ニューノーマルの、その先へ。社会全体が再起動に向かっている今、個人もこれまでの歩みを振り返り、未来に向けて自らの仕事や人生を改めて設計するタイミングではないでしょうか。

自分だけのニュースタンダードをつくろう」特集では、新しいステージへの挑戦を始めた人の物語や、自分らしいワークプレイスのつくり方、必ず達成できる目標設定術まで、キーパーソンに徹底取材して、自分だけのライフハックを見つけるヒントをお届けします。

第4回は、「じぶん流DIYちゃんねる」を運営する片井義二さんにインタビューしました。郊外のオンボロ平屋を150万円で購入し、自分たちの終の棲家としてリノベーションするストーリーをYouTubeで発信しています。

自分の居場所を自分でつくる、ニュースタンダードの究極の形をご紹介します。今回は前編です。

▼後編はこちら

家を自分でつくる達成感は、何物にも代えられない最高の喜び | ライフハッカー[日本版]

家を自分でつくる達成感は、何物にも代えられない最高の喜び | ライフハッカー[日本版]

DIYどころか、リノベーションを超えた「建て替え」

「理想の家を、自分の好きなように建てて、暮らしてみたい」

そんなことを考えたことはありませんか?

働き方が大きく変わったこの2年。リモートワークが一般化したことで、郊外や地方に転居する人も増えました。自宅がワークスペースとなったことで、家の中を色々いじった人も少なくないのではないでしょうか。

そんな中、DIY関係の動画コンテンツが人気を博しています。ちょっとした家具や小物をつくったり、中古物件をリフォームしてみたり。なかでも異色なのが「じぶん流DIYちゃんねる」というYouTubeチャンネルです。

茨城県鹿嶋市の築36年の平屋を150万円で購入し、自宅のある船橋から毎週末、片道1時間半かけて通いながら、老後の終の棲家としてフルリノベーションしていくというもの。

これだけを聞くと、最近よくある話のように思いますが、このチャンネルは屋根工事から床板の張り直しまで、一切外注せず、誰の手も借りず、すべて一人で直しているのです(正確には時々奥さんが手伝っていますが)。

リノベーションというよりも、ほぼ「建て替え」。それを、プロの大工でも建築家でもなんでもない、普通のサラリーマンが週末の時間を使ってやっているのです。

一体なぜそんなことをはじめたのか? なぜ部分的にでも外注しないのか? そんな建築知識をどこから学んだのか?

何より、会社では一営業所を預かる多忙で責任もある立場でありながら、DIYに加えて動画配信まで一人でこなすそのバイタリティーとモチベーションはどこからくるのか? 実際にDIY中のお宅まで押しかけて聞いてきました。

自分から会社というフィルムをはがしたら何が残るのか

――2021年4月に鹿嶋市の平屋を購入し、この1年間、週末を使ってコツコツリノベーションされてきました。はじめたきっかけについて教えてください。

片井さん(以下、敬称略) 昨年50歳になり、ちょうど10歳上の先輩が間もなく定年を迎えるにあたってセカンドキャリアに葛藤する姿を見て、「ああ、俺も今の会社で働くのはあと10年なんだな」と気づいたんです。

私は清掃機器の輸入商社で東京営業所の所長を務めているのですが、ここまでくると今の会社における今後のキャリア、ポジションも大体見えてきます。

10年後、会社というフィルムを自分からはがされたとき、一体どうなるんだろうと思いました。「仕事が人生の全てではない」とみんな頭ではわかっているかもしれませんが、気が付けば「仕事=人生」になっちゃいますよね。私もそんな一人でした。

もともと出身は北海道なので、妻と一緒に帰ってセカンドキャリアの準備に生活をシフトするのもありかなと考えたのですが、妻に相談してみたらいきなり泣かれてしまって(苦笑)。

というのも、子どもたちも首都圏で育ち、第一子と第二子は既に就職して働いています。末の娘も中学生なので、10年後には独立しているでしょう。妻としてはなるべく子どもたちの近くにいてサポートしてあげたいという気持ちが強いようです。

また、以前家族旅行で千葉の館山に寄った際、私が「このあたりでのんびり暮らすのもいいかもなあ」と話していたことを覚えていて、「内心すごく楽しみにしていた」と言われました。

その妻の一言で、視界がパッと広がりました。急にワクワクするセカンドキャリアのビジョンが見えたんです。

そこで「中古物件でも買おう」と思い、探しはじめたのですが、コロナによる疎開ブームの影響もあって館山や熱海などの人気のエリアは不動産価格が上がってしまい、なかなか手が出せませんでした。

ほかにないかと色々探したなかで、鹿嶋市のこの物件を見つけた、という流れです。

Screenshot: via「じぶん流DIYちゃんねる」

妻はドン引き、不動産屋からも「本気ですか?」と疑われた

――こちらの物件は購入時で築36年の平屋、空き家になって長く、外装も内装もボロボロだったようですが、なぜこの家に決めたのでしょうか?

