「20代のうちはひたすらに仕事を頑張る」と決めるのも、もしかしたら一つの手かもしれません。

でも、そのまま30代、40代と同じように仕事を続けていくのは難しいことに気づくでしょう。

そこで、ツールやサービスをうまく使って、スキルや特性を最適化して仕事を円滑に進めている人にインタビュー。 無理なく仕事を続けていくためのヒントを探っていきます。

今回ピックするのは、20以上ものブランドをマルチに展開している株式会社アダストリアで、マーケティング本部長をつとめる久保田夏彦さんです。

20年勤めた会社から転職した理由

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Photo: 千葉顕弥

GLOBAL WORK」や「niko and ...」、「LOWRYS FARM」、「studio CLIP」など、駅ナカビルでもよく見かけるこれらのアパレルショップは、すべてアダストリアが展開しているブランド。

久保田さんはこれらすべてのブランドを俯瞰で見つつ、個々の状況やトレンドとのバランスをチェックしています。

しかし、アダストリアにやってきたのはキャリア的には最近とのこと。外資でのマーケティングに20年以上携わってきた久保田さんに、ご自身のキャリアや仕事術について伺いました。

──読書とランニングが趣味の久保田さん。今日のコーディネートについて教えてください。

今日はシャツもパンツも「GLOBAL WORK」です。

スニーカーは、このあとランニングに行くのでニューバランスにしてます。会社のランニング部に入っていて、火曜日は部活の日なんですよ。もうすぐフルマラソンにも出ます。

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Photo: 千葉顕弥

──前職ではどのようなお仕事を?

ナイキジャパンに20年在籍し、その後このアダストリアに来たという流れです。ナイキジャパンではアプリの「NIKE ID」などの開発もやっていました。

──転職を考えたきっかけは?

転職のきっかけは…なんせ、もう20年でもう色々とやったなぁ、と(笑)。

ナイキにいるのは居心地は良いけど、こういうキャンペーンを仕掛けたらこういう反応が返ってくるんだろうな、とかわかるようになってきて。

強引にでも今までと違う環境に行って、自分がナイキで培ってきたマーケティングが通用するのかチャレンジしたいなと思いました。

「自分への期待値」とのギャップ

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Photo: 千葉顕弥

──アダストリアを選んだ理由はなんでしょう?

考えてみると、アダストリアとナイキは色んな部分が間逆なんです。

ナイキはナイキというブランド一本で引っ張っていくのに対して、アダストリアは複数のブランドがあって、ブランドごとにお客さんの好みやブランドしての戦略も違ってくる。

これって面白いなと思って、そうした全く違う環境で自分のマーケティングがどこまで通用するのかと考えたらワクワクしてきたんですよね。

それが、アダストリアを選んだきっかけです。

でも、転職したばかりの頃は何もできなかったですけれど(笑)。

転職をした人は誰しもそうだと思うんですけど、期待されて入ってきたり、あるいは自分ならやれると思って入ったりするじゃないですか。

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Photo: 千葉顕弥

──なぜ上手くいかなかったと思いますか?

入社してきた時は、自分は宇宙人というかインベーダーのような気持ちでやってきたんです。

でも実際に来てみると、組織の一員となって、一緒に働く人の信頼を得てからじゃないと変革はできないんだなというのを学びました。

ナイキジャパンに居た頃の信頼がリセットされて「あなた誰ですか?」というところからスタートしたので、影響力なりリーダーシップなりを持つには、それなりの時間がいるんだなというのを実感できました。

転職に慣れてる人なら、転校生としての振る舞いをもっと心得ているかもしれません。初めての転職だからっていうのもあったかもしれないですが。

──今の仕事で一番やりがいを感じるのは?

手に取りやすい幸せ」を提供できていることに充実感を感じます。

多くの人をハッピーにできるんじゃないかなと思いますし、やっぱり楽しいですね。

ナイキは「俺について来い」というプル型のブランドなので、値段が高くても奇抜なデザインでも、ナイキ自身が作りたいものや言いたいことをかたちにして、それを受け入れてくれる人は受け入れてくれるという感じです。

アダストリアはもっとフレンドリーなブランドも多いですし、それって時代に合ってるとも思うんですよ。

アダストリアはブランドごとにお客さんも違えばブランドのトンマナも違うので、俯瞰して見るとかなりのお客さんをカバーできているなとは思います。

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Photo: 千葉顕弥

──社内外のコミュニケーションで気を使っていることは?

