少ない言葉+ていねい+正しそうでOK! 伝わるスイッチ』(深沢真太郎著、大和書房)の著者は、国内唯一の「ビジネス数学エグゼクティブインストラクター」として、「ビジネス数学」の関する多くの書籍を送り出してきた人物。

講師を担当している研修や講演には、これまで延べ7000名以上のビジネスパーソンが参加しているのだそうです。しかも新規クライアントからのリピート率はいまも100%だというのですから驚き。

しかしその理由は、次の1行に凝縮されるのだといいます。

わかりやすく、納得感あるように伝える技術(「はじめに」より)

事実、「伝え方」のプロフェッショナルではないものの、「わかりやすかった」「納得できた」「やってみようと思えた」「ていねいだった」といった、伝え方に関する評価が高いというのです。

そこで本書では、著者自身がいまも現場で実践している「伝える技術」について、考え方や意識、具体的な言い回しまでを解説しているわけです。

そんな著者は、伝え方にはスイッチがあると主張しています。いつもは「OFF」でいいけれど、大事な「勝負どころ」では「ON」の状態にすることが大切だということ。

そして重要なのは、その切り替えが臨機応変にでき、「ON」の状態の質が高いこと。結果的にそれが、仕事の成果に直結するという考え方です。

でも、伝え方のスイッチを「ON」にするとは、具体的にどういうことなのでしょうか?

大切なのは相手に「理解」と「納得」を与えることであり、そのために気をつけるべきことは3つしかないのだといいます。

「少ない言葉」「ていねい」「正しそう」(「はじめに」より)

著者自身、なにかを伝えようというときには本当にこの3つしか考えていないというのです。「伝わるスイッチ 理論編」のなかから、基本的なポイントを抜き出してみることにしましょう。

勝負どころの伝え方=「わかりやすい」×「なるほど」

ビジネスパーソンにとっての「勝負どころ」といえば、すぐに思いつくのは次のようなことではないでしょうか。

☆上司に報告・連絡・相談をするとき

☆お客様に対してプレゼンテーションをするとき

☆転職活動において社長面接を受けているとき

(22 ページより)

そして、このようなシーンにおいて伝える側に共通する目的は、次の2つだと著者は言います。

・まずは主張を「理解」してもらうこと

・さらに主張に「納得」してもらうこと

(23ページより)

理解とは、理屈で解釈すること。身近な表現に置き換えるとすれば、“わかる”となるわけです。一方の納得とは、その内容を受け入れること。身近な表現では“腹落ち”ということになるでしょう。

ごく普通のビジネスコミュニケーションにおいても、まず必要なのは、相手がこちらの伝えている内容を“わかる”こと。しかし、それだけではなかなか物事はうまく進まないものでもあります。なぜなら、こちらが伝えることに“腹落ち”してもらうべきだから。

たとえば「伝えようとしていることは、まぁわかるけど…」といわれた経験は誰にでもあると思いますが、それは、「言っていることは理解したけれど、納得はできていない」ということにほかなりません。だとすれば「OK」は出せないわけです。

そして、こちらの主張が相手に受け入れてもらえないケースには2種類あるといいます。

・そもそも、あなたの言っていることがよくわからないから

・言っていることはわかるけど、その内容に納得感がないから

(24ページより)

つまり「勝負どころ」でなにかを伝える際には、理解してもらい、かつ納得してもらう必要があるということです。そして当然のことながら、その順序は一般的にまず理解、次に納得。

実際、著者はビジネスパーソンの研修などを設計する際、そして多くの人の前で話すとき、この2つを強烈に意識して仕事をしているのだといいます。

まずは主張を理解してもらい、次に納得してもらう。伝え方のスイッチを「ON」にするとは、この2つの目的を達成するためのコミュニケーションに切り替えることだというわけです。

さらに大切なのは、この2つの概念を掛け算で考えること。いずれかがゼロなら、結論もゼロ。どんなに商品が素晴らしくても、お客様がゼロなら売上はゼロ。それと同じことだというのです。

