書店には、心理学に関する数多くの書籍が並んでいます。
しかし『メンタリズム 最強の講義 メンタリストがあなたの心理を操れる理由』(ロミオ・ロドリゲスJr. 著、日本実業出版社)の著者は、自身の著作のタイトルには必ず「心理術」という名前をつけているのだそうです。
なぜなら、心理「学」と「術」との間には大きな隔たりがあると考えているから。
だとすれば、著者が重視する心理「術」とはなんなのでしょうか?
心理学とは、なにが違うのでしょうか?
心理「術」とはエビデンスを基にした実際に対人レベルで使用できる技術(テクニック)のことです。心理学が学問とすれば、心理術は技術ということです。
つまり、エビデンスを基に対人レベルにまで突き詰めた技術であり、心理学の細部ということになります。(「はじめに 机上の理論では人の心は動かせないーー心理学と心理術の違い」より)
香港大学で教鞭をとるメンタリストである著者は、心理学というものは、そうしたレベルにまで落ちそこむことによって初めて意味をなすものだと確信しているのだといいます。
簡単なことで、学問そのままでは人の心は読めず、操れないから。
そのことを理解したうえで心理術を使いこなすのと、そうでないのとでは、心理術を会得する度合いに大きな差があるということです。
心理術を会得するには、どのような経験を積むかが大切。
そして、その積み重ねの結果が心理「術」なのだそうです。
しかし、そもそもメンタリズムとは、メンタリストとはなんなのでしょうか?
基本的なことを確認するために、Lecture 1「メンタリストがあなたの『心理』を操れる理由 ―メンタリズムの心得と作法―」内の「メンタリズムとは一体どういう存在なのか」に目を向けてみたいと思います。
メンタリストにできることとは
著者がプロのメンタリストになってから、今年で18年目だそう。
つまり日本で「メンタリズム」や「メンタリスト」が知られていなかった時代から、いち早く活動していたわけです。
その後、海外ドラマ『メンタリスト』が流行ったため、日本のメディアでもメンタリズムが注目されるようになりました。
とはいっても、その捉え方はいまなお千差万別。それは、情報を正確に知る手立てがないからだといいます。
したがって、もしメンタリズムを学ぶのであれば、まずは「メンタリストとはなにか」をしっかり知り、基礎を固めるべきだと著者は主張しています。
著者によれば、現在の心理学や心理術は不透明で、ましてや万人に効果がるわけでもなく、全員に通用するわけでもないもの。
一方メンタリストは、相手が心に浮かべた数字を的中させたり、相手がいまから選ぶものが事前にわかっていたりと、誰にでも見える形でパフォーマンスすることが可能。
不透明性がなくはっきり理解できるため、魅力的に見られるわけです。
もちろんそれは、トリックを使うからこそ可能となるもの。しかし、さらにそこでトリックではない「心理術」を使うのがメンタリストなのだといいます。
だから、見る人からは本当に心理術だけを使っているように見えるのだということ。(16ページより)
メンタリズムにおいて成果を高めるには
一般的な心理学者は心理技術について、あくまでも「学問」としての解説にとどまるもの。
しかしメンタリストは「目に見える形の心理術」として見せることができるため、一気に関心を引くことができるのだと著者はいいます。
学問だけでは興味を持たない人でも、目に見える形になれば、その心理術を信用するようになるわけで、それがメンタリストの強みだということ。
たとえば著者は、次のように説明しているそうです。
「ゴルフにたとえるなら、いわゆるメンタリズムにおいて、心理術はどれだけピンに寄せて打てるかの技術であり、トリックはホールインワンをする技術です。どんなプロゴルファーでも毎回ホールインワンは打てません。毎回ホールインワンをするために何か工夫をしなければならないのです。
メンタリストはパフォーマンスをするとき、失敗は許されません。だからピンに寄せる技術があっても、トリックを使うのです。この工夫の部分がトリックの部分であるわけです」(19ページより)
つまりは、心理術を使用したあとに起きる現象を、目に見える形として確実にパフォーマンスできるのがメンタリストだということのようです。(18ページより)
メンタリズムを的確に表したことば
世界の代表的なメンタリストのなかで、近代メンタリズムをつくったのは、アメリカの奇術師・メンタリストであるセオドア・アンネマンだそうです。
1907年生まれのアンネマンは、当時、超能力に近い現象(透視・予知など)を起こす奇術「メンタルマジック」の分野で活躍し、近代のメンタリズムの礎を築いた人物。
現代と違って、当時は読心術などの心理カテゴリーよりも、超能力のカテゴリーのほうが人気だったのだとか。
日本でもおなじみのスプーン曲げも、この当時からあったそうです。
しかし数々のメンタリズムを開発してきたアンネマンは、34歳だった1942年、ショーの直前に自殺してしまいます。
当時は偽霊能力者や偽超能力者の秘密を暴いていたこともあり、自殺と見せかけた殺人ではないのかと噂されたことも。
ちなみに、そんなアンネマンは次のようなことばを残しているといいます。
「メンタリズムは、効果が第一(Effect is everything)。方法はその次」(23ページより)
つまり現代に当てはめてみた場合、メディアで演じられているメンタリズムは「トリックなのかどうかが問題ではない。いかに人々の目に見える形として表現できるのかが重要である」と主張しているわけです。(22ページより)
トリックが存在し、その大元に「本物の心理術」が存在するからこそ、メンタリズムは本物の読心術に見え、相手の心を誘導できるのだと著者は記しています。
そして、そんな“基本”を踏まえたうえで、本書だはさまざまな心理術を紹介しているわけです。
相手を見極めたり、相手に気持ちよく動いてもらえるようになるために、参考にしてみるといいかもしれません。
あわせて読みたい
Photo: 印南敦史
Source: 日本実業出版社