道なき道を拓き、未だ見ぬ新しい価値を世に送り出す人「起業家」。未来に向かって挑むその原動力は? 仕事における哲学は…? 時代をリードする起業家へのインタビュー『仕事論。』シリーズ。

今回お話を聞いたのは、広告動画を量産するSaaSサービス「リチカ クラウドスタジオ」を提供する株式会社リチカ代表取締役の松尾幸治さんです。

ベンチャーの取締役を経営責任で退任、ゆるい気持ちで起業した

──起業に至った経緯から教えてください。

起業前、動画メディアを運営する会社で経営に携わっていました。入社時は社員数5人ほど。その後100人規模まで成長したベンチャーでした。

ところが、経営上の問題でかなりの人員を削減せざるを得なくなり、取締役だった僕も経営責任で退任する形を取りました。

福岡に住んでいたので、再就職しても月収20万円くらいがいいところ。それまでの年収が高かったこともあり、翌年の住民税が払えなくなってしまう。

知り合いや先輩に相談すると「起業するしかない」と言われ、それまでまったく頭になかったのですが、「やってみようかな」とゆるい気持ちで会社をはじめました。

前職では、全国の社長1,000人くらいにインタビューして動画を制作しており、そのなかで「どうしてこんなにいい会社が知られていないんだろう」と思うことが多かったんです。

伝え方や見せ方がうまくないだけなので、映像やデザインなどのクリエイティブをよくしていけば、もっと世の中に届くのに、と歯がゆく感じていました。

もの作りやデザインは好きだったので、前職の経験を生かして、映像制作を中心にデジタルに特化したCMやWebサイトなどの制作を請け負うことにしました。

おかげさまでお客さまの数も増えてきて、取引先も増えてきたんです。

──動画制作の受注から、今の事業につながったきっかけや考えはなんですか?

たとえば「中古車販売の動画広告」と聞けば、多くの人がなんとなくイメージするものって似ていますよね。つまり、伝え方として“型化”されているものがたくさんある。

でも、僕たちに依頼が来るときには「ゼロからつくってほしい」と言われるんです。

イメージがお客さまの頭の中にあるのであれば低コストで提供できるはずだし、SNSなどでライトに消費されるものでもあるのに、なぜゼロからつくって価格も高いままなの? とギャップを感じていました。

かたや、クリエイター側にもジレンマがあって。本当は抽象度の高い仕事をしたほうが本人にとっても世の中にとってもいいのに、依頼されるのは「○○みたいな動画」といった、ある程度決まったオーダーなんです。

デジタル広告は消費が早いこともあり、つくり続けて疲弊して…というサイクルになっていた。それなら、システムで提供したほうがお客さまのためにもクリエイターのためにもなる、と考えました。そこから、現在のSaaS事業をスタートしたんです。

必要な素材を用意してもらえれば、媒体に合った効果的な動画や静止画を自動的につくれます。僕自身が前職でシステム開発のマネジメントもしていたので、プロダクト開発のスキルセットも持っていたんですね。

現在は、総合広告代理店のようなエージェンシー機能と、SaaSの掛け合わせで事業を展開しています。型化できる部分をシステムで担保しながら、型化できないクリエイティブを武器にして、お客さまならではのデジタルマーケティングのニーズをワンストップでサポートする。

コンサルティングからアウトプットの提供まで、情報発信の課題をまるごと支援させていただいています。

「納品型」クリエイティブと「アップデート型」SaaS。異なるカルチャーのバランス感

──組織が急拡大していくにあたり、苦労もあったのでは?

前の会社が”どベンチャー”だったので、組織が固まっていないのには良くも悪くも慣れていました。5人から100人になるまでを経験しているので、たとえば「組織が15人くらいならこんな課題がある」ということも、ある程度わかっていました。

それよりも難しかったのは、商品の特性によるカルチャーの違いです。

2014年に創業して3年ほどは黒字経営をコツコツやり、2017年にはSaaSサービスで商機をつかめると感じました。

ところが、創業当初のクリエイターのカルチャーは「いいものをつくって納品する」というもの。

かたやSaaSのプロダクト開発は、ベータ版でリリースし、永遠に機能をアップデートさせ続ける。「つくる」という側面では同じなのに、反対方向を向いていると言ってもいいくらいです。

違うカルチャーをまとめるのは大変で、正直、今も取り組んでいる最中です。

クリエイター側にはプロダクト開発を理解してもらい、システム側にはクリエイターの思いを伝える。さらに、僕の立場でいうと「ビジネス」という側面もまた相反するスタンスだったりします。

僕はそのすべてを見る立場なので難しさはありますが、どれも好きですね。

──ものづくりとビジネス、両方のバランス感ですね。

もともと、ものをつくる仕事に憧れがあって、広告関連のクリエイティブや、音楽やCMの仕事をしたい、と思っていました。

やはり、ものをつくれる人たちはすごい。向いているベクトルも、熱量も違う。

一方で、テックカルチャーも好きだし、お客さまに届けるというビジネス側も尊いと思っています。

僕自身、それぞれが得意かどうかは置いておいて、ビジネスを「面白い」と感じている人と一緒に仕事をするのが刺激的で好きです。もちろん大変なことはありますが。

──これまで経験した「大変だったこと」は?