社外に対しては、エージェンシーの方も自分のチームのメンバーだと思うようにしています。

マーケティングの人間はエージェンシーや代理店に対してお金を払う立場なので、立場的に強くなっちゃうんですよね。そこを指示する側にあぐらをかいていると、良いクリエイティブは作れないと思います。

社内に対しては、余計にその思いが強いですね。一緒に働くメンバーが精神的に充実できる環境を提供したいなと思っています。

コミュニケーションツールとしては1on1が多いです。

週に一度は必ずミーティングするようにしていて、対面で話せる時間を最優先するようにしています。

とはいえ「Slack」などのチャットツールを活用しているメンバーもいるので、それもアリです。毎週1on1で話していると自分の時間も使っちゃいますし。

ただ、周りで動いてる人たちのことをちゃんと見たり、相談に乗ったりするのは大事だと思っています。

「あれだけ見てくれた人がこう評価するなら仕方ないか」って、そう思ってもらわないとリーダーとしては信頼されないと思いますね。

そして、そうした信頼感を形成するには、時間なり手間なりが投入されないといけないんじゃないかなって。例えば朝の挨拶は欠かさないとか、そういうところからですね。

仕事とプライベートのバランス

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Photo: 千葉顕弥

──仕事とプライベートは分けて考えるほうですか?

地続きな気がしています。

何事もインプットが多くないとアウトプットが出せませんし、そのインプットの時間はお休みでも平日でも関係ないじゃないですか。

運動していても飲んでいても、何かしら仕事に活かせるようなインプットは意識しています。

でも、勤務時間としての仕事プライベートは意図的に分けるようにしています。常にオンの状態が続くと疲れも溜まっちゃいますから。19時には帰るようにしているけど、会社を出たからといってインプットの必要がなくなるわけではないので。

とにかく、刺激を受けることが大事だと思っています。

アダストリアはSPA(製造小売)でお店を持っているから、自分たちが休んでいても常にお店では誰かが働いているんですよね。

誰かがお店で働いてるということは、会社としてはオフになってないってことじゃないですか。

自分が土日で休んでいても、ある意味で休みじゃないという感覚があります。最初はこの感覚が新鮮でした。

──オンとオフを分けるのに意識的にすることはありますか?

ビールを飲みます(笑)。お酒を飲むとオフだなーって感じになりますね。

逆にオンにする時は、僕が愛読している渡辺和子さんの「愛と励ましの言葉366日」という本があるんですけど、出社したらまずそれを読むっていうのが習慣です。

ここ4、5年は読んでますね。

ライフステージの変化が仕事に与える影響

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Photo: 千葉顕弥

──結婚、子どもができて働き方は変わりましたか?

独身の時は夜遅くまで仕事したりチームのメンバーとご飯を食べに行ったりしてたんですけど、結婚してからは家に帰るようになり、家でご飯を食べる日はカレンダーに印を入れるようになりましたね(笑)。

あと、子どもが生まれてからは子どもと一緒に過ごす時間を増やしたかったので、しっかり帰るようにしました。

うちの娘はいま中学生なんですけど、ちょうど「repipi armario」というブランドのターゲットなんですよ。

なので、娘がうちのブランドを着てくれると嬉しいですし、たとえば「GLOBAL WORK」では子ども服も取り扱ってるんですけど、子どもと接するインプットを仕事に活かしている社員は多いと思います。

──トレンドを追うために何かしている?

ネットのニュースサイトはかなり見ていますね。SNSも新しいものがローンチしたらすぐに試してみたり、そのへんは自分を強引に追い込んでるというか。

もう良い年齢なので別に無理しなくてもいいんですけど、そのへんを辞めちゃって、部下から見てただのイケてない本部長になってしまうのは嫌なので(笑)。

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Photo: 千葉顕弥

──趣味や今ハマっているものは?

