『子どもの学力が劇的に伸びていく! 1年生になったら紙の辞書を与えなさい』(深谷圭助 著、大和書房)の著者は、中部大学現代教育学部教授。
公立小学校教諭時代に考案した「辞書引き学習法」が、画期的な学習法として話題となったのだそうです。
ちなみに1994年には、「辞書引き学習」を開発したのだとか。
辞書引き学習は、1990年代、Windows95が発売される前に生み出されたインターネット時代前夜の学習法です。
当時、小学生に調べさせる際、国語辞典が最も身近で、様々な事柄を調べられる教材であることに目を付けた私は国語以外の教科でも盛んに調べさせていたことから始まりました。(「はじめに」より)
最初は、調べた履歴を残すために「付せん」を貼らせていたのだそう。
その後、子どもたちの発案で、調べたところだけではなく「辞書を読んだとき、“出会ったことば”」にも付せんをつけてみることに。
その結果、子どもたちが意欲的に辞書を読み、辞書のなかから「自分の内側にあることば」を見出すようになったのだといいます。
それが“自分のことば”と向き合うきっかけになり、「知っているようで知らなかったことば」が、辞書のなかからどんどん見つかるようになったというのです。
紙の辞書を読み、その中から見出す自分の内なる言葉が、「知っているつもりだった言葉」であることが明らかになり、当たり前のような言葉でもきちんと確かめておくことで、新たな気づきが得られる。
新たな発見があることに対して、ワクワクする子どもに育つのです。(「はじめに」より)
そこで本書では、子どもの教育になぜ紙の辞書がよいのかを、わかりやすく解説しているわけです。
第1章「だから紙の辞書を使いたい」のなかから、紙の辞書の魅力を探ってみることにしましょう。
スタートラインは「それを知っている」
これまで私たちは、「辞書は、わからないことばの意味や使い方を調べるためのもの」と思い込まされてきたと著者は指摘しています。
それは、過去の辞書指導が「紙の辞書の構造」や「紙の辞書におけることばの並び方」についての指導にとどまっていたからなのだと。
しかし実際には、「わからないことば」と出会う機会はそれほど多いものではありません。現実問題として、引くチャンスがあまりないということ。
でも、それではいけないわけです。重要なのは、とにかく、たくさん辞書を引く経験をさせること。
そのためには、「わからないことばを引く」という固定観念から脱却しなければならないというのです。
私は、辞書の教材としての役割は、単に辞書でわからない意味の言葉を調べたりするのではなく、言葉に興味を持つ教材として、言葉を効果的に身に付け、言葉を活用する力を育てる教材として捉えなおすことが必要だと考えています。
子どもに言葉に対する興味を持たせ、言葉の力をつけることは、大切なことであり、言葉の力を付けることは、思考力、コミュニケーション能力を育てることに直結するのです。(47ページより)
では、なぜ辞書を「わからないことばの意味を調べるため」だけに使ってはいけないのでしょうか?
それは、私たちにとって「知っているつもりになっていることば」が「最も知るべきことば」だから。
「知ってるつもり」に気づくことが、追求心・探究心につながっていくということです。
しかも、「まったく知らないことば」というものは、子どもの興味を引かないのだそうです。まったく知らないものには、関心を持ちにくいということ。
まったく知らないことばを調べたいという気持ちを持たせるためには、相当な動機づけが必要。
一方、明らかに知っていることばであれば、喜んで「知っている」と答えるはず。
そこで、「それを知っている」から追求、探究をスタートさせてみてはどうかと著者は提案しています。(46ページより)
「すでに知っていること」を疑う
多くの場合、「知っている」子どもは元気よく手を挙げて発言しようとするものです。授業に、積極的にかかわろうとするわけです。
しかし、知らなかったとすれば挙手はしませんし、学習に対して積極的にはなれないでしょう。
つまり学校で学ぶ子どもたちにとって、わからないことは「恥ずかしいこと」であり、授業においては「わかっている子ども」が活躍できるようになっているわけです。
だから、知らないことばがたくさんあって、たくさん調べなければならないということに対し、子どもたちも教師も積極的になりにくいということ。
もしも「すでに知っていることば」を学んでも仕方がないと思っているのであれば、それは間違いだと著者はいいます。
なぜなら、「すでに知っていること」を疑うことから、学びは始まるものだから。(48ページより)
辞書引き学習で「自己肯定感」が生まれる
知っているという事実は、自己肯定感につながります。学ぶことに自信を持てない子どもには、既に知っている言葉は多いのだということを教えることが必要です。
そのために「辞書引き学習」に取り組ませ、「知っている言葉」に沢山触れさせるのです。(49ページより)
「知っていることば」がどれだけあるのかということについては、大人にも子どもにも知る術はありません。
少なくとも、なにもしないのであれば。
しかし、辞書を順に読んで、「知っている」と判断できる見出し語を見つけ出し、付せんに書いて辞書に貼りつけることを繰り返していくことで、予想以上の効果が期待できるもの。
たったそれだけの活動で、「自分ってなかなか大したものだ」と思えるようになるというのです。
つまり、そんな気持ちが自己肯定感につながっていくということ。
そしてその自己肯定感は、学習に対して前向きになれない子どもに効果的に働き、主体的な学習態度を育てる大きな力となるそうです。(49ページより)
「知ってるつもり」を揺さぶる
「子どもの自己肯定感を高める」だけでなく、辞書引き学習にはもうひとつのメリットがあるそうです。
「知っていると思っていたことばについて、実は十分に知っていたわけではない」ということにだんだん気づくこと。それが重要だというのです。
知っていると思っていれば、子どもは積極的にそのことを示そうとします。
そこから、自分が知っていると思っていたものでも、必ずしも十分な理解ではないということに気づくことで、子どもは、主体的に学んでいくきっかけをつかむのです。(51ページより)
「辞書を読んだり引いたりすると、なにかいいことがある」と言う経験をたくさん積んでいけば、その作業が好きになるわけです。(50ページより)
以後の章では、辞書引きを子どもの生活に取り入れる方法などが具体的に解説されていきます。
新型コロナの影響で学校が休校となり、子どもにより自主的な学びが必要となっている時期だからこそ、辞書引きの習慣を身につけさせるのもいいのではないでしょうか?
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Photo: 印南敦史
Source: 大和書房