英語の学習法に関する書籍は数あれど、『脳が忘れない 英語の「超」勉強法』(瀧 靖之 著、青春出版社)はちょっと変わったタイプだと言えるかもしれません。
なぜなら著者は16万人の脳画像を見てきたという医学博士であり、ここでは脳医学の知識をベースにした英語の勉強法を解説しているからです。
といっても、難しい理論が展開されているわけではありません。それどころか、特に大事なことは次の2つだというのですから非常に明快です。
1. 英語に親しみや好奇心を持つこと
2. 脳のしくみや働きに合った勉強をすること
(「はじめに」より)
1.は、英語を身につけたいのなら、まずは楽しい気持ちで学ぶことが大切だという考え方。
もしも好きな趣味だったとしたら、意識せずともどんどん頭に入ってくるはず。つまりは同じように、英語も趣味のように学んでしまえばいいということです。
次に2.は、脳のしくみや働きを知って利用することも重要だということ。特に大きな意味を持つのは、脳の「相手の真似をしたがる性質」を活用することなのだそうです。
簡単なことで、そうすれば、効率よく英語を身につけることができるわけです。
ところで著者は、大人が効率よく英語を習得するためには次の順序で学んでいくことが適切だと主張しています。
① 聴く力をつける(リスニング)
② 話す力をつける(スピーキング)
③ 読む力をつける(リーディング)
④ 書く力をつける(ライティング)
+単語力 (69ページより)
理由は2つ。まず1つは、ネイティブの子どもがことばを身につけていく過程をたどることが、ものごとの習得過程として自然だから。
もうひとつは、英語をコミュニケーションの手段として考えるときには、相手と意思を疎通させることが重要だから。
するとおのずから、聴く力と話す力が大事だということになります。だからこそ、2つの力を身につけるため、まずはリスニングとスピーキングに取り組むべきだということです。
ここでは、「聴く力をつける(リスニング)」に焦点を当ててみることにしましょう。
手はじめに好きな音楽から入る
学生時代に英語学習が苦痛だったという人には、明確な理由があるのだと著者は言います。
それは、なぜ英語を学ばなければならないのかわからないまま、ただ授業の1科目として学んでいたから。つまり、「やらされ感」があったということです。
大人の英語習得は、その「やらされ感」を排除して、自分から楽しく学べるようにすることが大切。そのためには、学んで楽しい素材を自分で選ぶのが第一です。(73ページより)
趣味や楽しみから入れば、苦痛を感じるなどということはなくなるわけです。そして入門としていちばん入りやすい方法として著者が勧めているのは、自分の好きな英語の曲を聴くこと。
英語学習が苦手だった人でも、ひとつやふたつは好きな英語の曲があるはず。それを活用しようという発想です。
大人の英語学習の第一歩は、好きな曲を聴いて、真似して歌い、歌詞を覚えることだということ。
メロディやリズムがついているので、単に英文を聴いたり読んだりするのとは違い、自然と覚えることができるといいます。
もちろん、ジャンルはジャズでもハードロックでもOK(ラップは難しいかもしれませんが)。自分の好きな曲を、CDやYouTubeなどで改めて聴いてみればいいわけです。
なお歌詞カードが手元になかったとしても、いまはインターネットで検索すれば簡単に探すことができます。(73ページより)
映画で視覚と聴覚の双方からインプット
また、音楽よりもさらに効果的なのが映画。映画なら聴覚だけでなく、視覚にも訴えかけてくるため、強く脳に刻み込まれることが期待できるからです。
日本語字幕つきならば、英語を聞きながら意味を理解することができますから、教材として最適。
少なくとも、単語力がないうちから字幕なしの映画を見るのは効率的ではないと著者は主張しています。
たしかに、英語のリズムに慣れることはできるかもしれません。しかし、なにを話しているのかがわからないと、学習効果が高いとは言い難いわけです。
そして慣れてきたら、英語の字幕つきを観るのもひとつの手段。英語と日本語の字幕が両方ついていれば理想的だといいます。
字幕を追い続けることになるかもしれませんが、なにより“学習”なのですから。
映画で英語を覚える大きなメリットの一つは、単語や表現が、映画のシーンとともに記憶として脳にインプットされやすくなる点にあります。
どのような状況や立場で、どのように使われたのかが、そのシーンとともに強く印象に残るためです。(75ページより)
たとえば英語で「もちろん」と言いたいとき、ほとんどの日本人の頭に浮かぶのは「Of course.」ではないでしょうか。
ところが映画を観ていると、むしろ「Sure.」や「Certainly.」という言い方が多いことに気づくはず。
同じく人に誘われたときには、「もちろん、断るわけがありませんよ」という意味で「Why not?」と言い、願い事や頼みごとを受けるときには「もちろん、問題ない」という意味で「No problem!」という言い方も。
辞書や教材を見る限りでは、どれにも「もちろん」という訳語がついているため、どの表現をどんな場面で使ってよいのかの判断は難しいものです。
しかし英語のシーンとともに覚えれば、「こういうときに“Sure.”と言えばいいんだな」「こんなとき“Why not?”と返事をするのはスマートだな」というようなことを感覚的に理解できるということです。
小さな体験を積み重ねていくことによって英語が身につくなら、それほど楽しいことはありません。
そう考えると、著者の考え方には共感できるのではないでしょうか?(75ページより)
いたってシンプルでキャッチーなアプローチが貫かれているからこそ、本書を利用すればストレスを感じることなく英語を習得することができそうです。
大切なのは、楽しむこと。ぜひ一度、手にとってみてはいかがでしょうか?
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Photo: 印南敦史
Source: 青春出版社