読書ですね。年間200冊近く読んでると思います。

会社にある本棚「シェアブック(オフィス記事リンク)」も僕の管轄で、家に本が貯まると奥さんに怒られる前にシェアブックの本棚に持ってきています。

シェアブックはかなり好評で、置いた本も皆けっこう持っていってくれますね。2ヶ月に一度、本のキュレーションをしているんですけど、ちゃんと本が循環してるなって手応えがあって。

──最近面白かった本はありますか?

前田裕二さんの「メモの魔力」は面白かったですね。あとは金井真紀さんの「パリのすてきなおじさん」とか、ビジネス書だと足立光さんの「劇薬の仕事術」とかも面白かったです。自分のInstagramには書影を載せたりもしています。

インスタに載せた本がシェアブックに並ぶのを待ってる社員もいますし、「あの本まだなんですか?」って聞いてくることもありますね(笑)。

そういう意味では本には力を入れてるなと思いますし、結果的にみんなとのコミュニケーションにもなってくれているのかなと感じています。

ノートと手帳の活用方法

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Photo: 千葉顕弥

──ところで、かわいいバッグをお持ちですね。

これは最近見つけたものですね。

去年までは手帳を使ってたんですけど、「メモの魔力」っていう前田裕二さんの本を読んで、ちょっと自分もメモを取れるように手帳より大きめのノートを持ち歩くようにしたんです。

その分持ち歩く荷物が増えちゃって、ちょうど良いサイズのカバンを探してて見つけたのがコレです。ブランドはわかんないんですけど、かわいいなと思って。

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Photo: 千葉顕弥

あとは999.9のリーディンググラスも持ち歩いてます。度が弱めの、本読みのための眼鏡です。

ほかにはiPhone名刺手帳家の鍵ファイル社員証、あとジョンマスターオーガニックのリップ。そんな感じですね。

──仕事で欠かせないアナログアイテムは?

最近だとこのノートですね。これも前田さんの本の受け売りなんですけど、ノートを見開きで使うんですよ。

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Photo: 千葉顕弥

ファクトは左側に書いて、そこから抽象化したりほかに転用できるものがないかピックしたり、テンプレートが決まっているんです。

ファクトをメモることは昔からやってたんですけど、それって結局見直さないんですよね。

そこからもう一手間かけて、アウトプットしやすいかたちにしておくと、結構使えるというのがわかって、実践しています。

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Photo: 千葉顕弥

──手帳はどういう用途に使う?

手帳は毎週の定例会議のメモに使ってます。定例会議は営業的な数字寄りの会議で、マーケティングの人間としてはそういう数字の話がとても楽しいんです。あと、この手帳は去年分のもあるんですよ。

小売業は週ごとの数字を比較することも多いので、売上などで気になったところがあったら去年のとすぐに比較できるようにしてます。

スケジューラーにはGoogle Calendarを使っていますね。 会社支給のスマホには「Evernote」や「Toodledo」なんかを入れてます。

──1年後、10年後。どんな仕事をしていると思いますか?

1年後は、ブランドをよくする手法というのをもっと知っていたいですし、その手法を各ブランドに提供できるようになっていたいですね。

これは僕個人の思いですが、10年後は、世界に通用するブランドが5個くらい欲しいですね。

現状、アジアにはいくつか展開しているんですけど、まだ通用してるという感じではないので。上海や台湾にあるUNIQLOさんや無印良品さんも、日本と同じスタイルで展開していて、それで通用しているじゃないですか。

それはブランドがブレていないということだと思うんです。僕も、アダストリアのブランドが海外に出てもブレず、そして通用するブランドになるのをお手伝いしたいです。

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──ご自身の10年後は?

とりあえずは海外に居たいです、中国とか。アメリカは仕事で関わってきたけど、中国はあまり関わってこなかったですし、それに今すごくエネルギッシュですから。

そんな場所で働いてみたい気持ちはあります。

今の上海には世界中のメガブランドがあるので、あの場所でブランドとしても戦ってみたいし、マーケターとしても戦えるようになりたいです。

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Source: アダストリア