勝負どころの伝え方=「わかりやすい」×「なるほど」 (25ページより)

この公式は、頭に入れておいたほうがよさそうです。(22ページより)

「わかりやすい」と「なるほど」の正体

では、「わかりやすい」とはどういうことなのでしょうか? この問いに対する答えを言語化すると、次のようになるそうです。

わかりやすい内容=聞き手が他の人にそのまま説明し、まったく同じように伝わる内容(27ページより)

たとえば、上司から仕事の指示をもらったとします。さて、「わかりやすい指示」と「わかりにくい指示」の違いはなんでしょうか? 

著者によれば前者は、指示を受けた自分が、その内容を部下や後輩に正確に説明できること。後者はそれができないこと。よくいわれる「報告・連絡・相談」と呼ばれるものは、こうでなければならないわけです。

次に「なるほど」とはなにかという問題の結論は、

なるほどと思える内容=聞き手が自分自身で論理展開できる内容(28ページより)

例を挙げましょう。同僚の山田くんが体調不良で会社を休んだとします。別の同僚である佐藤さんが、「山田くんは最近とても忙しそうだったし、無理していたのかもね…」とつぶやきます。

そこでこちらも、山田くんが会社を休んだことに「なるほど」と納得してしまいます。そのとき、なぜ「なるほど」と思えたのかといえば、自分のなかで、しっくりくる論理展開がつくれたから。

山田くんは忙しかった

だから無理をした

だから体調不良

(28ページより)

こういうとき、人は「なるほど」と思うということ。その証拠に、自分が最近「なるほど」と感じたことを思い出してみれば、必ず自分のなかで論理展開がつくれていることに気づくはずだといいます。(26ページより)

少ない言葉で、ていねいさを表現する

言葉の数は少ないほうがいいと著者はいいます。たしかに、能書きやスピーチを長々と聞かされるのはつらいものです。

ビジネスパーソンはとてもわがままです。とにかく忙しい。面倒くさいことはしたくない。でも成果は残したい。だから自分にメリットのあることだけしたい。そう考えています。

つまり、そもそも他人の話などじっくり聞きたくはない。でも自分に必要なこと、メリットのあること“だけ”は聞きたい。自分で考えたりするのは面倒くさい。できれば一瞬で把握し納得したい。だから自分の気に入る伝え方をして欲しい。それが本音なのです。

そう理解すると、なぜスイッチを「ON」にする必要があるのか。なぜ言葉は少ないほうがいいのか。なぜ数字や論理表現があったほうがいいのか、すべて説明がつくのではないでしょうか。(39ページより)

また、話し方がていねいであることも、いまの時代には重要なのだとか。たしかに電車内のアナウンス、タクシー運転手のお客様対応などは、以前にくらべるとだいぶていねいになったように思えます。

しかし、それを「サービス業だから当然」と片づけてしまうのではなく、そういう伝え方が世の中の常識になっているということを認識すべきだというのです。

この人の伝え方は雑だ

ということは、この人は私のことを雑に扱っている

だから、この人が気に入らない

だから、この人の言うことには「NO」だ

(40ページより)

伝え方が雑だと、こういうことになってしまうわけです。だから著者も、講師の仕事をしているときは「ちょっとていねいすぎません?」と突っ込まれるくらいていねいに話すのだそうです。

イメージとしては、中学生でも理解できるくらいのていねいさだといいます。

そこまでするのは、そもそも参加者は(本当は)自分の話を聞きたいとは思っていないという前提があるから。そのように考えることで、必然的に聞いてもらえることに感謝でき、ていねいな言葉づかいになるというわけです。(38ページより)




ビジネス数学に関するこれまでの著作にも言えることですが、著者の本の魅力は「わかりやすさ」にあります。決して奇をてらったり難しい話を並べるのではなく、誰にでも理解できるようなアプローチを貫いているわけです。

そういう意味で本書は、きわめて著者らしい1冊であると言えるかもしれません。

Photo: 印南敦史