『世界のエリートは「自分のことば」で人を動かす』(リップシャッツ信元夏代 著、フォレスト出版)の著者は、マッキンゼーの戦略コンサルタントを経験してきたという実績も、持つニューヨーク在住の事業戦略コンサルタント、認定スピーチコーチ、プロフェッショナルスピーカー。
以前、『20字に削ぎ落とせ ワンビッグメッセージで相手を動かす』(朝日新聞出版)をご紹介したこともありましたが、今回のテーマは「ストーリー」。ストーリーで語ることは、マーケティング戦略に不可欠だというのです。
ストーリーで語るとは、何も荒唐無稽で、ドラマチックなフィクションを語ることではありません。 その人が体験した事実に基づくものなのです。
あなたの体験に裏打ちされた、あなたの心奥深くにある、あなただけのストーリーです。 だからこそ、聞いた人を動かすことができるのです。 (「はじめに」より)
多くのビジネスパーソンは、自分の体験などを他人にシェアすることはあまりないかもしれません。しかし、そこにこそストーリーの鉱脈があるのだと著者は主張するのです。
どんな人のなかにもある、「経験」「苦労」「気づき」などのパーソナルな体験こそ、人の心を動かすということ。
でも、「自分らしさ」を見つけることはなかなか難しそうです。
そこできょうは、普段から心がけるべき「自分のことばで人を動かすリーダーになるためのマインド」を解説した第6章「リーダーは『自分のことば』で人を動かす」に焦点を当ててみたいと思います。
「理想のリーダー」のマネをしない
人は多くの場合、「ロールモデルとなる人」「尊敬する人」「理想とする人」を目標にしていくもの。もちろんそれ自体は悪いことではなく、学ぶことも少なくないでしょう。
しかし、だからといって“彼らそのもの”にはなれないということも事実。当然ながらまわりの人たちも、「誰かのマネをしているリーダー」についていきたいとは思わないはずです。
ところで、著者がスピーチ・プレゼンの個人コーチングや戦略コンサルティングを通じて出会う素晴らしいリーダーには、共通する部分があるのだそうです。
それは、謙虚で、学びを忘れず、自分をさらけ出すことを恐れないということ。
カッコつけたり、よく見せたりする必要はなし。むしろ生々しい失敗談、苦労したこと、うまくいかなかったことからの学びの方が、よほど聞き手の心を動かすわけです。
自分をさらけ出して、自分らしさを発揮してこそ、自分だけのリーダーシップスタイルが見つかります。
自分の経験を振り返り、心のなかを見つめ、何を思い、どう感じ何を学んだのかを改めて客観的に熟考すること。(240ページより)
著者はここで、「反省」と「内省」との違いに触れています。
「反省」とは、過去に起こった自分の間違いを振り返るという、いわばネガティブ視点を起点としたフィードバック。
一方、「内省」とは自分自身と向き合い、自分の考えや言動を振り返り、気づきを得ることで今後につなげるポジティブ視点の解決策。
自らの決定や行動、知識を省みる能力があることが、人や会社を成功に導くということです。
できるリーダーとは「利益相反のバランスを保つ一方で『正しい』決断を迅速に躊躇なく下せるリーダー」です。
内省ができるリーダーは、トップリーダーになり得るのです。(240ページより)
また、デリバリー(話し方)においても、自分らしいスタイルを探すことが重要。
そこで自分の話す姿を録画し、次の3とおりの方法で見ながら、自分の姿を客観的に分析してみるべきだと著者は言います。(238ページより)
自分らしいスタイルを発見する① そのまま見る
これこそ聞き手が見ている、スピーカーとしての自分の姿そのもの。
ちなみに「スピーチの練習は鏡に向かってやる」という方もいますが、表情の確認などをするのでない限り、著者はそれをお勧めしないそうです。
なぜなら、あくまで聞き手視点に立って、「聞き手から見て自分がどう映っているのか」という、ありのままの姿を認識する必要があるから。
実際のスピーチでは鏡に向かって話さないのですから、当然といえば当然の話です。(242ページより)
自分らしいスタイルを発見する② 音声を消して見る
動きに集中して見てみると、ボディランゲージの癖がわかるもの。
たとえば緊張しているため無駄にウロウロと歩いているかもしれませんし、同じ手の動きを繰り返しているかもしれないわけです。
あるいは、ずっと定位置を動かなかったり、表情がまったく変わらなかったりするために物理的なコントラストがなく、見ていてつまらないかもしれません。
音声を消して確認してみれば、普段なら気づけないそうした癖に気づけるということです。(242ページより)
自分らしいスタイルを発見する③ 音声だけを聞く
音声だけを聞いてみると、いろいろなことに気づくはず。
たとえば「えー」「そのー」を繰り返していて耳障りに感じるかもしれませんし、声に抑揚がなく、眠くなりそうな話し方だったり、早口になっていたりすることもあり得ます。
せっかくのストーリーなのに、感情が伝わらない無機質な話し方になっているかもしれないということ。
しかし音声だけを確認してみれば、そうしたことを把握しやすくなるのです。(242ページより)
このような3とおりの方法によって録画を確認しながら、気づかなかった癖をなおすことが大切。
また、自分をエネルギッシュに見せたいのか、知的に見せたいのかなど、自分が打ち出したい「自分ブランド」の方向にデリバリーを寄せていくといいそうです。
ただし虚像としての自分を演出するのではなく、あくまで自分らしさを強調していくことが大切。
自分の特徴的な強みをよりボリュームアップしていくことで、自分らしい話し方のスタイルを確立することができるという考え方です。(242ページより)
ストーリーの構築法も具体的に解説されているだけに、本書を活用すれば「人を動かす戦略的ストーリー術」をマスターできるはず。
自分にしかない「自信」と「存在感」を身につけたいなら、参考にしてみる価値はありそうです。
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Photo: 印南敦史
Source: フォレスト出版