その時は対処することで精いっぱいで、あまり覚えていないんですよ。

少し前だと…そうですね、資金調達する前にお客さまと突然連絡が取れなくなったことがありました。

もう制作は進んでいるのに、1500万円の売上が回収できない。あがいても仕方がないので当時のメンバーには話して、そのあと3日くらい会社のハンモックでボーっとしていたらしいです(笑)。

僕自身はあまり記憶がない。「どうしようかな」とは考えていたんですが、どうにもならなかったですね。

システム整備が、クリエイターの才能を解き放つ

──事業で目指すゴールをお聞かせください。

会社のミッション「Switch to The RICH クリエイティブで、世界を豊かに」が、目指すゴールそのものです。

これは、情報の伝え方をリッチにするということ。

世界は豊かになっていくほうがいい、という考え方が前提としてあって、その中で僕たちができることはクリエイティブとテクノロジーの両輪で自分たちの強みを生かしつつ、企業の情報発信コストを下げていくことだと考えています。

今は、システムに企業のコーポレートサイトのURLを入力したら、データベースと連携して40パターンくらいの広告を自動提案できるようになっています。

精度をもっと上げられれば、いい会社、いいものが必要な人にちゃんと届くようになり、今よりコストが下がるはずです。

僕自身、ピアノやギターをやっていたこともあり、ものをつくることが好きですが、クリエイターとしてやる側ではないと途中で思いました。

それは何も悪い意味ではなくて、仕組みづくりや支える側が向いているんですよね。

「そのシステムは、クリエイターの仕事を奪う」と言われたこともあります。でも、クリエイターには、システムでできる部分ではなく、もっと頭や才能を使う場所でものづくりをしてほしい

システムが担う部分が増えれば、クリエイティブの発想を持った人が事業に関わることも増え、いろんな才能を混ぜ合わせてもっと世の中を豊かにしていけると思います。

もしかしたら、今後は壁に絵を描いたり、映画を撮ってみたり…そんなことが企業ニーズになるかもしれません。

──仕事に取り組む熱意の源泉は?

何なんですかね…。ワクワクすることが好きだから、でしょうか。

ビジネスってワクワクせずにやっている方も多いなって思うんです。

もっとワクワクしてやろうよ」と伝播していきたいですね。僕たちの会社も、みんながワクワクしているような雰囲気、カルチャーを持っている、そんな存在になれたらいいなと思います。

食事は1日1食。本は毎月3万円ぶん購入する

──ここからは一問一答形式で質問させていただきます。まずは、何時に仕事をはじめて、何時に終えますか?

8時半か9時くらいにはじめて…終わりは夜中の2時とか。ただ、間に会食が入ることもあります。週に2日は子育てや料理する時間などを挟みます。

──愛用デバイス、仕事道具は?

必ずバッグに入れているのは「スケッチブック」「iPad mini」「MacBook」の3つです。スケッチブックはA4サイズの「Mnemosyne」に落ち着いています。

──情報収集はどのように行なっていますか?

たくさん本を読んだり、SNSを見たり、インターネットを見たり。

昔からよく本を買います。先輩からの勧めで「月に3万円分の本を買う」と決めて本屋に行っていました。

20冊弱くらい買えるので、手に取るもので自分の気になることが浮き彫りになるんです。

──能力を伸ばすには? ビジネス力を伸ばすには?

わかんないです…(苦笑)。

真面目に答えると、楽しんで工夫しようというスタンスでしょうか。

しんどい時こそ「楽しい」と言って脳みそをバカにしてみると、「どうやって解決しようか」という思考になっていくと思います。

──余暇の過ごし方は?

パスタづくり

もう5~6年くらい続けていて、おいしいお店に行くと味を覚えて自分で再現してみます。今はわさびと卵黄のパスタが気に入っています。

──心が折れたときはどうする?

寝ます。あるいは、どこかに行くことですかね。

──食生活で気をつけていること。好物は?

眠たくなってしまうので、食事は1日1食+プロテインです。

パスタはもちろんですが、納豆巻きと餃子が好きです。

──運動の習慣はありますか? どのような運動?

2カ月前からジムでキックボクシングを始めました。

その前までは、庭に懸垂機を置いて懸垂していました。

──これだけはやらない、と決めていることは?

本当に嫌なことはやらない

誰かが不幸になったり、大事にしているものが失われるような場合はやりません。ただ、それ以外は何でもやります。

──ビジネスを通じてのゴールは?

企業の情報、伝え方をリッチにすること。

──ビジネスパーソンにおすすめの一冊は?

22歳の時に読んだ『7つの習慣』を読んでから、人生が変わったと思います。「いかにも」すぎかもしれないですが(笑)。

──座右の銘は?

楽しいことをしよう

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リチカの社内にはスナックがある。「社内にバーカウンターをつくるのが夢だったから」と松尾さん
リチカの社内にはスナックがある。「社内にバーカウンターをつくるのが夢だったから」と松尾さん
Photo: リチカ
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リチカの社内にはスナックがある。「社内にバーカウンターをつくるのが夢だったから」と松尾さん
リチカの社内にはスナックがある。「社内にバーカウンターをつくるのが夢だったから」と松尾さん
Photo: リチカ
Photo: リチカ
Photo: リチカ

松尾幸治

株式会社リチカ 代表取締役CEO

横浜市立大学卒業後、「日本の社長tv」を運営する株式会社ディーノシステムに参画。 取締役運営本部長としてプロダクト、クリエイティブ、マーケティング等広く従事し、2年で5,000社の新規開拓を牽引。2014年カクテルメイク株式会社を設立し、2020年に株式会社リチカに社名変更。

Source: RICHKA / Photo: 伊藤圭