片井 不動産屋からも「本当にこの家を買うんですか?」と正気を疑うような目を向けられましたね(笑)。前の住人の家具や生活用品など残置物もすべてそのまま、埃やゴミもすごかったです

内見のとき、妻は玄関より奥には入りませんでした。「ここにする」って言ったらドン引きされましたよ(苦笑)。

でも、どうせすべて自分で直すつもりだったので、家自体の状態や室内の状況は関係なかったんです。最初から建物の骨組みしか見ていません基礎も傾いていないし、柱も問題なかった。見た瞬間にDIY後の家のイメージが湧きました。

水道も電気もきているし、残器物や設備を片付ける手間はかかりますが、骨組みさえしっかりしていれば、家の8~9割はできているようなものなんですよ。

そもそも、ちょっとした手直しで済むような家であれば不動産屋が自分たちでリノベーションして、付加価値を乗せて販売しますからね。なるべくお金をかけずに家を手に入れたいなら、普通の人が買わないような物件を買うしかないんです。

購入当時の平屋の販売図面。壁ははがれ、窓も割れ、室内はモノが散乱している状況だった
購入当時の平屋の販売図面。壁ははがれ、窓も割れ、室内はモノが散乱している状況だった

原点は「ログハウスをセルフビルドした」経験

――家の骨組みだけで8~9割とはなかなか一般的な感覚ではないように感じますが、片井さんは会社員であって、大工でもなんでもないですよね?

片井 そうなんですが、実は30歳くらいのときに北海道でログハウスをセルフビルドしたことがあるんです。

子どものころ、親が家のローンですごく苦労している姿を見て、「家族の笑顔と引き換えにするほどマイホームって大事なの?」と子どもながらに感じていました。そんな経緯もあり、自分の理想とする人生プランには「マイホームを持つ」という選択肢はありませんでした。

ところが、ある日雑誌の「丸太小屋で暮らす」みたいな特集でログハウスをセルフビルドした人たちを紹介する記事を見て。もう、衝撃ですよね。「家って、自分でつくれるんだ!」という。

インターネットもそこまで進んでいない時代だったので、図書館で建築関係の本を読み漁ったり、近所の建築現場を見学したり。現代住宅は骨組みが見えないので、「北海道開拓の村」というテーマパークへ見学に行って、構造を見て回ったりもしましたね。

ひたすら独学です。まわりからは「絶対無理」と馬鹿にされましたし、大工だった妻の父からは「大工を侮辱しているのか」とメチャクチャ怒られました。

自分自身、それまで特にDIYをやったことがあるわけでもなく、車をちょっといじる程度。そんな状態でしたが、7年間、仕事以外の時間とエネルギーをすべて注ぎ込んでやっとできたという感じです。

片井さんが7年かけてセルフビルドした北海道のログハウス。3階建ての実に立派な家
片井さんが7年かけてセルフビルドした北海道のログハウス。3階建ての実に立派な家
Photo: 片井義二さん提供

今振り返っても、我ながらよくできたなと思いますが、もう一度やれと言われても無理ですね。何も知らないど素人で、若かったからできただけ。あんなに大変だとわかっていたら、やりませんでしたよ。

そういう経験があるので、基礎や骨組みの重要性とつくることの大変さがよく分かるんです。更地からすべて一人でやるのは、正気の沙汰ではありません(苦笑)。

ログハウスによって手に入れた「心の自由と権利」

――今やっていることも十分すごいと思いますが、セルフビルドに比べれば、ということなんですね…。そこまで苦労して建てたログハウスなのに、東京に転勤になってしまったんですよね? すごくもったいないですね。

片井 よくそう言われるのですが、全然もったいなくないですよ。自分が建てた家がある、というのが心の支えになっているんです。

たとえその家に住めなくても「やり遂げた」という確固たる自信は一生の宝物として残ります。それに、転勤によるキャリアアップが失敗で終わっても、いざとなれば北海道の家に帰ればいいや、とチャレンジする勇気を与えてくれました。

加えて、今は会社の社宅に住まわせてもらっているのですが、北海道に家がある状態での赴任なので、自己負担額がすごく少ない条件になっているんです。ローンを組まずに自分で建てたからこそ、いまタダに近い状態で首都圏に住むことができている

ログハウスには2年くらいしか住めず、今は別荘として年に数回帰る程度ですが、その家を建てたおかげで、心の自由とどこでも住める権利を獲得できた。私はそう思っています。

DIYも仕事も「考える前に動く」

――話を今リノベーション中の鹿嶋市の平屋に戻して、DIYは屋根からはじめて、ぼっとんトイレ、お風呂場、脱衣場、今は床を貼り直しているところです。完成を100としたら、今どのあたりまで来たとお考えですか?

片井 まだ20%くらいですかね? 30%までは確実に行っていないですね。といっても、完成系もぼんやりとしたイメージがあるだけで、細かい部分は全然決めていません。行き当たりばったりで、やりながら設計図を書いているって感じです。

大掛かりな作業なので、しっかり設計図を描いて、計画を立ててからはじめようとすると、いつまでたってもスタートできないんです。

考える前に動く。作業しながら考える。そんな感じです。仕事もそんなものじゃないでしょうか?

そもそも、60歳になるまでの完成を目指していたので、ゆっくりじっくり10年かけて進めようと思っていたんです。でもYouTubeで配信をはじめたら、ことのほか多くの人に見ていただけて(2022年4月時点でチャンネル登録者数3万3000人超)。

たくさん応援をもらえたことで「早く次の動画を配信しなくては」と予想以上に作業が進んでいると感じています。


後編では、鹿嶋市の家の最新の状況から具体的なDIYの進め方、片井さん自身のエネルギーの源までお聞きしています。こちらもぜひご覧ください。

▼後編はこちら

家を自分でつくる達成感は、何物にも代えられない最高の喜び | ライフハッカー[日本版]

家を自分でつくる達成感は、何物にも代えられない最高の喜び | ライフハッカー[日本版]

Photo: 小原啓樹 / Source: YouTube