現在の4G(LTE)スマホより、通信速度が理論値で100倍も速くなると言われる、第5世代モバイル通信「5G」。
2019年4月、米Verizonと韓国の大手通信事業者3社が、携帯電話向け5Gサービスのローンチ世界初を争うという話題がありました。日本では東京五輪・パラリンピックが開催される2020年に商用化される予定ですが、いまひとつ実感がないのも事実。
そこで、5Gにより、私たちの生活がどのように変わっていくのか、最新見本市の現地取材や関係者からの話を踏まえて考えてみました。
海外が先行する5G、日本はどうなる?

今年2月下旬、スペインのバルセロナで開催された、世界最大規模のモバイル見本市「Mobile World Congress 2019(以下、MWC)」を現地取材しました。
移動体通信技術や半導体の設計・開発を行うクアルコムのブースでは、同社のチップセットを使った5G対応端末を展示するなど、各メーカー、チップベンダー、キャリアのブースに5G対応端末や近い将来提供されるであろうサービス事例を展示。まさに、5Gの開始直前といった期待感にあふれていました。
一方、日本では4月10日に総務省が、NTTドコモ、KDDI(沖縄セルラーを含む)、ソフトバンク、楽天モバイルの4キャリアに5G向けの電波(サブ6GHz帯、ミリ波)を割り当てました。
サブ6GHz帯:6GHz以下の3.7GHz帯/4.5GHz帯。現在のLTEで使われている周波数に近いため、比較的導入しやすいと言われています。
ミリ波:高周波数帯の28GHz帯。電波は直進性が強く、建物をまわり込んだり、壁などを通り抜けがしにくくなります。また、電波が届く距離も短いため、たくさんの基地局を設置する必要。しかし、非常に広い帯域幅を使えるので、高速大容量の通信が可能です。
これでようやく、日本でも5Gの夜明けを迎えることができ、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクは、2019年中にプレサービスを開始する予定です。
たとえば、NTTドコモは9月に開催される「ラグビーワールドカップ2019 日本大会」で、5Gを活用したサービスを提供する予定。これまでの展示会などで紹介されてきた事例から予想すると、スタジアムから離れた場所でも、5G対応のタブレットやスマホで、試合を観戦しながら選手や各種の情報をチェックしたり、ARを活用した「ジオスタ」や、4Kや8Kといった超高解像度の映像を楽しめるかもしれません。
すでに、ソフトバンクは、ヤフオクドームで5Gを活用したVR野球観戦、KDDIはサッカー日本代表戦でAR観戦の実証実験を成功させています。なお、楽天モバイルも2020年に5Gサービスを開始する予定です。

5Gへの過度な期待は禁物。その理由は?
5Gの特徴は「高速大容量」「低遅延」「多接続」。
理論値でLTEの100倍にもなるという超高速通信、10分の1となる超低遅延が可能になり、あらゆるモノがインターネットにつながる多数同時接続の世界も想定されています。
ただ、5Gサービスの開始当初は、これらの特徴を実感することは難しいでしょう。業界関係者の中にも「期待しすぎない方がいい」「5Gバブルになっている」という意見を述べる人がいます。
たとえば、5Gネットワークで使える端末としていち早く発売されたサムスンの「Galaxy S10 5G」は、スペックで受信時最大2Gbpsとなっています。LTEでも周波数を束ねるキャリアアグリゲーションなどによりギガビットをすでに達成しているので、現時点ではせいぜい2倍といったところです。
MWCのソニーブースで展示されていたミリ波対応の5Gのプロトタイプ端末(下画像)もスピードテストでは2Gbps程度でした。

低遅延についても、わずかな遅延も致命的な問題となるクルマの自動運転などで必須の特性ですが、自動運転を実現するには、まず道路の管理システムを構築する必要があります。一般ユーザーが自動運転を日常的に体験できるほどの設備が整うのは、まだまだ先のことでしょう。
多接続に関しては、LTEで十分まかなえるのではないかという意見があります。IoTで業務の効率化を狙っているなら、キャリアからすでに多彩なソリューションが提供されているので、5Gを待つ必要はありません。
一方で、ネットワークを流れるデータ量は今後もどんどん増えていくはず。大量のデータをさばくには高速大容量の5Gが必要です。5Gの設備が整備され、5Gが当たり前の世界になれば、今さら3Gに戻れないのと同様に、4Gに戻るなんて考えられないという時代がやってくるでしょう。
NTTドコモがLTEを利用したデータ通信サービス「Xi(クロッシィ)」の提供を開始したのは2010年12月のこと。あれから約10年を経た今の現状を考えると、これからの5年後、10年後には5Gで8K映像が当たり前のように見られる高速大容量通信が浸透し、自動運転が普及しているかもしれません。
なお、特許料を巡ってクアルコムと裁判で争い、インテルチップを採用してきたアップルは5G対応で出遅れが懸念されていましたが、先日、クアルコムと電撃的に和解。クアルコムのチップを搭載した“iPhone 5G”が、それほど後れを取らずに出てきそうです。
5Gは、B to Bで社会の仕組みやシステムを変える
日本では、まだ5Gがはじまっていないので、一般ユーザーが5Gの世界をイメージできないのは当たり前ですが、5Gを活用した建設機械の遠隔操作や工場のロボット操作、遠隔医療など、企業向けのサービス事例や実証実験が多いことも、5Gを身近にイメージしにくい要因かもしれません。

MWCのNTT&NTTドコモブースでは、遠隔医療や遠隔操作ロボット(上画像)などのほか、離れた場所にいる人の演奏と、目の前にいる人の演奏がぴったり合う遠隔地リアルタイム音楽セッションのデモ(下画像)が行われて注目を集めていました。

5Gではネットワークの仮想化が進み、各サービスごとにネットワークを分割して使うようなこと(ネットワークスライシング)ができるようになります。
4Gまでは、最大限のスループット(処理能力)を確保し、高速大容量通信を提供することを目指した画一的なシステムでした。
しかし、5Gになると、高速大容量を必要とするサービスには高速大容量なAネットワーク、多端末に接続するサービスには低速でも多くの端末が接続できるBネットワーク、クルマの自動運転には低遅延なCネットワーク、というように、要求する条件に合ったネットワークをそれぞれに提供できるようになります。
そのため、各キャリアは通信を使ったサービスやソリューションを構築しようとしている企業と協力して5Gのサービス開発に取り組んでいるわけです。
4Gでは高速データ通信が実現し、スマホが浸透したことで、SNSや動画共有サービスなどを手のひらで楽しめるようになるなど、私たちにとって身近でわかりやすさがありました。
5Gでは、企業が5Gネットワークを活用したサービスやソリューションを提供することで、まわりまわって、知らず知らずのうちに私たちの生活を便利に楽しくしてくれるというスタイルになるかもしれません。
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Photo: 房野麻子
Image: jamesteohart/shutterstock
Screenshot: ライフハッカー編集部 via NTTドコモ