められるのです。
このように、上司の個性に合わせた「さじ加減」ができなければ「情報が足りない」と判断されることに。その結果、上司が即断即決するのを阻害することになってしまいます。
そのため、上司という「機関」を機能させるためには、上司の“作法”に合わせることが合理的であるという考え方なのです。(73ページより)
「なにが正しいのか」を自分の頭で考える
とはいえ、だからといって参謀が「自律性」を放棄していいというわけではありません。
それどころか、「自律性」を失った参謀は、その一点だけで「参謀失格」といわなければならないとすら著者は主張しています。
なぜなら、完全な上司などこの世に存在しないから。
参謀の最重要任務は、上司の不完全性を補うこと。だとすれば参謀が、上司とは独立した思考力・判断力を備えた「自律した存在」でならなければいけないのは自明のことです。
これは、秘書課長時代に、私が社長に求められたことの「本質」でもあります。 社長は、「お前はおとなしそうに見えるが、上席の者に対して、事実を曲げずにストレートにものを言う。
俺が期待しているのはそこだ」と言いましたが、その含意(がんい)は、「お前の自律性に期待している」と言うことだったのだと、いまは考えているのです。(75ページより)
事実、大きな契約に際して社長が下した判断に対し、「それは間違っている」と思ったため、著者が静かに反対意見を述べたことも過去にはあったのだそうです。
その際、引き下がらない社長の迫力に圧倒されそうになったものの、アイデアを提示することによって納得してもらえたのだとか。
その結果、契約締結は無事に承認され、プロジェクトを着々と進められることになったというのです。
あのとき、私は「参謀」の役割から逃げることもできました。「お前に言われなくても、そんなことはわかっている。それを踏まえたうえで何とかならないかと言ってるんだ」と一喝されたときに、私は、こう言うこともできました。 「なるほど、そこまで考えたうえでのご決断でしたか。承知いたしました。ご指示のとおり準備を進めます」と。 そして、もしもその後、社内規定違反を指摘されたとしても、私は、こう言い逃れができたはずです。
「一度は社長の判断に『異』を唱えました。それでも、社長からの強い指示が出たから、従わざるをえませんでした」
しかし、それは「部下」としては言い分が立つかもしれませんが、「参謀」としては完全に失格。(80〜81ページより)
つまり、社長を「守る」べき立場にある参謀が、社長が危機にさらされたときに「逃げを打つ」などということは、あってはならないということ。
著者はそう訴えているのです。
たとえばここにも、社内における参謀の存在価値が表れているといえるのではないでしょうか?
著者も認めているとおり、ブリヂストンという会社に身を置いて40数年にわたってグローバル・ビジネスの最前線で戦ってきた著者の経験を踏まえた本書は、「参謀の思考法」を身につけるために大きな役割を果たしてくれるはず。
参考にする価値は大いにあると感じます。
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Photo: 印南敦史
Source: ダイヤモンド社