仕事で成功するために必要なのは、「社内および社外の人たちと適切なコミュニケーションをとる能力」だと主張しているのは、『日本一敵が少ない弁護士が教える 7タイプ別交渉術』(谷原 誠 著、秀和システム)の著者。
企業法務、事業再生、交通事故、不動産問題などの案件・事件を、質問力・交渉力・議論力を生かしながら解決に導いているという弁護士です。
そのコミュニケーション能力のうち、もっとも重要なものの1つに「他人に影響を与え、他人を説得し、イエスと言ってもらう」能力があります。
一般には、リーダーシップ、説得力、交渉力などと言うことがあります。 本書では、これらのコミュニケーションを扱います。(「はじめに」より)
交渉術に関する書籍は少なくありませんが、その大半は交渉のテクニックに重点を置いているもの。
もちろん交渉テクニックも欠かせないとはいえ、「相手を読み切る」がさらに重要なのだと著者はいいます。
交渉や説得の目的は、相手に「イエス」と言ってもらうこと。つまり、どうすれば相手が「イエス」と言うのかを読み、それに合わせてテクニックを使ったり、提案をしたりすることが重要になってくるわけです。
そのため本書では、著者の交渉・説得経験に基づき、交渉や説得の方法をわかりやすく解説しているのです。
しかし実際のところ、交渉や説得をしようとしても「口ベタだから」「気が弱いから」というコンプレックスに邪魔されてしまうかたも少なくはないはず。
そこで、きょうは第2章「口ベタ・気弱な人だからこそ納得してもらえる」に焦点を当ててみることにしましょう。
強引な人より気弱な人のほうがいい
「自分は交渉が苦手だ」と考えている人がその理由として挙げるのは、「口ベタだから」「自分は気が弱いもので」「相手に強く言えない」というようなことだとか。
たしかに「交渉がうまい人」には、軽快にペラペラと話し、強気で自分の意見を主張して、相手を圧倒するというようなイメージがあるものです。
一方、口ベタな人や気弱な人は、セールスマンのトークに押し切られてつい品物を買ってしまったり、交渉でもほとんど発言できず、相手の要求どおりの内容で合意させられてしまったりするものかもしれません。
では、口ベタな人や気弱な人が交渉上手になるためには、そのような自分を捨て、饒舌で強気な人にならなければいけないのでしょうか?
この問いに対して、著者は「必ずしもそうではない」という考え方を明らかにしています。
相手の事情に配慮せず、とにかく強気で押す交渉は、相手から反感をもたれて、交渉が決裂しやすいという欠点があります。
また、相手が条件をのんでくれたとしてもイヤイヤであり、悪感情を持たれることも多いでしょう。(73ページより)
一度きりの交渉であれば、まだいいかもしれません。
しかし継続的な取引関係や家庭内など、今後もつきあっていく間柄の場合だと、強気の交渉が信頼関係を悪化させてしまうことも考えられます。
だからこそ、相手の事情にも配慮し、納得を得た上で合意形成をしていくことを目指すべき。
そのためには、弱気であっても口ベタであったも、まったく問題はないわけです。(72ページより)
「しゃべりすぎ」は失敗のもと
「口達者」であることも、交渉では考えものだと著者はいいます。理由は簡単で、「しゃべりすぎ」が失敗の原因になることがあるから。
普段から自分の思っていることをよくしゃべる人は、その場で言う必要もないにもかかわらず、自分に不利になることをつい口に出してしまうことがあるというのです。
しかし、それでは結果的に、交渉は悪い方向に進んでしまうことになるでしょう。
ある企業の営業担当者が、新規取引獲得に向けて相手会社と交渉をしているとします。その担当者は口達者で、冗談などを交えながらよくしゃべり、交渉はおおむね穏やかに進んでいます。
何度か交渉をし、条件に関する話間も詰め、相手会社も合意する姿勢を見せ始め、契約締結は目の前という状態。
そんなとき、安心して上機嫌になった営業担当者が次のようにポロッと発言したとしたら…?
「いやぁ、ほんとよかったです。じつは私、先月、営業部に配属されたばかりで、全然契約が取れてなかったんですよ。どうしても今月中に1件は取らなきゃとあせっていたところなので、ほんとありがたいです」(75ページより)
これを聞いた相手は、“営業に慣れていない”“どうしても契約を取りたがっている”“期限があるらしい”という事実を知ることになります。
しかし話し合いが進んでいるとはいえ、この時点でまだ契約は締結していないわけです。
したがって相手は、「期限ギリギリまで引き延ばし、もっと有利な条件を引き出そう」と考えるはず。
余計なことを話してしまったため、自分に不利な情報までを相手に与えた結果、交渉が不利になっていくというケースです。
セールスでの例をもうひとつ。ある営業担当者が、客に流暢に商品の説明をしたあとにこう聞きました。
営「これらの機能がついて、この金額は本当にお買い得です。気に入っていただけましたでしょうか?」
客「……」
営「どこか気になるところがございましたか?」
客「……」
営「やはりお値段でしょうか? そうですね、お値引きさせていただいて、○○円ではいかがでしょう?」
客「……」
営「う、わかりました! 送料と設置費用もサービスします」
(76~77ページより)
この担当者が勝手位に値引きを始めてしまったのは、客が黙ってしまったため不安になり、「気に入らないところを補うためにしゃべらないと!」と焦ってしまったから。
しかし客は最初に金額で納得していて、「この商品を買ったら、どこに置こうかな?」などと考えていたから黙っていたのかもしれません。
このように、交渉する際には「とにかくしゃべって自分の考えをわかってもらおう」と考える人が多いといいますが、しゃべりすぎには注意が必要。
かえって自分に不利な情報を与えてしまったり、相手がせっかく考えてくれているのに、その思考を妨害したりという弊害もあるからです。
ちなみに著者はそういう場合、沈黙が長く続いたとしても気にせず黙っているそうです。
すると相手は熟考した末に、「では、お願いします」と依頼してくれることが多いというのです。
やはり、必ずしも交渉や説得が得意である必要はなさそうです。
以後の章では交渉時に表れる相手のタイプを「①損得タイプ、②成功追求タイプ、③快楽追求タイプ、④平和主義タイプ、⑤ロジカルタイプ、⑥勝敗タイプ、⑦人助けタイプ」の7つに分類し、それぞれの特徴や有効な説得方法などを紹介しています。
表現も平易なので、交渉・説得のコツを効果的に身につけることができそうです。
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Photo: 印南敦史
Source: 秀和システム