今度、誰かと会話をする時、相手が恋人であれ、友人であれ、仕事の関係者であれ、次のことに注意してみてください。
2人が同じ姿勢で座って(立って)いるか? 同じくらいの大きさの声で話しているか? 腕や手で同じようなしぐさをしているか?
もしそうなら、あなたか相手のどちらかが(意識的にせよ無意識的にせよ)ミラーリングと呼ばれる行動をとっている可能性があります。
「カメレオン効果」とも呼ばれるこの心理テクニックは、プロのネットワーカーやセールスパーソンが戦術的に、あるいは、一般の人が無意識的に用いているもので、相手との間に強いつながりを築き、信頼の感覚を高める目的で行なわれます。
ミラーリングとは?
ミラーリングは、科学的には大脳辺縁系の同調(Limbic Synchrony)として知られており、相手の姿勢やしぐさ、話し方、表情、時には外見までもまねることで、親密な関係を築き、信頼を獲得し、より深いつながりを育もうとする行動です。
ミラーリングは、営業や交渉、セラピーや警察の捜査など、他人の信頼を得ることが必要な職業において意図的に行なわれることもありますが、帰属欲求の進化の副産物として、意図せずに行なわれることもよくあります。
模倣とは、よく言われるとおり、最も誠実なおべっかです(『危険な情事』のような気味の悪い領域にまでエスカレートしないかぎり、模倣をされることで、相手はあなたをより好きになる)。
具体的なミラーリング方法
ミラーリングはさまざまな形で行なわれます。
カップルセラピーでは、パートナーが向かい合って座り、「アイ・ステートメント(I Statement:わたしを主語にした文)」を使って自分の気持ちを表現し、パートナーが言ったことをそのまま繰り返す(人称代名詞だけを変えて)というアプローチが推奨されることもあります。
この厳密な言語ミラーリングの手法は、相手が十分に耳を傾けてもらい、理解してもらったと感じるまで、相手の気持ちに向き合うことを助けてくれます(幼児に対しても使える)。
最も重要なポイントは、相手が話している最中に、反論を考えるかわりに、相手の言い分に真摯に耳を傾けざるをえなくなることです。
一方、友人や知人、仕事の関係者に対してミラーリングを行なう時は、一般に、相手の姿勢やしぐさ、話し方、顔の表情をまねるという手法が使われます。
相手が座ったら自分も座る。相手が難しい語彙を使ったら自分も難しい語彙を使う。相手の声が大きくなったり小さくなったら、自分もそれに合わせて声を大きさを調節します。
そう聞くと、「変な話だな、逆効果になりそうだけど」と思うかもしれません。もちろんその可能性はありますが、適切に行なえばメリットもあります。
ミラーリングは有効か?
シカゴで臨床心理士をしているMartha Lauber氏は、ミラーリングは言い争いを収める最善の方法だと言います。
どう反論しようと考えるかわりに、相手の話に強制的に耳を傾けることになります。
誰もが相手に問題があると考えます。ミラーリングは、自分が絵の半分しか見ていないことに気づかせてくれます。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は次のように報じています。
研究者たちが最近、脳イメージング技術を用いた新たな方法で、こうした共有行動が単なる模倣を超えたものであることを発見しました。
プリンストン大学の心理学と神経科学の准教授であるUri Hasson博士が共同で執筆した2016年の研究によると、機能的MRIを使って話者と聞き手の研究をしている科学者たちが、話者と聞き手の脳が互いからの信号に反応、適応し、「動的に結合している」ことを発見したそうです。
Hasson博士は、この結合を、いわば脳のワイヤレス結合のようなものだと言っています。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、敵意よりも協力が役に立つあらゆる社会環境(ほとんどがそうですが)においては、「このような連携が親密さと信頼を育む 」と書いています。
ミラーリングのやり方と注意点
ミラーリングが最も効果的なのは、共感を生み出したり、心からのつながりを育んだりすることを目的として、さりげない、控えめなやり方で行なわれる時です。
多くの人はそれが行なわれていることに気づかないとはいえ、なかには敏感な人もいるし、あまりに大胆なやり方をすると、相手を怒らせてしまう可能性もあります。
いずれにしても、両者の間に誠実な関係性がなければうまくいきません。ですので、相手のやることをすべてコピーするのではなく(それではあまりに露骨で、気に障る)、あらかじめ築いた関係性の土台の上で、さりげなく行なわれるものだと考えてください。
上手なミラーリング方法
まず、アイコンタクトや笑顔、相手の正面を向くなど、ごく一般的な非言語的手がかりを通じて、相手とのつながりを築くことに注力します。スマホを見るなど初歩的な過ちをおかさないよう気をつけてください。
その土台ができたら、相手の話し方、アクセント、言葉の選び方、表情、身振り手振り、姿勢などのうち、自然と目についたものを選んで、自分の側でもそれを再現してみます。
くれぐれも、上辺だけのイギリス訛りで話したり、無理やりな姿勢で座ったりしないように。そうではなく、もっとささいなことに目を向けてください。
たとえば、相手の話すスピードや声の大きさ、足を組む、またはほどくなどの動作、喜んだり驚いたりする表情など、小さなことをまねてみましょう(会話が上手な人なら、すでにやっていることかもしれません)。
ミラーリングを行なう時の注意点
また、場が感情的になっている時は、ミラーリングをしてはいけません。怒りの感情が吹き荒れている時は、相手の口調や表情をまねるべきタイミングではありません。問題の解決を目指すなら、場が落ち着いてからミラーリングをしてください。
効果的にミラーリングをする鍵は、露骨すぎたり、わざとらしくならないようにすることです。相手を不快にさせたり、操作されていると感じさせてはいけません。
そうではなく、控えめにさりげなく行なえば、ミラーリングは「脳と脳のつながり」や、強調、共感、信頼を育む強力なツールとなります。
Source: THE WALL STREET JOURNAL