ブライアン・バーグは、カードスタッカー(トランプ積み)のプロです。
彼は4つのギネス世界記録を持っています。その中には支えやテープ、接着剤などなしに自立する最も高いトランプの家を作ったことや、最も大きなトランプの家を作ったことが含まれています。
彼は展示会などでは制作現場に寝泊まりし、前日に組んだ城の塔を目の前にして、自分の進歩を実感します。それは、きっと何にも代えがたく、そしてたしかな喜びに満ちていることでしょう。
私たちも何気ない瞬間に、このような目に見える達成感を得ることができます。汚れた食器でいっぱいのシンクが、空っぽのシンクに変わること。1000個のジグソーパズルが完成し1匹のゴールデンレトリバーの絵になること。
しかし、生産性の向上が常に求められるプレッシャーのある仕事の世界では、ビフォーアフターの満足感を得るのは特に難しいものです。私たちは、常に案件の対応に追われ、毎日が混乱の連続です。
私たちは、「自分が作ったのだぞ、自分が成し遂げたのだ」という感覚を求めて、To-Doリストに従って飛びまわり、そしてさらにカレンダーを予定で埋め尽くします。
ただし、こういった状況を社会学者のジュリエット・B・ショアが「見せかけだけの忙しさ(performative busyness)」と呼んでいます。たいてい、私たちはその中で常に自分らしさが失われていることに気が付くのです。
そのような活動は生産的ではありません。生産的とは、価値あるものを生み出していることです。このコロナ禍の1年半の間に、混乱の中でも私たちは価値を生み出すことができるという驚くべき事実を目にしてきました。
多くの人にとって、自宅で仕事をすることがオフィスで仕事をするのと同じくらい生産的であることや、ほとんどの物事の段取りも想像以上に早まることなどがわかってきました。
また同時に、仕事というものは、ただ自分を取り巻く世界に対する不安を麻痺させ、価値の低い仕事で時間を埋め尽くすだけの、底なし沼のようなものだということもわかってきたのです。
私たちは、これまで以上に仕事のわかりやすい成果を求めています。
今、私たちひとりひとりに、この欲求を満たすための素晴らしいチャンスが与えられています。
世界中の企業がこれからの職場のあり方を再考している状況だからこそ、これまでの基準に基づいた職場に対する期待や思い込みをリセットしたうえで、今後は自分たちの思いのままに仕事の仕方を選択することができます。
私たちはまず、環境を整えなければなりません。
ブライアン・バーグがトランプを積み上げる前に床を掃除し、カードをチェックするように、私たちは「何かを築き、それを目の当たりにし、完成を祝う」といった、たしかなサイクルを回せる状況を整える必要があります。
そのために、あなたの仕事に対するマインドセットをアップデートすることからはじめましょう。小さな変化ですがとても重要な変化です。
わかりやすさを最優先
刻々と変化するコロナ禍で、私たちは、感染拡大防止対策に適応することを求められ、継続的かつ急速な働き方の変化に直面しています。
現在の生活は曖昧さだらけで、先行きが不透明なものばかりです。だからこそ誰もがわかりやすいものを求めています。しかしたいていの場合、そういったものは見つけられません。
マネージャーは、新しいプロジェクトや仕事の全体像を説明しているつもりでも、自分の説明と伝えるべき内容は異なることが多いです。そのギャップを埋めるためには、相当な読心術が必要であることを彼らはわかっていません。
マネージャーは、なぜその仕事をするのか、どのような範囲なのか、誰を巻き込むべきなのか、期限はいつなのかなどを、具体的な言葉ではっきりと説明しません。
そしてチームは、どの方向に、どのくらいの速さで、どのようなリソースをかけたらよいのか、といった点に関してたいてい間違っていて、余計にコストのかかる推測を立てつつ突き進んでいきます。
もしあなたがマネージャーやリーダーであれば、チームはあなたにゆっくりとわかりやすく説明してほしいと思っています。詳細を説明し、価値の高い仕事をしましょう。
「働き方」は今まさに変わりつつある
仕事のある日に目が覚めると、いくつもの不幸が待ち受けているなんてことが多々あります。
本当に意味のある仕事なんてほとんどなく、何故かいじめっ子のような上司は解雇されるわけでもなく、上司が部下を気にかけようとしていても、共感を得るためのツールや時間がないといったことはよくあることです。
コロナ禍による大量退職が現実味を帯びてきています。ハイパフォーマーたちは屋根の上から叫んでいます。「狂ったことをやめろ、さもなければ俺は出て行く」と。
従業員は、自分が軽視されている、負荷が重すぎると感じると、自分の仕事に意味や自律性を持つことができなくなります。仕事の意味や自律性は働くために必要な燃料のようなものです。
変化はすでにはじまっています。Zoomは私たちの私生活を明らかにし、お互いにもっと人間らしくなるための良いきっかけをくれました。
CFOが飼っている猫がキーボードの上を歩いていたり、予算会議で赤ちゃんが泣いていたりすると、私たちはありのままの自分でほかの人とつながりを持つことができます。この暖かさを失ってはいけません。
リーダーは、あるシンプルな方法で、この新しい絆を増幅させることができます。それは「弱音を吐くこと」です。
リーダーが自分自身の欠点やミスを打ち明けることで、ほかのメンバーの信頼を刺激し「この人についていこう」と思わせるのです。
人間はロボットではない
今度ウェブサイトを見ているときに、人間であることを証明するためにスポットライトや自転車を選ばせる画面(captcha)が表示されたら、小さなボックスをクリックしながら、その重要なメッセージに耳を傾けてみてください。
そうです、あなたはロボットではないのです。従来の生産性向上策であるタイムブロッキングは、1日のすべての時間を使って常に行動し、その目標を達成しなければならないと説いています。
しかし、これは持続不可能なスローガンです。私たちには人間のために作られたスケジュールのような柔軟さや融通が必要なのです。人間の混乱を受け入れる余地が必要なのです。
これからの生産性は、より優しくなければなりません。私たちは人々に、息をしたり、考えたり、計画を立てたりするための時間をとることを許可しなければなりません。
私たちは、集団のテンポを遅らせ、休息することを恥ずかしいことだと思わないようにしなければなりません。
まず、会議と次の会議、仕事の依頼とクライアントへの返事、アイデアと計画の実行など、これまでは息つく間もなくつながっていた活動・スケジュールの間に、小さなくさびのような空き時間を挿入します。
このくさびが、あなたの1日に必要な余裕を提供してくれます。
私たちの仕事において、ずっと同じであり続けるものなんてありません。
ブライアン・バーグのカードハウスでさえ、必然的に崩壊します。
しかし、私たちがよりわかりやすく説明することを心がけ、新しい働き方から生まれた思慮深い文化を大切にし、そして自分自身に対するロボットではなく人間だからこそ何ができるかと考えることで、私たちはより多くのビフォーアフターの成果を経験できるはずです。
大規模な変化がなくても、自分の人生の主導権を取り戻すことはできます。コンピュータの横に簡単な紙を置いて、毎朝、ビフォーアフターの瞬間を1つか2つだけ書き出し、それに注目するのです。
そうすれば、その達成感があなたの心の支えとなり、次に何が起こっても大丈夫なように、あなたを満たしてくれることでしょう。
今年の最も生産性の高い人々については、こちらをご覧ください。
Source: Fast Company
Originally published by Fast Company[原文]
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